2015年12月16日

オトナたちの“寒くて・暖かい”夜 ―小柳枝の『二番煎じ』


今日は、新宿末廣亭 12月中席 夜の部 へ行ってきました。
主任は、春風亭小柳枝師匠。

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 <昼の部>

落語:(主任) 桂文治 『幽霊の辻』


 <夜の部>

開口一番:(前座) 春風亭昇市 『桃太郎』
落語:(交互) 瀧川鯉八 『なぞ』
バイオリン漫談:マグナム小林
落語:(交互) 春風亭小柳 『新聞記事』
落語:三笑亭可龍 『居候』
歌謡漫談:東京ボーイズ
落語:春風亭昇乃進 『シャレ社長』
落語:三遊亭圓丸 『尻餅』
漫才:(代演) ナイツ
落語:三遊亭笑遊 『寝床』
落語:(代演) 桂小南治 『ん廻し』

 〜お仲入り〜

落語:三笑亭夢丸 『のめる』
太神楽曲芸:翁家喜楽・喜乃
落語:春風亭柳好 『胴斬り』
落語:三遊亭圓輔 『強情灸』
俗曲:桧山うめ吉
落語:(主任) 春風亭小柳枝 『二番煎じ』



★昇市 『桃太郎』
「七番弟子だけど昇市」と自己紹介し、『桃太郎』。
「ピーチ・ピーチ」というクスグリは初めて聴いたような。
二ツ目の風格さえ漂う堂々・朗々とした高座で、
こういう前座さんのことをきっと「有望株」と言うのだろう。

★鯉八 『なぞ』
「『鯉八さんは声がいいですね』と褒められたけど、
 帰り道に本屋に寄ったら……」というマクラを経て、
“なぞ”を求める弟とそれに応える兄が主役の奇妙な噺へ。
弟「……女の性ッ」→兄「不正解」という展開には唖然!

★マグナム小林
『明日があるさ』を弾きながら登場。
「救急車」「コンビニ」「新幹線」「赤ちゃん」を経て、
タップ付きで『暴れん坊将軍』と『天国と地獄』。
――タップの音は相変わらず聴いていて気持ちがいい。

★小柳 『新聞記事』
「客の拍手は天ぷらが揚がった音に似ている」
「楽屋の先輩も新聞を読んでいる……スポーツ紙だけど」
というマクラを振ってから、『新聞記事』に入る。
ネタのほうもテンポよく、愉快・軽快な出来栄えだった。

★可龍 『居候』
「落語のもとは小噺」と語り、「飛行機着水」
「不登校・登校拒否」などの小噺で客のハートを掴む。
“居候川柳”を紹介した後は、『湯屋番』の前半部。
「公衆便所の中で突っ立っている」件の説明が可笑しい。

★東京ボーイズ
「ローラ」「テロ」「ヨーロッパ」などを題材にした
“歌う週刊誌”を経て、おなじみの歌唱タイム。
『長崎は今日も雨だった』『中の島ブルース』のネタは
展開も間合いも知っているのに、何度聴いても面白い。

★昇乃進 『シャレ社長』
「旭化成・宗兄弟の“傾き”」ネタ自体というよりも
「このネタは説明が必要」というセルフフォローに感心。
「落語家だから背負ったことがない」というマクラから、
死語がテーマの新作『シャレ社長』に入って笑いを獲る。

★圓丸 『尻餅』
冒頭で帰った客に触れ、「とりあえず記憶に留めました」。
年の暮れネタ『尻餅』は、女房の「はぁ?」という反応、
「こんなことに知恵が〜」という台詞もキマっていた。
サゲは「今度はちんころ餅を作る」というユニークなもの。

★ナイツ
宮田陽・昇先生との出番交替(昼↔夜)。
地方営業風のツカミ(「新宿はいいところ」)で始まり、
「マシャロス」「破局」などの芸能ネタで一年を振り返る。
「安心してください〜」の真相には腹を抱えて笑った。

★笑遊 『寝床』
まだ高座返し中なのに上がり、さっそく『寝床』。
「左の腕は固定ですよ!」と言葉とアクションで強調し、
「がんもどきの製造法」の件で笑いを獲ったのはさすが。
逆ギレした繁蔵(?)が高座上のマイクを振り上げ、
笑遊師匠が座布団から半分飛び出すという大サービスも。

★小南治 『ん廻し』
談幸師匠の代演。
「この時間に駆け足で『寝床』をやる必要があったのか。
 時間が半端。本人は満足でしょうが」と笑わせてから、
文房具(芯やインク)の登場が嬉しい『ん廻し』へ。
この師匠がやると『ん廻し』も刺激的な噺に生まれ変わる。

★夢丸 『のめる』
仲入り中にアナウンスされた落し物の持ち主に触れたり、
「一番面白かった」と言われた時の話を展開したり。
夢丸師匠の『のめる』は、落ち着きがありながら躍動的で、
登場人物のそれぞれが噺の中で「生きていた」。

★喜楽・喜乃
「五階茶碗」→「輪の取り合い」。
「五階茶碗」では普段通りのバランス芸を見せるものの、
「輪の取り合い」で両名の息が合わず、そのまま下がる。
こういう場面に遭遇できるのも寄席のいいところ。

★柳好 『胴斬り』
すっかりベテランとしての風格が出てきた柳好師匠、
今夜はシュール系古典の『胴斬り』で楽しませてくれた。
「この噺には一つ無理がある」の一言もイヤミにならず、
ほのぼのとした健やかな笑いを客席にもたらしていた。

★圓輔 『強情灸』
「おじいちゃんの匂い」と言ってくるお孫さんは偉い。
その後、奥様の話や「強情湯」の小噺を経て『強情灸』。
繰り広げられる江戸弁がいちいちカッコよかったし、
腕に灸を据えて熱がる件もさっぱりしていて、ザ・江戸前。

★うめ吉
「品川甚句」や「秋はうれしや〜冬はうれしや」を経て、
寄席の踊り「京の四季」秋冬ヴァージョンを踊る。

★小柳枝 『二番煎じ』
「待ってました!」の掛け声に応じ、2種類のネタを披露
(「終わった後に……」&「上がった途端に……」)。
「昔と今では『寒さ』のほどが違う」というお話や
江戸の火事、「百・千・万・本組」の解説を語ってから、
寒さと暖かさを一度に楽しめる落語『二番煎じ』に入った。
『二番煎じ』というと後半部ばかりが注目されがちで、
実際、今夜の高座でも「猪鍋」の件は堪らなかったが、
小柳枝師匠は前半の「見廻り」パートも楽しませてくれる。
この噺には、前半では「寒さ」ゆえの言動の楽しさがあり、
後半では「暖かさ」ゆえの楽しさとドラマがあるのだ。
上下関係の会話とも違う、若い衆の馬鹿っ話とも違う、
いい歳をしたオトナたちの「対等」なやり取りに和まされた。



――今年の師走も、末廣亭で小柳枝師匠を聴くことができました。
今夜のネタ『二番煎じ』は、数ある古典落語の中でも珍しいことに、
役人を除く登場人物全員が最後まで敬語で喋り続けるという噺です。
登場人物たちは「縦」ではなく「横」の関係でつながっていて、
酒と猪鍋で暖まっていくうちにお互いの距離感が縮まっていきます。

今夜の末廣亭も、最初のうちは静かだった客席が次第に盛り上がり、
客と演者の精神的な距離感も少しずつ縮まっていきました。
特にナイツの漫才にはすべての客(もちろん私含む)が笑い転げたし、
その他のあらゆる落語家さんや色物の芸人さんの高座からも
持ち時間の中で務めを果たすという演者の心意気が感じられました。

まあ、笑遊師匠の場合は持ち時間を超過していたわけですが(笑)、
それ込みで、今夜の寄席は完璧な流れを紡ぎ出していたと思います。
繰り返し言われているように、「寄席は一期一会」。
すべての演者が和やか・穏やかながらも充実した高座を展開し、
小柳枝師匠が『二番煎じ』で〆た今夜は、至福の「一期一会」でした。
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2015年10月10日

屈折したところも、素直なところも… “ひねくれ”可楽の『景清』


今日は、国立演芸場 10月上席 へ行ってきました。
主任は、三笑亭可楽師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 瀧川鯉佐久 『寿限無』
落語:(交互) 笑福亭竹三 『手紙無筆』
コント:コント青年団
落語:三笑亭可龍 『干物箱』
動物ものまね:江戸家まねき猫
落語:桂伸乃介 『長短』

 〜お仲入り〜

講談:(代演) 神田紫 『春日局』
落語:三遊亭とん馬 『代り目』
漫才:新山ひでや・やすこ
落語:(主任) 三笑亭可楽 『景清』



★鯉佐久 『寿限無』
「長野っぽい芸名だが秋田出身」と打ち明け、
名前は大切ということで『寿限無』へ。
後半では“母”が「寿っちゃん」と発してしまう……。

★竹三 『手紙無筆』
上方協会入りを先方の理事会で否決されたという。
見台や張扇、小拍子について解説し、
師匠・鶴光師匠の話芸を彷彿とさせる『手紙無筆』。

★コント青年団
国家主席も飛び出す(?)日本史教師と生徒のコント。
「ぼくは芸人人生をかけて……」
「そんなところに芸人人生かけなくていいんだよ」。

★可龍 『干物箱』
「昨日の客席の中学生と比べると……」と語り、
“善公”のキャラクターが愉快・軽快な『干物箱』。
可龍師匠は奇を衒わない。それでいて、
現代の観客に「古典落語」を届けようとしている。

★まねき猫
自身の生い立ちを簡単に紹介してから、
“目覚まし時計”や“鳩時計”の「通信販売」ネタへ。
唐突に挿み込まれる“口紅”は変化球ということで。

★伸乃介 『長短』
江戸っ子と田舎者の「道案内」の小噺を経て、
人物の台詞、一言一言を噛み砕くような『長短』。
かけ合いの面白さでそこそこウケていた。

★紫 『春日局』
陽子先生の代演。
“竹千代”と“国松”の人物像を演じ分け、
土曜の午後の穏やかな客席をピシッと引き締める。

★とん馬 『代り目』
まずは「落語教室」のマクラで笑いを誘う。
『代り目』ではテンポよい語り口で観客を惹き込み、
途中で自ら三味線も弾き、見事にサゲまで。
外はあっさり、中はしっかりの充実した高座だった。

★ひでや・やすこ
「自分史を書きます!」というネタで、
ひでや先生の上京から結婚、浮気までが語られる。
ひでや先生は浅草でエノケン・ロッパを観ているのか。

★可楽 『景清』
51年前の東京五輪の思い出(フラッグ持参)、
中東歴訪の思い出(カフィーヤ持参)、眼の手術の話、
「差別用語を含むので古典は難しい」という話を経て、
可楽師匠自身の想いが伝わってくるような『景清』へ。
奇跡的に眼が見えた時の主人公の驚きようには、
普段の可楽師匠の高座では見られない迫真さがあった。
人間には屈折したところもあれば素直なところもある。
だからこそ、ひねくれている人間が素直になった瞬間に
ドラマは生まれるのだし、そのドラマは人を感動させる。



――というわけで、旧「体育の日」(10月10日)である本日は、
芸協の大ベテラン・可楽師匠の主任興行(千秋楽)を楽しみました。
屈折性と素直さが実は表裏一体であることを表す『景清』は、
“ひねくれキャラ” 可楽師匠の「ハマりネタ」と言えるでしょう。
可楽師匠の『景清』は過去にも聴いたことがありましたが、
今回、可楽師匠のやりたかった高座に立ち会えたような気がします。

ところで、「お目当て」以外の噺も聴けるのが寄席の「いいところ」。
しかし、それは状況次第では「悪いところ」になるかもしれません。
正直言って、とん馬師匠は本日の私の「お目当て」ではなかったけど、
それゆえか、本日のとん馬師匠の高座には感激させられました。
結局のところ、落語は「What」ではなく「How」の芸能なのですよね。
「これからもいい落語家を聴いていこう」と決意(?)を新たにしました。


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2015年08月15日

「歌丸の圓朝噺」の集大成? 鬼気迫る熱演、『怪談乳房榎』


今日は、国立演芸場 8月中席 へ行ってきました。
主任は、桂歌丸師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 雷門音助 『道灌』
落語:(交互) 三遊亭遊里 『道具屋』
落語:(代演) 春風亭柳好 『壺算』
歌謡漫談:東京ボーイズ
落語:桂歌助 『都々逸親子』
落語:雷門助六 『こり相撲』〜踊り『かっぽれ』

 〜お仲入り〜

落語:桂小南治 『四人癖』
音曲:松乃家扇鶴
落語:(主任) 桂歌丸 『怪談乳房榎』



★音助 『道灌』
開口一番は助六門下の音助さん。
爽やかなルックス、安定した語り口、
それでいて、早くもこの人ならではの存在感もある。
卓越した「総合力」を持つ前座さんの一人だ。
サゲは「暗ぇから提灯借りに来た」(「角が」なし)。

★遊里 『道具屋』
音助さんの前職や噺家の学歴に触れてから、
“与太郎”の初仕事を描いた噺『道具屋』へ。
遊雀師匠の高座のようなメリハリのある高座を展開し、
老若男女すべての観客に立ち向かっていった。

★柳好 『壺算』
文治師匠の代演。
本日が終戦記念日であることに一言だけ触れ、
師匠・柳昇にとって皇室は特別な存在だったと語る。
秋篠宮殿下を前にしての「御前落語」のエピソードや
沖縄の「幻の泡盛」にまつわるネタで客の心を掴み、
この噺特有のクドさが抜けた、馴染みやすい『壺算』を。

★東京ボーイズ
「なぞかけ問答」→「AKB」→『ふるさと』合唱
→『静かな湖畔』輪唱、そして『かわいいあの娘』で〆る。
会場をより一層「楽しい」雰囲気に盛り上げた。

★歌助 『都々逸親子』
『鶴の恩返し』や『浦島太郎』の小噺版を紹介。
「勉強机に向かう子どもは微笑ましい」ということで、
やけに色っぽい“息子”が活躍する『都々逸親子』へ。
今席唯一の「歌丸門下」として高座上での役目を果たす。

★助六 『こり相撲』〜あやつり踊り『かっぽれ』
おなじみの「ビトン」ネタなどを済ませ、
相撲場の客席でのあれやこれやを描く『こり相撲』。
その後、これまたおなじみのあやつり踊りを披露し、
夏休みの客席から拍手や歓声を受けていた。
踊りを終え、無言で去る助六師匠の後ろ姿はカッコいい。

★小南治 『四人癖』
今年も、本日分までの「大入り袋」を客に見せ、
この定番マクラを知る客たちから大きな拍手を浴びる。
「これが私にとっての『あやつり踊り』のようなもの」。
『四人癖』は小南治師匠のニンに合った噺で、
登場人物のエキセントリックな部分が強調されていた。

★扇鶴
扇鶴先生のキャラを知らない客からはどよめきが(笑)。
「去年の今夜は知らない同士」などの都々逸を歌い、
絶妙な風情を残して楽屋へ帰っていく。
これもまた、私にはカッコいいと思える「芸人の後ろ姿」。

★歌丸 『怪談乳房榎』
『中の舞』の出囃子、板付き・釈台付きで登場。
入院中に医師から「体重40kgになれ」と命令されたことや
今度は「50kgになれ」と言われるだろうことを語った後、
本来は三部作の『怪談乳房榎』を今日は一度で、と紹介する。
――絵師・重信の妻と関係を持った浪人の弟子・浪江は、
不倫だけでは飽き足らず、「主張」先で重信の殺害を企む。
重信の使用人・正介を巻き込み、重信を殺害するのだが……。
途中、照明は変転し、客を驚かせるようなハメモノも入る。
これまで何度も歌丸師匠の「圓朝噺」を拝聴してきたが、
本日の『怪談乳房榎』はこれまでになく鬼気迫る熱演だった。



――いくら名編集者・歌丸師匠が構成し直したとはいえ、
三遊亭圓朝作『怪談乳房榎』は、本日の型でも約1時間の長編。
退院したばかりで病み上がりの歌丸師匠にとっては、
決して安易に語ることのできるような噺ではなかったはずです。

ところが、本日の歌丸師匠の『怪談乳房榎』は、
人間の「弱さ」「愚かさ」、そして「苦しさ」を完全に網羅し、
長講と感じさせないほどの娯楽性と芸術性に満ちていました。
もしかしたらこれが「歌丸の圓朝噺」の集大成なのかもしれない
――と思わせられるような、鬼気迫る熱演にして「名演」でした。

歌丸師匠が今月(8月)11日にこの興行で復帰した際、
NHKニュースは、歌丸師匠が「“熟練”の話芸で客を惹き付けた」
などと報じていましたが、冗談言っちゃいけない。
この興行で、歌丸師匠は“気迫”あふれる高座を展開しています。

今から4年前、『東京かわら版』のインタビューで
師匠本人が語っていた通りの「勢いのある」高座です。曰く――
 やっぱり大病すると人間ガクっと来ますよね。ガクっと来ると芸までガクっとなっちゃうんですよ。よく「枯れた芸」って言うじゃないですか。アタシはどんどん新芽を伸ばし、葉を付け、花を咲かせ、実を持たせる。そういう勢いのあるものの方がいい。枯れた芸なんぞなりたくないですよ。枯れたもの見たってそんなの面白くもなんともない。枯れた植木見たって面白くもなんともねぇもん。
(『東京かわら版』平成23年10月号 「今月のインタビュー 桂歌丸」 p.10)

あまり大袈裟なことを言うつもりはありませんが、
私がこの時代に生まれたこと、この日本に生まれたこと、
「落語」という芸能を楽しむ人間として育ったこと、
そして歌丸師匠のこの『怪談乳房榎』を拝聴したということ――。
そのすべてが私の誇りであり、何物にも代え難い「財産」です。


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