2017年10月09日

プレストンより愛をこめて 『ハロルド・ディドルボックの罪』


先日、シネマヴェーラ渋谷で
映画『ハロルド・ディドルボックの罪』(1947年)を観ました。
同時上映は『ロイドの人気者』(1925年)。

mad-wednesday_poster.jpg


 <あらすじ>
勤務先の社長(レイモンド・ウォルバーン)から突然リストラを宣告された
中年サラリーマンのハロルド・ディドルボック(ハロルド・ロイド)は、
路上でたまたま知り合ったノミ屋風の男・ウォーミー(ジミー・コンリン)に
地元のバーへ連れて行かれ、生まれて初めてカクテルを飲む。
すると、堅物だったはずのディドルボックの性格が急に変わってしまい……。



当時パラマウント映画を離脱したばかりだったプレストン・スタージェスが、
映画俳優としては引退状態にあった一昔前の“喜劇王”ハロルド・ロイドを
引っ張りだして製作したのが、本作『ハロルド・ディドルボックの罪』です。
1947年に『The Sin of Harold Diddlebock』のタイトルで公開されるも、
興行的には失敗し、プロデューサーのハワード・ヒューズの手によって
Mad Wednesday』と改題・再編集の上、1950年に再公開されました。

では、ロイドとスタージェスが協働した本作のその肝心の中身はというと、
ロイドの代表作の一つ『ロイドの人気者』(1925年)の続編と位置付けられ、
『ロイドの人気者』の主人公“スピーディ”の20年後の姿を描いています。
主人公の名字がなぜか「ラム」から「ディドルボック」に変更されているのは、
何か特別な意図があってのことでしょうか、それともただの凡ミスでしょうか。

本作の冒頭では『ロイドの人気者』のアメフトシーンが流用されていますが、
試合とは無関係の汽笛が鳴る──“スピーディ”は立ち止まる──カットは
観覧席の少年が応援の笛を鳴らすという新撮のカットに替えられています。
ヒロインのペギー(ジョビナ・ラルストン)が“スピーディ”を応援するカットも
社長(レイモンド・ウォルバーン)が登場する新撮のカットに差し替えられ、
ペギーは最初からその世界には存在していなかったことにされていました。



本作は“喜劇王”ロイドへのスタージェスのラブレターとも称うべき作品です。
一度聴いたら忘れられない、主人公ディドルボックの印象的な“奇声”は
「ロイドはトーキーでもイケるぞ」というメッセージ性さえ伴うギャグでした。
往年のロイド作品で定番だった動物とのやり取りもがっつり挿まれています
(『ロイドの人気者』の子猫は20年経ってライオンへと“成長”したのだ!)。
動物を決して粗雑に扱わず、むしろ尊重するところもやはり共通しています。

本作の見どころの一つ、高層ビルの外壁で繰り広げられるあれやこれやは、
ロイドの別の代表作『要心無用』(1923年)を連想させずにはいられない。
ディドルボックの妹(マーガレット・ハミルトン)がかけている「ロイド眼鏡」は
ロイドがかつて喜劇界のアイコンだった事実を観客に思い出させるものです。
さらに、スタージェス作品にしては拍子抜けするほど素直で優しい結末は、
まさしく往年のロイド作品の心温まるハッピーエンドを思わせるものでした。

スタージェスによるロイドへのトリビュートは目に見える部分に留まりません。
1920年代に“人気者”になったものの現在では忘れ去られた主人公が
逆境をバネに立ち上がる──というプロット自体が、ロイド本人と重なります。
ロイドはよくこの役柄を引き受けたものだと思いますが、このプロットからは、
一昔前の“喜劇王”を何事もなかったかのように銀幕に復帰させることで
ロイドに恥をかかせてはならないというスタージェスの配慮がうかがえます。



それでいてスタージェスは、いかにも自らの作品らしい脚本上のギャグ
──“姉妹”をめぐるヒロインとの台詞の応酬──にロイドを挑戦させています。
スタージェスが書いた世界観の上にロイドが立っているというこの面白さ!
加えて、スタージェス作品の常連であるジミー・コンリンやルディ・ヴァリーが
ロイドと共演する様子は、ロイドと“スタージェス組”のコラボレーションを
視覚的にもはっきりと映しだす、喜劇映画ファンにはたまらない光景でした。

もっとも、現場ではロイドとスタージェスは衝突することもあったようですが、
出演者と演出家の対立は必ずしも作品を失敗に導くわけではありません。
事実、本作を「最も偉大な喜劇の一つ」「我がオールタイムベストの一本」と
評する映画ファンも少なくなく、本作は米国でカルト的人気を誇っています
(逆にこの作品を駄作としてこき下ろす批評には滅多にお目にかかれない)。

個人的には、“ロイドのドタバタ喜劇”としても“スタージェスの作品”としても
いささか物足りなさを感じてしまいましたが、いずれにせよ本作から、
チャップリンやキートンと並ぶ“喜劇王”ロイドに対するスタージェスの愛情と、
役者として新境地を開こうとするロイドの意欲が伝わってくるのは確かです。
ロイドとスタージェスという2人の天才がタッグを組んだ貴重な作品として、
『ハロルド・ディドルボックの罪』は喜劇映画史にその名を刻み続けるでしょう。
posted at 23:59 | Comment(0) | 映画・TV | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする |
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
(C) Copyright 2009 - 2018 MITSUYOSHI WATANABE