2015年03月14日

ファンタジックでも穏やかな“説得力” ―小柳枝の『抜け雀』


今日は、国立演芸場 3月中席 へ行ってきました。
主任は、春風亭小柳枝師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 柳亭楽ちん 『饅頭こわい』
落語:(交互) 春風亭吉好 『動物園』
漫談:新山真理
落語:(交互) 春風亭笑好 『片棒』
曲芸:翁家喜楽・喜乃
落語:柳亭楽輔 『天狗裁き』

 〜お仲入り〜

奇術:(交互) 山上兄弟
落語:(代演) 春風亭柳橋 『禁酒番屋』
俗曲:桧山うめ吉
落語:(主任) 春風亭小柳枝 『抜け雀』



★楽ちん 『饅頭こわい』
楽輔師匠譲りのテンポよい語り口。
人物によって使い分ける声色が功を奏している。
「毛虫なんてものは……」の件で台詞が飛ぶも、
「お前が変なこと言うから忘れちゃったじゃねえか」。

★吉好 『動物園』
デパートや結婚式での余興ネタをマクラで語り、
小ネタやダジャレを散りばめた『動物園』へ。
時代設定は一昔前だろうか。
“ブラックライオン”の形態模写で拍手が起きた。

★真理
北陸新幹線(本日開業)のネタなどを披露した後、
『芸協と落協』を比較的長尺で。
真理先生、実は高座の上でほとんど笑顔を見せない。
マジメな口調で喋るからこそ活きる毒舌漫談だ。

★笑好 『片棒』
ケチ小噺「金槌」を経て『片棒』。
猫ひろしの一発芸を彷彿とさせる“銀次郎”の暴走劇
――笑好師匠の新たな可能性を感じた。
「ポーツマス! ポーツマス!」とかやってほしい。

★喜楽・喜乃
「五階茶碗」→「卵落とし」→「輪の投げ合い」。
もちろん「卵落とし」は大成功だったが、
相当の集中力が必要な芸なのだと改めて感じる。

★楽輔 『天狗裁き』
「エボラ出血熱」「熱中症」ネタなどで場を暖め、
「小便の夢」ネタから『天狗裁き』へ。
このハイテンポでスピーディな喋りと
密度の高いクスグリが、「楽輔落語」の持ち味だよなあ。
耳で聴いて楽しく、目で見て楽しい高座だった。

★山上兄弟
約1年ぶりのイケメン兄弟にドキドキ。
やや上滑り気味のトークを挿みつつ、
「棒一本・空中浮遊」「剣刺し」「兄弟交換BOX」など
国立演芸場ならではの大がかりなマジック。

★柳橋 『禁酒番屋』
柳好師匠の代演。
恒例の「近頃の大学生」マクラの後、
聴き取りやすい口跡で『禁酒番屋』に入る。
柳橋師匠は“小市民”たちを活躍させるのが上手い。

★うめ吉
喉を少しやられているといううめ吉さん。
「梅が咲いたか」「腹の立つときゃ〜」
「新土佐節」を歌い上げ、踊り『夜桜』で〆る。
踊りの際には、高座の襖が4色の照明で彩られた。

★小柳枝 『抜け雀』
「お日様・お月様・雷様の旅」の小噺や
今と昔では旅行の方法もだいぶ変わったというお話、
かつて「駕籠かき」は蔑称だったというお話を経て、
ファンタジックで、滑稽で、人情的な『抜け雀』へ。
名台詞「うちは働けば働くほど貧乏になる」に感激する。
小柳枝師匠のさらりとした話芸によって、
登場人物や宿場町・小田原の“空気”、部屋の畳の匂い、
朝の陽射しまでもが客席に伝わってくるようだった。



――『抜け雀』という噺は、実はとっても不思議な噺です。
設定が『左甚五郎』シリーズと似ているようで異なるし、
噺の主人公を誰と捉えればよいのかもいまいちハッキリとしない。
そもそも、「超能力者」とでも呼ぶべきあの親子は何者なのか。
「画の中の雀が飛ぶ」というファンタジックな要素も相まって、
古典落語でありながらも、この噺には多くの“謎”が詰まっています。

しかし、そこは江戸落語の名手:小柳枝師匠。
ファンタジックな噺が含有する不安定さを活かしつつ
「名人上手」論、「人生の回り道」論までをも噺の中に盛り込んで、
『抜け雀』という噺を“説得力”ある一席に仕上げていました。
私なんぞは、緞帳が下がってしばらく余韻に浸ってしまいましたよ。

小柳枝版『抜け雀』は人間関係がギスギスしていないのも特徴的で、
経済的に貧乏であっても、客が無一文だと判明しても、
いちいち腹を立てたり、喧嘩をしたり、声を荒げたりなどしません。
――この噺がどこか穏やかなのは、噺の舞台が
江戸ではなく小田原であることとも関係があるのかもしれませんが、
やっぱり、師匠ご自身の穏やかさに拠るところが大きいのでしょうね。


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2015年01月03日

今年も初笑いは歌丸から! NHK中継入りの末廣亭初席'15


明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


今日は、新宿末廣亭 正月初席 第二部 へ行ってきました。
主任は、桂歌丸会長。

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毎年恒例、友人との末廣亭初席鑑賞会。
今日はNHK総合テレビの中継が入るということで、
枝太郎師匠と陽・昇先生の出番の間に妙な空白ができたり
可楽師匠と小遊三師匠の出番が入れ替わったりと、
例年とはやや異なるイレギュラーな「寄席初め」となりました。



 <本日の番組>

落語:(交互) 三笑亭朝夢
漫談:(交互) 新山真理
落語:(交互) 三遊亭遊雀
奇術:(交互) 松旭斉八重子プラスワン
落語:(交互) 桂枝太郎
漫才:(代演) 宮田陽・昇
曲芸:(代演) 鏡味味千代
落語:三遊亭小遊三 『ん廻し』
落語:(交互) 桂右團治 『源平盛衰記』
漫才:(交互) 東京太・ゆめ子
落語:三笑亭可楽 『臓器屋』

 〜お仲入り〜

落語:(交互) 桂歌蔵
落語:(交互) 瀧川鯉昇 『鰻屋』
漫才:(交互) 東京丸・京平
落語:(交互) 桂歌春 『九官鳥』
落語:笑福亭鶴光 『秘伝書』
曲ごま:やなぎ南玉
落語:(主任) 桂歌丸 『鍋草履』



★朝夢
何やら喋っているところで入場、我々は2階前方へ。

★真理
「漫談の!」というおなじみの挨拶に始まり、
落協と芸協の違い、歌丸師匠の人間国宝ネタなどを繰り出す。
しかしながら、正味2〜3分で次の演者にバトンタッチした。

★遊雀
私が初席で遊雀師匠を観るのはこれが初めてかも。
この後のテレビ中継に“客目線で”触れるあたりがさすが。
歌丸師匠の「合掌」ネタで笑いを獲り、早めに下がる。

★八重子プラスワン
紐の手品、ハワイアン2曲分。
薔薇の手品は見応えありだが、やや長く感じられた。

★枝太郎
“この後から”中継が入るということで、
1階後方のNHKカメラに向かって自己アピールネタ。
「NHKさん、ぜひ『演芸図鑑』お願いします」。
時計が見辛かったらしく、途中、前座に太鼓を叩くよう頼む。
『サザエさん』小噺も織り込んで、時間調整までをもネタに。
こういう時の枝太郎師匠は実に頼りになる。

★陽・昇
番組ディレクターの前説を経て、ここからテレビ中継。
「〜ス」や円周率ネタなどで場を和ませた。

★味千代
五階茶碗→傘廻し(升)。
初席での太神楽・曲芸は異様に盛り上がるものだ。

★小遊三 『ん廻し』
可楽師匠と交替で、本来は仲入り前の小遊三師匠が登場。
江戸っ子のキャラクター、テンポよい会話、
これぞまさに小遊三師匠の面目躍如といったところ。

★右團治 『源平盛衰記』
テレビ中継が終了し、ここから通常営業へ。
「右團治と書いてビマジョと読む」。

★京太・ゆめ子
どこまでが計算なのかは不明だが、
落ち着きモードになった客席をトチリ芸で再び盛り上げた。

★可楽 『臓器屋』
前座さんに誘導されて座布団の上へ。
私は可楽師匠の存在が大好きなので正月から目出度いのだが、
ご本人が語るように、その話芸はまさに「リハビリ」。
「ノーベル物理学賞受賞者の“天野”は小遊三の本名」
「通信簿で2→3」などのマクラを経て『臓器屋』に入るも、
楽屋から太鼓が鳴り(実に間が悪かった!)、緞帳が降りる。

★歌蔵
歌丸ネタで会場に活気を取り戻したのがこの人。
明朗なキャラクターは本日の食い付きにピッタリだった。

★鯉昇 『鰻屋』
「酒好きは目が合うだけで……」ということで『鰻屋』。
限られた時間の中で満足度の高い落語を聴かせた。
「秋葉原の電気ウナギ」でサゲる。

★京丸・京平
登場するや否や、「殿様と三太夫」→「新婚旅行」。
寝ている客をイジって笑いを獲っていた。

★歌春 『九官鳥』
おなじみの「楽屋に住み込みたい」ネタを経て、
もはや歌春師匠の代名詞となった『九官鳥』の小噺へ。

★鶴光 『秘伝書』
「〜引き」の小噺などで笑わせてから、
鶴光流のサゲが楽しい『秘伝書』(『夜店風景』)をかける。
今日の客は人数の割にはパッとせず、大爆笑には至らず。

★南玉
独楽を廻してから、真剣刃渡り→糸渡り。
新年早々、南玉先生のカッコいい芸を観ることができて感激。

★歌丸 『鍋草履』
一度緞帳が下がり、歌丸師匠が板付きで登場。
マクラでは、入院ネタ、『笑点』50周年ネタを語り、
定番の「5代目今輔師匠の教え」→『鍋草履』ルートを踏む。
これまで幾度となく聴いてきた歌丸版『鍋草履』だが、
「ばか」「あんにゃもんにゃ」の件は何度聴いてもたまらない。
歌丸師匠の落語の背景には、庶民サイズの愛情がある。



――今年も末廣亭初席から幕を開けた私の寄席見聞録。
今年はNHKの中継があったためにイレギュラーな構成でしたが、
小遊三・鯉昇両師匠の十八番を聴くことができて何よりでした。
この日だけ仲入り前の出番となった可楽師匠のボヤき芸も、
初席の雰囲気に合う合わないはさておき、私には有り難かったです。

とはいえ、やっぱり寄席は何でもない普段の時に来たいなあ……。
これまで正月興行・GW興行でそう感じたことはなかったのだけど
(正月興行・GW興行はあくまでも顔見世的なものだから)、
客数の割に盛り上がり切らない初席だとそう感じてしまいます。
何だかんだ言って、私は一人ひとりの「芸」と向き合いたいんだな。
というわけで、私は今年も(それなりに)寄席に通うことになりそうです。


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 <ちなみに>
末廣亭第一部主任の米丸師匠は風邪のため5日まで休演とのこと。
本日の代バネは小遊三師匠がお勤めになった模様です。
米丸師匠と同い年の笑三師匠は池袋第一部でトリを勤めています。
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2014年12月28日

本年千穐楽! “自由演技”の白鳥&彦いち VS. 天どん『芝浜』


今日は、池袋演芸場 12月下席 昼の部 へ行ってきました。
主任は、三遊亭天どん師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 柳家さん坊 『つる』
落語:(交互) 三遊亭粋歌 『卒業』
落語:(交互) 桃月庵白酒 『浮世床 -本-』
落語:(交互) 蜃気楼龍玉 『親子酒』
漫才:ホンキートンク
落語:(交互) 林家彦いち 『掛け声指南』
落語:(交互) 三遊亭白鳥 『隅田川母娘』

 〜お仲入り〜

落語:(交互) 古今亭志ん八 『取扱説明書店』
落語:(代演) 三遊亭歌奴 『掛取り』
太神楽:翁家社中
落語:(主任) 三遊亭天どん 『芝浜』



★さん坊 『つる』
2014年ラスト寄席はさん喬門下のさん坊さんから。
前半は落ち着いた語り口で「物語」を聴かせるが、
“辰っちゃん”登場の件からオリジナル色が出て盛り上がる。
「……あいつ、なんであんなに無関心なんだろう」。

★粋歌 『卒業』
17年間、“ユーザー”の成長を見守ってきたストーカー。
“女”の地味でパッとしない部分をむしろ愛し、
「気持ち悪い!」「変態!」と言われて喜ぶ。
女性側が穏健に接していることもあり、噺に不快感はない。
粋歌さんには今後も「変態」的な新作を創り続けてほしい。

★白酒 『浮世床 -本-』
龍玉師匠の芸術祭受賞に触れ、「龍玉さんは銭ゲバ」。
「今日は翁家社中あたりで帰ったほうがいい」と語って、
ゆったりとした空気の『浮世床』に入った。
『太閤記』をモーリス信号のように読み上げたり、
絶妙な間で「マツコウ」をリピートしたりで爆笑を得る。

★龍玉 『親子酒』
兄弟子の紹介を受け、「私が銭ゲバです」。
龍玉版『親子酒』に登場する“女房”は熱燗作りの名手。
龍玉師匠のこの噺を聴くと、いつも熱燗をいただきたくなる。
「お腹の中の酒が『よろしく』って」などの台詞もたまらない。

★ホンキートンク
血液型挨拶を経て、2014年のニュースを振り返る。
オボカタさん、サムラゴウチさん、ASKAさん……。
時事ネタがスピーディに繰り出され、客は息つく暇もなし。
後半では「芸能人だから電車通勤は〜」などのネタも。

★彦いち 『掛け声指南』
「ここからは自由演技」とことわって自作の新作へ。
おなじみの「八っつぁん、熊さん、ご隠居さん……」の流れで、
「一生懸命なのがムアンチャイ」と挟み込んでくる可笑しさ。
情熱的だが語学力が足りないタイ人青年ムアンチャイは、
仕種がいちいち可愛らしく、母性本能をくすぐるタイプである。
「的確に具体的に」というフリ、「細かく!」「シャブ!」
「目の前に来たら出す!」などの伏線がきれいに回収された。

★白鳥 『隅田川母娘』
今年最後の寄席ということで、やんごとなき新作を。
「これはアイコさまを応援する話。引いた客こそ非国民!」。
外の世界を冒険したいアイコさまと庶民の交流を通して、
不謹慎さは徐々に薄れ、だんだんと心が温かくなるから不思議だ。
恋もロマンスもないがホッピーはある、『浅草の休日』。
今年の聴き納めに、哄笑と感動(?)の名作を聴けてよかった。

★志ん八 『取扱説明書店』
食い付きは、神保町でよく本を買うという志ん八さん。
この噺の当初の主語は“『キン肉マン』愛読者の男”なのだが、
会計の場面で噺の主人公が“店主”にスライドする。
その後、“詐欺被害者の女”“ロック歌手志望の男”など、
『代書屋』よろしく客が次々と来店してくる面白い構成。

★歌奴 『掛取り』
同県人:文治師匠と盲導犬のネタを経て、ザ☆年の瀬ネタ。
「狂歌」→「寅さん」→「芝居(ハメモノ入り)」と、
聴く者をまったく飽きさせない陽気な高座を展開する。
特に「寅さん」パートでは渥美清モノマネも挿み込み、
替え歌や「前田吟」「さくら」で客の遊び心をくすぐっていた。

★翁家社中(小楽・和助)
お二人で「傘」→「毬」→「五階茶碗」→「ナイフ」。
太神楽を見ると気持ちが引き締まり、
「自分は寄席に来ているんだなあ」という嬉しさを感じる。
本日は、「今年最後の太神楽」感で普段以上にしっとり。

★天どん 『芝浜』
「5時の時計アラームは切っておいてください」。
天どん師匠の『芝浜』は奇を衒わず「基本」に忠実だが、
前半を貫く「めんどくせぇなぁ〜、楽してぇなぁ〜」という台詞で
『芝浜』という古典作品に現代的なセンスをもたらしている。
夫婦心中を唆す“勝五郎”を“女房”が撲つという演出や
“勝五郎”の口癖が現在は変わったという設定も興味深いのだが、
やはり、“勝五郎”のダラけた怠け者キャラが好印象だった。



――というわけで、文字通り年内最後の寄席定席は、
豪華な出演者が目白押しだった池袋演芸場の昼席で迎えました
(ぜひ白鳥師匠を最後に聴いておきたかったのです!)。
早くも開演時に立ち見客が出るほどの大盛況ぶりで、
トリの天どん師匠の時間までに退出する客もほぼいなかった様子。

まさか聴くことになると思わなかった天どん師匠の『芝浜』は、
「(勝五郎は)もとより腕がよかった。……誠に都合のよい噺で」
などのクールな地語りに象徴されるように、
『芝浜』という古典落語自体へのツッコミ精神を基礎にしています。
とはいえ、噺の筋や設定は基本的に「古典」を踏襲しているので、
天どん版『芝浜』の「物語」に聴き入る客の姿も見受けられました。

――さて、本日で今年の私は「寄席納め」なわけですが、
昨年に比べると、今年の私はあまり寄席に行けなかったかなあ……。
それでも、いくつかの寄席でいくつもの好演・名演に出会えました。
寄席は一期一会、その日その時しか味わえない娯楽のエリア。
いつだって平常運転なのに、いつだって異常気象な「夢の国」です。
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