2018年07月06日

笑いと人情とファンタジーと “バランス”絶妙、鯉昇の『ねずみ』


今日は、新宿末廣亭 7月上席 昼の部 へ行ってきました。
主任は、瀧川鯉昇師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 瀧川あまぐ鯉 『英会話』
落語:(交互) 瀧川鯉丸 『二人旅』
相撲漫談:一矢
講談:神田京子 『山内一豊の妻』
落語:(交互) 春風亭傳枝 『反対俥』
バイオリン漫談:マグナム小林
落語:春風亭柳之助 『ちりとてちん』
落語:(交互) 三遊亭円楽 『酔っ払い』
漫才:東京太・ゆめ子
落語:三遊亭遊史郎 『紙入れ』
落語:桂米多朗 『粗忽長屋』
奇術:北見伸
落語:(代演) 瀧川鯉朝 『あいつのいない朝』

 〜仲入り〜

落語:(交互) 瀧川鯉斗 『強情灸』
スタンダップコメディ:(交互) ナオユキ
落語:桂米福 『錦の袈裟』
落語:三遊亭遊之介 『蝦蟇の油』
歌謡漫談:東京ボーイズ
落語:(主任) 瀧川鯉昇 『ねずみ』



★あまぐ鯉 『英会話』
開口一番は鯉昇門下のあまぐ鯉さん。
単なる“アナクロ新作落語”だと思っていた『英会話』も、
テンポがよく口跡も滑らかだと現代的なネタに聴こえる。

★鯉丸 『二人旅』
地方公演の途中で帰った“聖なる”団体客の話を経て、
“ボケ役の旅人”がニンにハマっている『二人旅』へ。
“都々逸”の件は省略して“なぞかけ”の件へすぐ入った。

★一矢
「W杯の結果は『半端ない』っていうか半端だったね」。
稀勢の里や栃ノ心に触れてから「優勝は白鵬」と予想し、
観客参加型の相撲甚句で平日の客席に活気を与える。

★京子 『山内一豊の妻』
海外で口演した英語版『浦島太郎』のさわりを語るも、
「日本文化に興味ある外国人は日本語を聴きたい」。
そして『一豊の妻 出世の馬揃え』をリズムよく聴かせる。

★傳枝 『反対俥』
「華を持たせましょう。歌丸師匠の告別式でも花を…」。
“ドリフト走行”や“マリオカート”も登場の『反対俥』は、
傳枝師匠の気力・体力を感じさせる陽気な一席だった。

★マグナム小林
『明日があるさ』→「救急車」→「コンビニ」→「新幹線」。
初めての客が多かったようで、感嘆の声がよく上がる。
後半は『恋のバカンス』『暴れん坊将軍』『天国と地獄』。

★柳之助 『ちりとてちん』
“西郷隆盛”のマクラで客席を暖め、『ちりとてちん』へ。
柳之助版『ちりとてちん』は“旦那”もなかなか意地悪で、
“寅さん”の「美味い」という表情も的確に描写している。

★円楽 『酔っ払い』
「“あれ”以来初めての寄席。何以来って“あれ”以来」。
縁があるから「お別れの会」に出席できそうだと話し、
「山田隆夫の葬式には参列できない。縁がないから」。
「歌丸師匠は酒を一滴も呑まなかった」と言ってから
(この日の出番で歌丸師匠の名を出したのは一度だけ)、
酒を呑む医者と呑まない医者の“診断”や忠告の違い、
独り言形式の“寝酒”の小噺で客席を大いに湧かした。

★京太・ゆめ子
「口は重宝」といった言葉選びに生活感があって好い。
夫を「はいご苦労さま」とあしらうゆめ子先生の存在は、
それ自体がもはや“達人”の域に入ってきているような。

★遊史郎 『紙入れ』
小遊三一門の芸名に関するマクラで客席を安心させ、
昼間にやる噺ではなかったと言いつつ『紙入れ』へ。
丁寧ながらリズミカルに噺を運び、要所で笑いを掴む。

★米多朗 『粗忽長屋』
米丸・笑三両師匠の紹介のあと、『粗忽長屋』に入る。
“行き倒れ”を目の前にしながら「歌丸さんじゃないよ」。
“熊”は粗忽者だが性格は穏やかで優しく朗らかだった。

★北見伸
まずは伸先生が「紐」や「トランプ」の技芸を披露する。
次に小泉ポロン先生が「ハンカチ」→「リング」を魅せ、
最後は座敷席の女性客との会話も楽しく「果物カード」。

★鯉朝 『あいつがいない朝』
桃太郎師匠の代演。
「桃太郎師匠は営業仕事が好き。暇な私が呼ばれた」。
再放送中『カーネーション』の人間関係に触れてから、
“ケンカ友達”が主役の新作落語『あいつがいない朝』。
「いま気が付いたけど、人形も“人”生でいいのでは?」。
『笠碁』チックな爆笑と感動の一編を堪能させてもらう。

★鯉斗 『強情灸』
「目を噛む男」の小噺で客を確かめてから『強情灸』へ。
「これが熱いの熱くないの。いや、熱いんだけどね」。
“娘”の覗きに至るまで所作も豊富で、結構ウケていた。

★ナオユキ
「土曜の夜に」「酒場の女」「ガード下の酔っ払い」など、
独特の話芸で昼の部一番の爆笑をかっさらっていく。
ネタの密度がかなり高く、客の集中を途切れさせない。

★米福 『錦の袈裟』
マクラで客のハートを掴んでから、『錦の袈裟』へ入る。
“与太郎”のキャラ造型がクドくないのでさっぱり聴ける。
“遊女”が「あのボーっとしたのが殿様よ」と話してサゲ。

★遊之介 『蝦蟇の油』
「師匠は自転車泥棒でも妙蓮寺の賽銭泥棒でもない」。
見世物小屋の小噺を経て、静かな迫力の『蝦蟇の油』。
言い立てをキメるも「間違えたので拍手はいりません」。

★東京ボーイズ
「羽生結弦国民栄誉賞」「関ジャニ∞」の“なぞかけ”、
『ラブユー東京』『よせばいいのに』『長崎は今日も〜』。
持ち時間は短めで、この後の鯉昇師匠にバトンを渡す。

★鯉昇 『ねずみ』
「地方の主催者はその日のうちに東京へ帰らそうとする」。
柳昇師匠に連れられた旅先での爆笑エピソードを踏まえ、
歌丸師匠の十八番でもあった“左甚五郎モノ”『ねずみ』へ。
“甚五郎”が謙遜しながらアドバイスをしてくれたことに応じ、
“卯兵衛”は「ご親切に甘えて愚痴を……」と経緯を明かす。
この演目はややもするとクサい人情噺になりかねないが、
鯉昇版は滑稽さと人情とファンタジーのバランスが絶妙だ。
人間の善良さを強調するでもなく、“欲”を押し出すでもなく、
全体的には穏やかながら、わずかに緊張感が漂っている。
様々な角度から愉しめる、ずっと浸っていたい世界だった。



──私にとって本日は歌丸会長逝去後初めての芸協の興行でしたが、
芸人のみなさんの“普段通り”の話芸にかえって感動させられました。
円楽師匠の心を淋しさが覆っていた感は否めようがなかったけれども、
それでも“あれ”を吹き飛ばす爆笑の高座を展開したのだからさすが。
こうやって寄席芸人は悲しい出来事から“リハビリ”していくのでしょう。

ところで、鯉昇師匠が本日の寄席で好演していた『ねずみ』という噺は、
前述した通り、歌丸師匠が「大好き」と公言して憚らない演目でした。
先月発売されたばかりの口演速記本『歌丸ばなし2』(ポプラ社)でも、
この『ねずみ』という噺が8席の速記のいわば“大トリ”を飾っています。
本日の末廣亭は、私にとっては期せずして“追悼”の寄席になりました。
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2018年04月15日

“よくできた噺”を明瞭な口跡で… 歌丸の『小間物屋政談』


今日は、国立演芸場 4月中席 へ行ってきました。
主任は、桂歌丸師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 春風亭べん橋 『黄金の大黒』
落語:(交互) 春風亭昇也 『動物園』
落語:(交互) 桂枝太郎 『源平盛衰記』
落語:(交互) 桂米多朗 『ちりとてちん』
漫才:Wモアモア
落語:(交互) 桂米助 『もう半分』

 〜仲入り〜

落語:(交互) 三遊亭遊雀 『四段目』
俗曲:桧山うめ吉
落語:(主任) 桂歌丸 『小間物屋政談』



★べん橋 『黄金の大黒』
開口一番は柳橋門下のべん橋さん。
各リアクションに間があるのがやや気になるものの、
“与太郎”像がニンに合っていて好感と期待が持てる。

★昇也 『動物園』
「嫁探し」「酪農家」「九官鳥」などの小噺を経てから、
“ブラック獅子”VS.“ホワイト虎”の『動物園』へ。
「パンちょーだい(小声)」とのフレーズもキマっていた。

★枝太郎 『源平盛衰記』
「3列目の客の双眼鏡が気になる。何が見えるの?」。
「出川」「着物の帯」のギャグで爆笑をかっさらうが、
なぜかサゲ間近で超シリアスモードに没入してしまう。

★米多朗 『ちりとてちん』
「大正14年生まれ」米丸&笑三両師匠のエピソードで
冷え切った空気の客席を快復させ、『ちりとてちん』。
噺本来のおもしろさで客を愉しませていく姿勢に感謝!
「多摩川梨」を登場させるところも米多朗師匠らしい。

★Wモアモア
「歌丸師匠、入りました。日曜は道が空いているね」。
今日が米助師匠の誕生日であることに言及してから、
マイナーチェンジ版「娘の結婚式」で笑いを積み重ねる。

★米助 『もう半分』
「金日成と同じ誕生日です。……“アンニョンハセヨ”?」。
「おめでとう!」という掛け声に呼応してこれだけ語ると、
自らの大師匠・5代目今輔の十八番『もう半分』へ入る。
米助師匠は数年前から大師匠のネタに取り組んでいる。
それだけでも十分に偉大だが、本日の『もう半分』には
米助師匠にしか出せない“江戸庶民の迫真さ”があった。
決して熱演ではない、自然体の奇談ドキュメントである。

★遊雀 『四段目』
「私の着物は火を点けると燃える。前座のは溶ける」。
“後ろ”の劇場に言及してからおなじみの『四段目』へ。
「“定吉”に自由を与えろッ! 働き方を改革しろーッ!」。

★うめ吉
かんたんごはん』(NHK総合)のテーマ曲を生披露し、
「梅は咲いたか」→「淡海節」→「箱入り旦那」などを。
最後は照明と小道具を使った「藤娘」で客の歓心を得る。

★歌丸 『小間物屋政談』
「先ほどはかわいい女の子、そのあとはかわいい男の子」。
今更だが煙草を吸ってきたことを後悔すると明かしてから、
小間物屋という商いの解説を経て『小間物屋政談』へ入る。
「昨晩、『木久蔵ラーメン』を食べたので腹の調子が悪い」
「体が悪いといっても酸素吸入するほどではありませんが」
「初代と二代目」などの個性的なクスグリを織り交ぜながら、
まるでシェイクスピア作品のような“よくできた噺”を語る。
テンポはどうしても遅くなるがその口跡は極めて明瞭であり、
適宜説明を挿みながら、落語の世界の中へ客を惹き込む。
病に惑わされてたまるか──名人歌丸、圧巻の話芸だった。



── というわけで、本日は、毎年おなじみの国立演芸場 4月中席で
歌丸師匠の十八番の一つ『小間物屋政談』を聴くことができました。
この一年間だけでも何度も入退院を繰り返している歌丸師匠ですが、
そのことを一般客には感じさせない、相変わらずの勢いのある話芸。
歌丸師匠の噺家としての凄さ、存在の大きさを改めて痛感しました。

さらに、大師匠のネタに取り組む米助師匠の偉大さにも言及したい。
この数年間でネタおろししてきた『ラーメン屋』や『表札』とは異なり、
『もう半分』は先代今輔師匠のネタの中でも“奇抜度”の高い噺です。
一歩間違えればありふれた古臭い怪談話となりかねないところを、
米助師匠は庶民の息遣いが滲む古典落語へと昇華させていました。

昨年、歌丸師匠が「落語界の未来を託したい3人」のうちの一人に
米助師匠を挙げたことを意外に感じたひともいるかもしれませんが、
米助師匠が数年前から寄席の出番を増やし、ネタおろしを続け、
歌丸師匠の最初の師匠のネタに挑んできたことを知る私からすれば、
弟弟子になお発破をかける趣旨でも、その回答は当然なものでした。


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2018年02月10日

江戸っ子の息吹あふれる“勘違いコンボ” 小遊三の『百川』


今日は、国立演芸場 2月上席 へ行ってきました。
主任は、三遊亭小遊三師匠。

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 <本日の番組>

開口一番:(前座) 桂こう治 『子ほめ』
落語:(交互) 柳家蝠よし 『転失気』
奇術:山上兄弟
落語:三遊亭遊馬 『たらちね』
漫才:ナイツ
落語:柳家蝠丸 『お七の十』

 〜仲入り〜

講談:日向ひまわり 『堀部安兵衛』
落語:(代演) 三遊亭遊雀 『悋気の独楽』
曲芸:鏡味味千代
落語:(主任) 三遊亭小遊三 『百川』



★こう治 『子ほめ』
開口一番は小文治門下のこう治さん。
一聴して前座とは思えない安定した語り口である。
余裕すら感じさせられる落ち着いた高座だった。

★蝠よし 『転失気』
大入り袋が出たことに触れてから『転失気』へ。
「自分の“腹”から出た疑問として聞いてきなさい」。
描写は丁寧で、テンポは緩やか。サゲは「屁理屈」。

★山上兄弟
傘→コイン→トーク→トランプ→イリュージョン。
「同期のメル友(=円楽師匠)からメールが来た」
「芸協入りは同時期でも同期って呼ぶんじゃない」。
話術が上達し、マジックも華やかさが増している。

★遊馬 『たらちね』
「ウグイス」「神無月」の小噺から『たらちね』。
“娘”は漢学者の娘だから言葉が丁寧という設定で、
「火事があっても名前が長くて……」とサゲる。

★ナイツ
「半蔵門はいいところ。半蔵門のお客様は……」
「そういうのは地方営業でやってください」。
塙先生のお兄様、土屋先生のお母様のネタを経て、
芸能人の名字が登場の「同窓会」でまとめ上げる。

★蝠丸 『お七の十』
「妻への贈り物」の小噺で客席の感度を確かめ、
オチの解釈が2つある噺と称して『お七の十』へ。
女性の容姿を笑うクスグリが目立って感じられた。

★ひまわり 『堀部安兵衛』
最近の生徒は「忠臣蔵」の読みも知らないと明かし、
物語が分かりやすく整理された『堀部安兵衛』。
堀部が討ち入りに参加した経緯まで語って下がる。

★遊雀 『悋気の独楽』
「キャリアの違いは着物の違い。噺は同じだけど」。
国立演芸場に因んだ前座時代の逸話を話してから
(間違えて女性からチケットを譲られそうになる)、
「お泊まりです」のフレーズが愉しい『悋気の独楽』。

★味千代
五階茶碗→毬と撥→傘廻し(毬&升)。
途中で毬を落とすというアクシデントが発生するも、
「長い人生、こういうこともある」と言って笑いをとる。

★小遊三 『百川』
「ここまで聴いてお分かりでしょうが、以下同文です」。
江戸三大祭と「四神剣(旗)」について解説してから、
さらっとブラックに「でも富岡八幡宮はダメでしょう。
あそこで賽銭を投げて“家内安全”と拝んでも……」。
さらに『百川』の噺の由来をめぐる“ガク説”を披露し、
誤解が誤解を生む“勘違いコンボ”系落語『百川』へ。
“主人”は“百兵衛”の田舎と年齢と名前を尋ねるが、
われわれ観客が耳で知ることになるのは名前のみ。
“百兵衛”自体が実は不可思議なキャラクターなのだ。
ところどころで言葉に詰まるのが気になったものの、
その高座は江戸っ子の息吹を感じさせる高座だった。



──というわけで本日は、先日来よりは少しだけ冬の寒さが和らいだ中、
小遊三師匠が主任を勤める2月上席の千秋楽に伺うことができました。
会場は大入り袋が出るほどの超満員で、熱気に包まれていたほどです。
そして、小遊三師匠の高座はやはり江戸っ子の息遣いにあふれており、
フィクションとは割り切れられない庶民の“生活感”が滲み出ていました。

ところで、本日の公演では“初めての寄席”のお客さんも多かったようで、
マジックや太神楽曲芸の場面ではどよめきや歓声が起こっていました。
私は落語ファンになってしばらく経っているため忘れておりましたが、
日本に住んでいても寄席に行く機会に巡り合うとは限らないのですよね。
寄席を愉しむ人たちが増えることは私にとっても誇らしく、嬉しいことです。


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