2011年05月13日

没後20年(ぐらい)経っても… 英国民的コンビ「マーカム&ワイズ」


今日は、イギリスの国民的お笑いコンビをご紹介します。
といっても、最近のお笑いコンビでなくて恐縮なのですが、
今回ご紹介するのは「マーカム&ワイズ」のお二人。

morecambe_and_wise_.jpg


名前通り、マーカムさんとワイズさんによるコンビです。
背の高い黒縁メガネが、エリック・マーカム(Eric Morecambe)。
背の低い人懐っこい顔が、アーニー・ワイズ(Ernie Wise)。

ついでに書いておくと、イギリスではお笑いコンビのことを
「ダブルアクト」「コミックデュオ」などと呼びます。
――さらについでに書いておくと、
海外のコンビはボケやツッコミの担当が明確でないことが多いですが、
マーカム&ワイズもその代表的な例です。



彼らは1941年にコンビを結成。
イギリスの主要な劇場で舞台を踏みましたが、
彼らを国民的存在にしたのは、なんといっても
イギリス国営放送・BBCのコメディ番組
『ザ・マーカム・アンド・ワイズ・ショー』でした。

この番組は1968年に放送を開始、1983年まで放送されました。
1回あたりの放送時間は50分で、2人によるコント
(欧米ではコントのことを「スケッチ」と呼びます)のほか、
ゲストを迎えてのパフォーマンスなどで構成されています。

ザ・ビートルズファンの中には、
初期ビートルズが出演した代表的なバラエティ番組ということで
ご存知の方がいらっしゃるかもしれません。

1968年〜71年まではBBC 2(現:BBC Two)、
1971年〜77年まではBBC 1(現:BBC One)で放送された番組ですが、
1978年〜83年までは民放のITVで制作・放送されました。

この番組で、マーカム&ワイズは一躍国民的人気者となりました。
イギリスにおいてポピュラーな存在になったのです
(「ポピュラー(popular)」という単語を日本語に訳すと
 「大衆的」「人気者」ということになりがちですが、
 実際にはそこに敬意も含まれていて、「国民的英雄」とも訳せます)。



『ザ・マーカム・アンド・ワイズ・ショー』では
数多くの名作コントが生まれましたが、
その中でもとりわけ有名なのは以下の2つでしょう。
英国民のあいだでは、今なおこの2つのスケッチはよく知られています。


★ 『ブレックファスト・スケッチ』
同居しているという設定のマーカム&ワイズが迎える、ある日の朝食。
細かい演技に芸の幅を感じます。



★ 『雨に唄えば?』
映画史上最も有名なシーンの一つ、
『雨に唄えば』の名場面(元ネタはこちら)を見事にパロディ化。
最後、マーカムが“優雅に浸かる”シーンがどこか哲学的ですね。



この2つは、言葉を使わない視覚的なスケッチ
(ビジュアルコメディとか
 ビジュアルスケッチという呼び方をします)なので、
日本人の私たちが見ても面白がることができますね。

どちらのスケッチにも、
コメディの基本がふんだんに盛り込まれています。
2分15秒と2分30秒のこの2つのスケッチに、
ビジュアルコメディのすべての要素が
凝縮されているといっても過言ではありません(?)。



もちろん、こういったコントは
クラシックコメディとして大変素晴らしいものですが、
私がそれ以上に大好きなのは、マーカム&ワイズが番組内で歌った曲。
コントをいくつか披露した後、彼らが番組のエンディングを歌で締めます。

彼らがエンディングで歌う歌は何パターンかあり、
放送回によって異なりましたが、番組のテーマ曲である
『ブリング・ミー・サンシャイン (Bring Me Sunshine)』
最も多く歌われ、イギリス国民にとっても最も愛着ある歌でしょう。



歌詞もメロディーも大変に前向きな、
俗っぽい言い方をすると「人生の応援歌」ですが、
ポジティブ・シンキング (Positive Thinking)という歌も素敵です
(歌詞はこちらのサイトで閲覧することができます)。




1983年、番組は放送を終了しました。
その最終回、エンディングはこんな感じのものです。

<2011年5月15日 追記>
 ……と書きましたが、スタジオセットやクレジット・テロップから見て、
 これは1983年の全シーズン最終回時の映像ではなく、
 60〜70年代あたりの“シーズン最終回”時エンディングだと思われます。
 なので、これは「一旦最終回」の映像ということですね。
 分かりやすくいうと、日本の深夜アニメの「第2期」「第3期」のように、
 海外のコメディ番組やドラマもシーズンごとに区分けされているのです。



ちなみに、動画の終盤に偉そうな太った女性が登場しますが、
この人は毎回、番組のエンディングにだけ出てくるキャラクターです。
「本編にはまったく出ないのに、最後だけ出てきて、
 まるでこの番組は自分の番組だとでもいうように偉そうな挨拶をする」
というお決まりのギャグなのですね。

『ザ・マーカム・アンド・ワイズ・ショー』は
基本的にはファミリー層向けのバラエティ番組でしたが、
こういうシュールなギャグを毎回繰り返すところに、
イギリスコメディの伝統的な「(良い意味での?)悪趣味さ」を感じます。

(なお、この動画の最後の最後に
 作業着姿のマーカム&ワイズが登場しますが、
 これはフィルム保管所の編集マンに扮しているものと思われます。
 メチャクチャに散らかされたフィルムが山になっていますから、
 「泣いても笑っても今夜でこの番組はお終いさ!
  過去のフィルムは全部捨てるよ!」というギャグなのでしょうね。)



マーカム&ワイズは、番組終了後も活動を続け、
テレビゲーム機のコマーシャルなどにも出演しましたが――
1987年5月、黒メガネのエリック・マーカムがこの世を去ります。

享年58歳という若すぎる死でしたが、そう考えると、
『マーカム・アンド・ワイズ・ショー』をやっていた時はせいぜい40代。
上記の動画を見ていると、なんだかもっと年上のように見えます。
今から数十年前の40代は、現在の50代どころか、
下手すると60代ぐらいの重みがあるものだったなのかもしれません。

1999年3月には、人懐っこい顔のワイズも他界しました。
訃報を伝えるその日のニュース映像がこちらです(現在は削除)。




マーカム&ワイズは20世紀を代表するイギリスのコメディアンとなり、
2人とも、21世紀の到来を待つことなくこの世を去りました。
しかし、彼らの記憶と記録は、
イギリス国民に今なお強烈なインパクトをもたらしています。
現在活躍中のイギリスの著名なコメディアンたちも、
彼らのスケッチ(『ブレックファスト』など)を「復刻」したりしています。

2011年、BBCは新しいコマーシャルを制作しました。
「BBC」というテレビ局そのものをPRするキャンペーンコマーシャルです。
このコマーシャルのBGMには
マーカム&ワイズを象徴する一曲『ブリング・ミー・サンシャン』が使われ、
マーカム&ワイズの2人も記録映像として姿を見せます。




――なんと洒落たコマーシャル!
同時に、彼らの番組が終了してから30年以上が経っているのに
二人の音楽や映像が使われていることから、彼らが
現在もイギリスの国民的キャラクターであることが読み取れますね。

(日本でも『ドリフ大爆笑』のテーマ曲をもじった
 ハイボールのコマーシャルが放送されていますが、
 率直に申し上げて、圧倒的なセンスの差を感じてしまいます。)



アメリカにもコメディ番組は多数あり、
シットコム(シチュエーションコメディ
 =観客の笑い声が入っている、スタジオ収録のコメディドラマです)
なんかはむしろアメリカが得意とするところですが、
イギリスのコメディ番組が伝統的に抱えるシュールさ、ナンセンスさは、
見ていて本当に“たまらない”ものがあります。

イギリスのコメディということなら、いま、私が自宅で見ているのは、
もう数年前に放送されたコメディ番組ですが
『マイティ・ブーシュ』というコメディドラマシリーズ。
おかしな動物園を舞台にしたドラマで、これまたシュールで面白い。
観客の笑い声は入っておらず、毎回、ロックミュージカル風の場面がある。
見ているうちにどんどんとハマってしまうようなシリーズです。

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少し前の作品では
リーグ・オブ・ジェントルマン 奇人同盟!』が最高です。
『マイティ・ブーシュ』もホラー風味のある作品ですが、
『リーグ・オブ・ジェントルマン』はホラーそのものといっていいぐらい。
よく「笑いと恐怖は表裏一体」といいますが、
本作の制作者ほどその理念を実践している人たちはいないでしょう。

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『ザ・マーカム・アンド・ワイズ・ショー』は
ファミリー層向けの番組であり、
そこらへんはかなりマイルドになっているのですが、
『空飛ぶモンティ・パイソン』以来(いや、実際にはそれ以前から)
イギリスのコメディ番組に伝統的なのは、
一風変わった、「悪趣味」な面が強いということです。
そして、それらのほとんどは、国営放送のBBCで放送されています。

イギリスではこの前もロイヤルウェディングがあり、
「女王陛下のダンス」などのコントを演じるコメディアンもいましたが、
それを寛容的に許容できるイギリスと、
絶対に許されない日本の違いは何なんだろう、と考えてみました。

細かい論考を書き上げるとキリがないのですが、結論として思うのは、
イギリスも別に「寛容」ではないのではないか、ということ。
「王室を侮辱している!」と批判する人は批判するし、
批判の度合いからいったら、むしろ日本社会より厳しいかもしれない。
それでも英国でコメディが伝統的に「悪趣味」であり続けられるのは、
身分や階級が今なお存在していることとは無縁ではないと思うし、
「コメディ」という文化が社会に根付いているからなのかもしれません。

具体的な結論を断定することは今の私の立場ではためらわれますが、
イギリスのコメディが日本にないものを持っている――、
――いや、イギリスのコメディが
世界独自の水準を誇っていることは紛れもない事実だと言えるでしょう。
(何の結論にもなっていないかもしれませんが……)。



 < P.S >
ホントに余談ですが、
マーカム&ワイズは「M&W」の愛称で親しまれていました。
偶然ながら、私のイニシャルも「M.W」。
この名前に生まれたことよりも、
このイニシャルに生まれたことを嬉しく思う今日この頃です。
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