2014年08月04日

“『SNL』を途中で辞めた男” ポール・ブリテインは「爪」を隠す?


2010年9月――1人の青年が、米国民的コメディ番組
『サタデー・ナイト・ライブ』の準レギュラーに抜擢されました。
その青年の名前は、ポール・ブリテイン(Paul Brittain)。

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1977年2月16日、イリノイ州に生まれたポール・ブリテインは、
屈指の名門:イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で
スペイン語と経済学を専攻し、2000年に同大学を卒業しました。

その後、シカゴでインプロ(即興演劇)のパフォーマーとなり、
2010年に実施されたオーディションの結果、
NBC『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』第36シーズンの
若手レギュラー=準レギュラーキャストに起用されます(当時33歳)。

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『SNL』新準レギュラー決定時の特集記事


しかし、2012年1月、彼は突如として『SNL』を降板しました。
第37シーズン途中――NBCとの契約期間を残してのことです。
彼の降板の理由は未だもって明らかではありませんが、
ブリテインとNBCが“友好的”に別れたことだけは事実のようです。



ブリテインは、1年4か月しか『SNL』に在籍しませんでした。
そのため、彼をフィーチャーしたコントはほとんどありません。
ちなみに、彼が在籍した頃の『SNL』では、
アンディ・サムバーグ(2012年番組卒業)が番組の“顔”でした。

現在、米国の視聴者にとって、ポール・ブリテインは
「『SNL』で活躍したコメディアン」としてではなく
「『SNL』を途中で降板したコメディアン」として記憶されています。
(あるいは、記憶すらされていないかもしれません。)



私がポール・ブリテインのことを知ったのは、
米コメディ界の伝説的存在:ボブ・ニューハートに甥っ子がいて、
その甥っ子がコメディアンをやっていて、
彼の名前はポール・ブリテインである――と耳にしたためです。

2世タレントは脚光を浴びやすい存在でもありますが、
同時に、容赦なく攻撃されやすい存在でもあります。
“あの”ボブ・ニューハートの甥っ子であることは、
コメディアンとしては非常に苦しいことだと言わざるを得ません。

しかし、私が『SNL』で見たポール・ブリテインは、
慎ましげにではあるものの、すでに独特の芸風を展開していました。
たしかにボブ・ニューハートの片鱗を見出すこともできましたが、
もはやそんなことなど関係なく、私は彼のことを好きになったのです。



――ブリテインは『SNL』でいくつかのキャラクターを演じました。
中には、シカゴのインプロ時代から演じているキャラクターもあります。
ここでは彼が中心的に活躍しているコント動画をご紹介しましょう。
(「店員A」や「生徒B」、「ドラコ・マルフォイ」といった役柄は割愛……。)


★Wyndemere
貴族風コスチュームのエキセントリックな男、シーセル(47歳)。
なぜかガールフレンドのお父さんからは気に入られている。


★Sex Ed Couples Therapy
セックスセミナーを主催する性教育講師、“セックス”・エド・ヴィンセント。
……ちなみに、ブリテイン自身もこのキャラはお気に入りらしい。
この動画では変態料理人役でスティーヴ・ブシェミがゲスト出演。


★Hallmark Mother's Day
こんな母の日はイヤだ!
アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960年)を彷彿とさせる。


★Kings of Catchphrase Comedy Tour
架空のスタンダップコメディアン、ゴラン・“ファンキー・ボーイ”・ボグダン。
「Oh〜, funky boy〜!」が決めゼリフの模様。


★Weekend Update: James Franco
『SNL』名物コーナーよりジェームズ・フランコの物真似。
ニュースキャスター役はセス・マイヤーズ(現『Late Night』司会)。


★Frozen Mexican Dinner
便秘のせいで気分が乗らないときはコレを服用しよう!
(完成品が全然美味しそうではないんですが……。)


★Cat Cuisine
高級キャットフードのコマーシャル(のパロディ)。
まあたしかに、ネコの胃袋の中に入ってしまえば同じだけどさ……。



――以上はすべて『SNL』公式チャンネルからの転載です。
ブリテインの出演動画が削除されていないことからも明らかなように、
ブリテインとNBCは決してケンカ別れしたわけではありません。

今年3月のオンライン雑誌インタビューで、ブリテインは
「契約期間中に出演を終了したのは事実だよ」と認めつつも
「『SNL』で素晴らしい体験ができて幸せだった」と述べるだけで、
正確な降板理由を明らかにしようとはしませんでした。

思い返せば、ブリテインの伯父であるボブ・ニューハートも、
1970年代にCBSで放送された自身の冠番組
『The Bob Newhart Show』を自らの手で打ち切っています。
無理をしてまで番組レギュラーであることを望みはしない
……という伯父の生き方を甥っ子が参考にした可能性はあるでしょう。



『SNL』降板後のポール・ブリテインは、
ABCのシットコム『Trophy Wife』に準レギュラー出演したり、
コメディ・セントラルのコント番組『Kroll Show』にゲスト出演したりと、
あくまでも自分のペースで仕事をしているようです。

2015年には、ビッグフットを追うドキュメンタリー風コメディ映画
Nigel & Oscar vs. The Sasquatch』に主演するとのこと。
この映画は大作映画でもなければ注目を浴びてもいませんが、
ブリテインの魅力を伝えてくれる映画にはなるだろうと期待しています。

※3Dアニメ映画『モンスター・ホテル』(2012年)、
 アダム・サンドラー主演『アダルトボーイズ遊遊白書』(2013年)にも
 チョイ役で出演していますが、どちらの作品も、
 ブリテインが『SNL』のレギュラーだった時期に撮影されたものです。



上記のコント動画を見れば分かる通り、
ポール・ブリテインは個性的で見どころのあるコメディアンですが、
私には、彼があえて「本気」を隠しているように思えてなりません。
まさに、「能ある鷹は爪を隠す」。

そして、私が思うに、彼の「爪」とは狂気や不条理性です。
彼の「爪」が国民的長寿番組『SNL』のカラーに合わなかったのは、
ある意味では至極当然のことだったとも言えるでしょう。
『SNL』は“人気者”を生み出すコメディ番組ですが、
ブリテインがいわゆる“人気者”になることは想像しづらいですもの。

人生はいくつもの選択によって成り立つ物語です。
ブリテインの『SNL』降板を疑問視する声は今も存在するでしょうが、
何が「正しい選択」なのかなんて誰にも分かりはしません。
大切なのは「正しく選択すること」ではなく「自分で選択すること」。
――“奇才”ポール・ブリテインは、そのことを私に教えてくれました。


 < P.S. >
彼のツイート(@PaulBrittain3)は結構面白い!
穏やかな文体の中に、時折、彼の「爪」を垣間見ることができます。


★ポール・ブリテイン 写真館はこちら
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2014年07月23日

92歳のカール・ライナーが発明! 全米で人気の「Selfishie」とは?


クリエイターにとって大事なものは年齢ではありません。
クリエイターにとって大事なもの――それは創造力です。
そして彼の場合、その創造力には柔らかな風刺が込められています。



私が愛してやまないカール・ライナー(92歳のコメディ映画監督)。
そしてこれまた愛してやまないコナン・オブライエン(51歳のTV司会者)。
この2人がタッグ(ってほど大げさなものじゃないが)を組み、
ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグもビックリの
新たなオンライントレンド「Selfishie」を創造してしまったのです!



……ところで、「Selfishie(セルフィシー)」ってなに?
Selfie(セルフィー)」なら知ってるけど……。
……えーと、それを事細かに解説するのは野暮というものです。
まずはカール・ライナーとコナン・オブライエンが
テレビ局の控室で制作した「Selfishie」第1弾をご覧いただきましょう。



……そうです! まさにこれこそが「Selfishie」なのです!
……まだ何のことだかよく分からない?
OK。日本にはこんなことわざがあります。「百聞は一見に如かず」。
米国の素人さんたちが制作した「Selfishie」を続けてご覧ください。







――キリがないのでこの辺でやめておきますが、
勘の鈍さには定評のあるあなたにも、「Selfishie」とは一体何なのか、
よくご理解いただけたのではないかと思います。



ちなみに、この「Selfishie」は、
米TBSの深夜帯トーク&バラエティ番組『Conan』7月21日放送分に
ゲスト出演したカール・ライナーが提案した企画。
たしかに、カール・ライナーらしさを感じるユーモア企画です。

「Vine」みたいに日本の若者の間でも流行したりしないかしら?
『ZIP!』『めざましテレビ』辺りで特集してくれないかしら?
……まあそれはともかく、この「Selfishie」をきっかけに、
映画監督カール・ライナーとその作品が再評価されたら嬉しいなあ……。

(“映画監督”カール・ライナーを知らない若年層でも、
 『オーシャンズ11』シリーズでのソール・ブルーム役、
 あるいはロブ・ライナー監督の実の親と聞けばピンとくるかも。
 関根勤さんというのは関根麻里さんの父親のことです、的な説明ですが。)



カール・ライナー(左)とメル・ブルックス(右)は若き日からの盟友です。
2000歳の男性を演じるコント『2000 Year Old Man』で一世を風靡。


カール・ライナー監督『スティーヴ・マーティンの四つ数えろ』(1982年)。
白黒映画の名場面を継ぎはぎして一本にしたというスゴい映画。
この作品以降、ライナーとマーティンはコンビを組んで映画を制作します。


スティーヴ・マーティン&リリー・トムリン主演の隠れた名作
『オール・オブ・ミー 突然半身が女に!』(1984年)。
邦題とは裏腹に心温まる映画で、ラストシーンには思わず涙しました。
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2013年11月22日

モンティ・パイソン、再び空を飛ぶ



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……というわけで、来年(2014年)7月1日、
伝説的コメディグループ「モンティ・パイソン」の“生き残り”5人が
舞台公演で一夜限りの再結成を果たすこととなりました。

今更このブログでモンティ・パイソンの説明をするつもりはありませんが、
多くのコメディ通が語る通り、パイソンズは「コメディ界のビートルズ」。
ミュージカル『モンティ・パイソンのスパマロット』で
“アーサー王”を演じた英モノマネ芸人:ジョン・カルショウは、
「彼らは後進に最も影響を与えたコメディグループだ」と語っています。

映画『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』(1983年)以来となる
約30年ぶりの「パイソンズ再結成」は、
コメディ界においてはまさしく「ビートルズ再結成」レベルの重大事です。
世界中のパイソンフリークが今から来夏を楽しみにしていることでしょう。



ところで、なぜこれまで「再結成」は実現しなかったのか。

TVシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969年〜1974年)時代に
ジョン・クリーズとテリー・ジョーンズが対立していたのは有名な話ですが、
エリック・アイドル企画のミュージカル
『モンティ・パイソンのスパマロット』が上演中だった2011年頃からは、
ジョン・クリーズとエリック・アイドルの対立が浮き彫りとなりました。

対立の理由は、「エリックがあまりにも(金銭的に)ガメついため」。
(詳細はこちらのブログでも伝えられています。)
ジョンと対立したことでエリックは他のメンバーとも疎遠となり、
ここ数年は「エリックVS他メンバー」という構図が築かれていたのです。

だからこそ、「再結成」を一番喜んでいるのはエリックのような気がします。
エリックは、連日Twitterで「再結成」に関する情報をつぶやき、
「5人のパイソンズ」の会議風景を写メってアップしているほどですからね。
ジョンとエリックは隣同士に座っているし、一応仲直りしたみたい。




では、1983年の『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』以来、
パイソンズはこれまでまったく共演してこなかったかのかというと、
全然そういうわけではありません。

ジョン・クリーズ主演のコメディ映画『ワンダとダイヤと優しい奴ら』や
テリー・ギリアム監督のSF映画『未来世紀ブラジル』には
(関根勤さんも崇拝する)マイケル・ペイリンが助演していますし、
テリー・ジョーンズ&マイケル・ペイリンのコンビは
傑作TVコメディシリーズ『リッピング・ヤーン』を制作していますし、
諸々挙げ始めるとキリがないほど「個別の共演作」は存在します。

また、「ジョンVSエリック」の対立を際立たせた(?)
ミュージカル『スパマロット』のブロードウェイ公演初演(2005年)では、
若干ぎこちないながらも“生き残り”5名が勢揃いしています。
(まだこの頃は、ジョンとエリックは仲違いしていなかったのです……。)

2008年に行われたチャールズ皇太子の還暦記念イベントでは
古典的バレエ『白鳥の湖』に乗せてスケッチ(コント)を披露していますし、
2009年には4人で舞台『ノット・ザ・メシア』を公演していますし、
何を隠そう、今年(2013年)10月には
『人生狂騒曲』Blu-ray 特典映像用に5人の鼎談が収録されました。



今度の「パイソンズ再結成」とは、彼らの再集結のことではなく、
あくまでも「モンティ・パイソンのスケッチ復活」を意味するのです。
(――もっとも、パイソンズが活動を休止した1980年代以降、
 英国のみならず世界中で「パイソン的笑い」は溢れに溢れましたが、
 パイソンズ自身が「パイソン的笑い」を復活させるのはこれが初めて。)



気になるのは、来年7月に行われる復活公演の内容ですね。
現地時間21日に開かれた記者会見では、ジョン・クリーズが
「観客は名作コントの復刻上演を望んでいるのだろうが、
 我々はありきたりなことをしたくはないんだ」と語っており、
パイソンズ自身による新作スケッチの制作・上演が示唆されました。

パイソンフリークの方の中には
「全盛期ほどの毒があって面白いスケッチは観られないだろうが
 それなりに楽しいものが観られそう」とお思いの方もいるでしょうが、
そんな「控えめな期待感」は良い意味で裏切られることになるでしょう。
上述のチャールズ皇太子還暦記念公演からも伺えるように、
現代においても斬新な「笑い」が表現されることは間違いありません。



約30年の時を超えての「モンティ・パイソン復活」。
故グレアム・チャップマンを除く“生き残り”5名が勢揃いし、
一つのステージのために共同作業を再始動することとなりました。
TVスペシャルでも映画でもなく舞台で「復活」するというところが、
UKコメディの本流の流れを汲んでいてこれまた嬉しいじゃありませんか。

なお、エリックは天国のグレアムにも出演依頼しているそうなので、
もしかしたら6人での共演が実現するかもしれません(笑)。
――脚本会議でまたタイプライターが飛ばないことを祈ります。

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モンティ・パイソン復活へ! (2013年11月21日撮影)
Photo by Ian Gavan/Getty Images.
posted at 23:59 | Comment(0) | TB(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする |
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