2015年10月10日

屈折したところも、素直なところも… “ひねくれ”可楽の『景清』


今日は、国立演芸場 10月上席 へ行ってきました。
主任は、三笑亭可楽師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 瀧川鯉佐久 『寿限無』
落語:(交互) 笑福亭竹三 『手紙無筆』
コント:コント青年団
落語:三笑亭可龍 『干物箱』
動物ものまね:江戸家まねき猫
落語:桂伸乃介 『長短』

 〜お仲入り〜

講談:(代演) 神田紫 『春日局』
落語:三遊亭とん馬 『代り目』
漫才:新山ひでや・やすこ
落語:(主任) 三笑亭可楽 『景清』



★鯉佐久 『寿限無』
「長野っぽい芸名だが秋田出身」と打ち明け、
名前は大切ということで『寿限無』へ。
後半では“母”が「寿っちゃん」と発してしまう……。

★竹三 『手紙無筆』
上方協会入りを先方の理事会で否決されたという。
見台や張扇、小拍子について解説し、
師匠・鶴光師匠の話芸を彷彿とさせる『手紙無筆』。

★コント青年団
国家主席も飛び出す(?)日本史教師と生徒のコント。
「ぼくは芸人人生をかけて……」
「そんなところに芸人人生かけなくていいんだよ」。

★可龍 『干物箱』
「昨日の客席の中学生と比べると……」と語り、
“善公”のキャラクターが愉快・軽快な『干物箱』。
可龍師匠は奇を衒わない。それでいて、
現代の観客に「古典落語」を届けようとしている。

★まねき猫
自身の生い立ちを簡単に紹介してから、
“目覚まし時計”や“鳩時計”の「通信販売」ネタへ。
唐突に挿み込まれる“口紅”は変化球ということで。

★伸乃介 『長短』
江戸っ子と田舎者の「道案内」の小噺を経て、
人物の台詞、一言一言を噛み砕くような『長短』。
かけ合いの面白さでそこそこウケていた。

★紫 『春日局』
陽子先生の代演。
“竹千代”と“国松”の人物像を演じ分け、
土曜の午後の穏やかな客席をピシッと引き締める。

★とん馬 『代り目』
まずは「落語教室」のマクラで笑いを誘う。
『代り目』ではテンポよい語り口で観客を惹き込み、
途中で自ら三味線も弾き、見事にサゲまで。
外はあっさり、中はしっかりの充実した高座だった。

★ひでや・やすこ
「自分史を書きます!」というネタで、
ひでや先生の上京から結婚、浮気までが語られる。
ひでや先生は浅草でエノケン・ロッパを観ているのか。

★可楽 『景清』
51年前の東京五輪の思い出(フラッグ持参)、
中東歴訪の思い出(カフィーヤ持参)、眼の手術の話、
「差別用語を含むので古典は難しい」という話を経て、
可楽師匠自身の想いが伝わってくるような『景清』へ。
奇跡的に眼が見えた時の主人公の驚きようには、
普段の可楽師匠の高座では見られない迫真さがあった。
人間には屈折したところもあれば素直なところもある。
だからこそ、ひねくれている人間が素直になった瞬間に
ドラマは生まれるのだし、そのドラマは人を感動させる。



――というわけで、旧「体育の日」(10月10日)である本日は、
芸協の大ベテラン・可楽師匠の主任興行(千秋楽)を楽しみました。
屈折性と素直さが実は表裏一体であることを表す『景清』は、
“ひねくれキャラ” 可楽師匠の「ハマりネタ」と言えるでしょう。
可楽師匠の『景清』は過去にも聴いたことがありましたが、
今回、可楽師匠のやりたかった高座に立ち会えたような気がします。

ところで、「お目当て」以外の噺も聴けるのが寄席の「いいところ」。
しかし、それは状況次第では「悪いところ」になるかもしれません。
正直言って、とん馬師匠は本日の私の「お目当て」ではなかったけど、
それゆえか、本日のとん馬師匠の高座には感激させられました。
結局のところ、落語は「What」ではなく「How」の芸能なのですよね。
「これからもいい落語家を聴いていこう」と決意(?)を新たにしました。


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2015年08月15日

「歌丸の圓朝噺」の集大成? 鬼気迫る熱演、『怪談乳房榎』


今日は、国立演芸場 8月中席 へ行ってきました。
主任は、桂歌丸師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 雷門音助 『道灌』
落語:(交互) 三遊亭遊里 『道具屋』
落語:(代演) 春風亭柳好 『壺算』
歌謡漫談:東京ボーイズ
落語:桂歌助 『都々逸親子』
落語:雷門助六 『こり相撲』〜踊り『かっぽれ』

 〜お仲入り〜

落語:桂小南治 『四人癖』
音曲:松乃家扇鶴
落語:(主任) 桂歌丸 『怪談乳房榎』



★音助 『道灌』
開口一番は助六門下の音助さん。
爽やかなルックス、安定した語り口、
それでいて、早くもこの人ならではの存在感もある。
卓越した「総合力」を持つ前座さんの一人だ。
サゲは「暗ぇから提灯借りに来た」(「角が」なし)。

★遊里 『道具屋』
音助さんの前職や噺家の学歴に触れてから、
“与太郎”の初仕事を描いた噺『道具屋』へ。
遊雀師匠の高座のようなメリハリのある高座を展開し、
老若男女すべての観客に立ち向かっていった。

★柳好 『壺算』
文治師匠の代演。
本日が終戦記念日であることに一言だけ触れ、
師匠・柳昇にとって皇室は特別な存在だったと語る。
秋篠宮殿下を前にしての「御前落語」のエピソードや
沖縄の「幻の泡盛」にまつわるネタで客の心を掴み、
この噺特有のクドさが抜けた、馴染みやすい『壺算』を。

★東京ボーイズ
「なぞかけ問答」→「AKB」→『ふるさと』合唱
→『静かな湖畔』輪唱、そして『かわいいあの娘』で〆る。
会場をより一層「楽しい」雰囲気に盛り上げた。

★歌助 『都々逸親子』
『鶴の恩返し』や『浦島太郎』の小噺版を紹介。
「勉強机に向かう子どもは微笑ましい」ということで、
やけに色っぽい“息子”が活躍する『都々逸親子』へ。
今席唯一の「歌丸門下」として高座上での役目を果たす。

★助六 『こり相撲』〜あやつり踊り『かっぽれ』
おなじみの「ビトン」ネタなどを済ませ、
相撲場の客席でのあれやこれやを描く『こり相撲』。
その後、これまたおなじみのあやつり踊りを披露し、
夏休みの客席から拍手や歓声を受けていた。
踊りを終え、無言で去る助六師匠の後ろ姿はカッコいい。

★小南治 『四人癖』
今年も、本日分までの「大入り袋」を客に見せ、
この定番マクラを知る客たちから大きな拍手を浴びる。
「これが私にとっての『あやつり踊り』のようなもの」。
『四人癖』は小南治師匠のニンに合った噺で、
登場人物のエキセントリックな部分が強調されていた。

★扇鶴
扇鶴先生のキャラを知らない客からはどよめきが(笑)。
「去年の今夜は知らない同士」などの都々逸を歌い、
絶妙な風情を残して楽屋へ帰っていく。
これもまた、私にはカッコいいと思える「芸人の後ろ姿」。

★歌丸 『怪談乳房榎』
『中の舞』の出囃子、板付き・釈台付きで登場。
入院中に医師から「体重40kgになれ」と命令されたことや
今度は「50kgになれ」と言われるだろうことを語った後、
本来は三部作の『怪談乳房榎』を今日は一度で、と紹介する。
――絵師・重信の妻と関係を持った浪人の弟子・浪江は、
不倫だけでは飽き足らず、「主張」先で重信の殺害を企む。
重信の使用人・正介を巻き込み、重信を殺害するのだが……。
途中、照明は変転し、客を驚かせるようなハメモノも入る。
これまで何度も歌丸師匠の「圓朝噺」を拝聴してきたが、
本日の『怪談乳房榎』はこれまでになく鬼気迫る熱演だった。



――いくら名編集者・歌丸師匠が構成し直したとはいえ、
三遊亭圓朝作『怪談乳房榎』は、本日の型でも約1時間の長編。
退院したばかりで病み上がりの歌丸師匠にとっては、
決して安易に語ることのできるような噺ではなかったはずです。

ところが、本日の歌丸師匠の『怪談乳房榎』は、
人間の「弱さ」「愚かさ」、そして「苦しさ」を完全に網羅し、
長講と感じさせないほどの娯楽性と芸術性に満ちていました。
もしかしたらこれが「歌丸の圓朝噺」の集大成なのかもしれない
――と思わせられるような、鬼気迫る熱演にして「名演」でした。

歌丸師匠が今月(8月)11日にこの興行で復帰した際、
NHKニュースは、歌丸師匠が「“熟練”の話芸で客を惹き付けた」
などと報じていましたが、冗談言っちゃいけない。
この興行で、歌丸師匠は“気迫”あふれる高座を展開しています。

今から4年前、『東京かわら版』のインタビューで
師匠本人が語っていた通りの「勢いのある」高座です。曰く――
 やっぱり大病すると人間ガクっと来ますよね。ガクっと来ると芸までガクっとなっちゃうんですよ。よく「枯れた芸」って言うじゃないですか。アタシはどんどん新芽を伸ばし、葉を付け、花を咲かせ、実を持たせる。そういう勢いのあるものの方がいい。枯れた芸なんぞなりたくないですよ。枯れたもの見たってそんなの面白くもなんともない。枯れた植木見たって面白くもなんともねぇもん。
(『東京かわら版』平成23年10月号 「今月のインタビュー 桂歌丸」 p.10)

あまり大袈裟なことを言うつもりはありませんが、
私がこの時代に生まれたこと、この日本に生まれたこと、
「落語」という芸能を楽しむ人間として育ったこと、
そして歌丸師匠のこの『怪談乳房榎』を拝聴したということ――。
そのすべてが私の誇りであり、何物にも代え難い「財産」です。


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2015年06月28日

暑い日ならではの“涼しい”珍品! 藤兵衛『江ノ島の風』


今日は、鈴本演芸場 6月下席 昼の部 へ行ってきました。
主任は、桂藤兵衛師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 柳家小多け 『手紙無筆』
落語:(交互) 柳家さん光 『新聞記事』
太神楽曲芸:鏡味仙三郎社中
落語:古今亭菊丸 『たがや』
落語:桃月庵白酒 『真田小僧』
漫才:ホンキートンク
落語:春風亭一朝 『唖の釣り』
講談:(交互) 宝井琴調 『大岡政談 -人情匙加減-』
ギター漫談:(代演) ぺぺ桜井
落語:橘家圓太郎 『親子酒』

 〜お仲入り〜

奇術:アサダ二世
落語:橘家文左衛門 『時そば』
落語:三遊亭歌武蔵 『支度部屋外伝』
粋曲:柳家小菊
落語:(主任) 桂藤兵衛 『江ノ島の風』



★小多け 『手紙無筆』
開口一番は小里ん門下の小多けさん。
淡々とした口調で変なことを言えるので、
将来、与太郎噺とかがハマりそう。
座布団返しの時に客から芸名を聞かれていた。

★さん光 『新聞記事』
「おじさん」時代の仁鶴師匠ネタを経て
(逆に現在の芸名が覚えられなさそうだが……)、
軽快ながらも聴き応えある『新聞記事』。
声量も、物語の整理の仕方もとっつきやすい。

★仙三郎社中
「傘廻し」→「五階茶碗」→「土瓶」→「投げ合い」。
団体客も多かったので会場は大盛り上がり。
寄席の楽しさは太神楽曲芸の有無によって左右される、
ということはたしかにあると思う。

★菊丸 『たがや』
実は本日の私のお目当てその@だったりする。
「熱中症警報が出た。4時半頃に解かれる予定」
というご挨拶を経て、「掛け声」のマクラ。
本日のような暑い日にふさわしい『たがや』は、
アクションも見どころ満載のシビれる一席だった。

★白酒 『真田小僧』
寄席や電車内での子どもなどのマクラから、
一瞬の無駄もない爆笑の『真田小僧』へ。
白酒師匠の『真田小僧』は、
“おとっつぁん”のテンパり具合も聴き逃せない。

★ホンキートンク
血液型紹介に始まり、「有名になりたい」
(利さんの女性役が最高に気持ち悪くて魅力的!)、
そして最後は「嵐」で〆る。
客席の動きに反応する弾さんのアドリヴ性はさすが。

★一朝 『唖の釣り』
「イッチョウケンメイ」の挨拶で笑いを取り、
無邪気な“与太郎”が活躍する『唖の釣り』に入る。
一朝師匠は「唖」という単語を使わないが、
そのために“役人”の人情味がより一層伝わってきた。

★琴調 『大岡政談 -人情匙加減-』
ご挨拶代わりの「カタカナ語禁止」ネタを経て、
実は重苦しい要素もある『人情匙加減』へ。
“大家”夫妻は絶妙なキャラクターをしているし、
「勧善」はともかく「懲悪」の物語は心地よい。

★ぺぺ桜井
小猫さんの代演。
ペペ先生が弾くエルガーの『愛の挨拶』、
聴く度にいつも感動してしまうのは私だけ?
(2年半前に聴いた時は泣きそうになったほど……。)
「発車メロディ」ネタは初めて聴いた。

★圓太郎 『親子酒』
「寄席の出入口」ネタで客の心を惹き付け、
登場人物が全員お茶目な『親子酒』。
圓太郎師匠は、禁酒の経緯をやや丁寧に説明し、
“大旦那”の「酒呑みたい」感をはっきりと。
圓太郎落語はいつも「痒い所」に手が届いている。

★アサダ二世
「ハンカチ&紙コップ」→「紐」→「トランプ当て」。
「寒い時と暑い時は失敗しやすい」と語るも、
その前口上を逆手にとって飄々と舞台を展開する。
う〜ん、マジでクールだぜ!

★文左衛門 『時そば』
「これだけ(客が)いれば食ってはいける。
 だけど、上がったからには何かしなければ……」と
話しつつ入ったのは、なんと『時そば』。
暑い日に『時そば』を聴くのは初めてだったが、
そんなことお構いなしに広がる文左衛門ワールド。

★歌武蔵 『支度部屋外伝』
おなじみのご挨拶の後、「白鵬」ネタや
「行事の物言い」ネタで観客を爆笑の渦に。
コワモテなギャグも歌武蔵師匠だから成立する。
「面白いから笑うのではなく、笑うから面白くなる」。

★小菊
「弱虫がたった一言」などの都々逸を経て、
「さのさ」で〆る。
「終わったんですけど」という決まり文句(?)の
ニュアンスが若干優しくなっていたような……。

★藤兵衛 『江ノ島の風』
初めて拝見する噺家さんで、初めて聴く噺。
夏バテ気味の殿様をもてなすため、
「ニセモノの雪」「水のこたつ」、そして
「涼しげな江ノ島の風」を用意することになるが……。
ちょっとしたSFっぽさを含みながら、
「屁」という日常ネタが噺に落ち着きを与えている。
汚らしさを感じさせないのは演者の芸風ゆえか。
この噺、上方落語『須磨の浦風』が元ネタらしいが、
江戸の風情が漂う、暑い日ならではの珍品だった。



――というわけで、上半期最後の日曜日、
一足早く(?)夏の訪れを告げるかのような猛暑の中、
『江ノ島の風』や『たがや』などの“涼しげな噺”を楽しみました。
(なぜか『時そば』という変わり種もあったけど……。)

本日の客はとてもよく笑う客が多く、
かといって「何にでも笑う客」というわけではなかったので、
出演者もやりやすかったのではないかと思います。
その場に座っている一人の客として、
私も「この空間にいられるのは幸せだなぁ……」と感じました。

本日、高座上からよく聴かれたのは
「他にもお遊び場所の多い中……」というセリフ。
もちろんこのセリフは常套句の一つにすぎないけれど、
たしかに、「海に行こう!」的気分になりがちな猛暑日に
「寄席」を選ぶのは、その人の個性を表しているように思えます。

――本日の鈴本昼席は、手前味噌ながら
「私はそういう個性の持ち主でよかった」と感じられるような
楽しさと穏やかさと優しさと(以下略)に包まれた空間でした。
この「一期一会」な寄席のライヴ感は何物にも代えがたい……。
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