2016年03月18日

「すばらしき」オハイオに愛を込めて ―ケーシックの大統領選(5)


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▲ 支持者を前に演説するケーシック (2016年3月14日)


 大統領選に向けて共和党が3月15日に実施した予備選・党員集会では、ドナルド・トランプが5つの州・地域で勝利を収めました。
 「トランプ旋風」は止まるところを知りませんが、実は、トランプが勝利することのできなかった州が一つだけあります。その州とは中西部・オハイオ州です。

 オハイオ州の予備選では、現職のオハイオ州知事であるジョン・ケーシックが「地元の利」を活かして勝利しました。ケーシックがこの指名争いで白星をあげたのは今回が初めてです。

 マルコ・ルビオの撤退(後述)に伴い、指名争い唯一の「主流派」系候補となったケーシックは、トランプ、テッド・クルーズとの「三つ巴の戦い」を今後どのように乗り切るつもりなのでしょうか。そのヒントを掴むためにも、今回はオハイオ州予備選でのケーシックの戦いを振り返ってみることにしましょう。

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 ◆「サンダース」との即興コント


 ミシガン州での「健闘」(詳しくはこちら)から一夜明け、3月9日、ジョン・ケーシックはイリノイ州で対話集会を開催しました。
 民主党から指名争いに参戦しているバーニー・サンダースの「そっくりさん」が場内にいるのを見つけると、ケーシックは彼に発言の機会を与えるだけでなく、彼をステージの上に呼び寄せました。テレビキャスターを務めたこともあるケーシックのようなベテラン政治家は、何がパフォーマンスとして有効に機能するかを瞬時に判断することができるのです。
 ちなみに、この「そっくりさん」の正体は、シカゴの放送局・WGNテレビの情報番組『WGNモーニングニュース』でキャスターを務めているパット・トマスロという人物です。もしトマスロが自分に好意的ではないコメントを発する可能性があったら、ケーシックは決して彼を壇上に招いてはいなかったでしょう。


 ◆元ノースカロライナ州知事の支持表明

 3月9日、元ノースカロライナ州知事のジム・マーティンがケーシックへの支持を表明しました。
 マーティンはノースカロライナ州選出の連邦下院議員を経て、1985年から1993年までノースカロライナ州知事を務めた共和党の政治家です。職業政治家としては「一昔前」の人物ですが、政界引退後は医療系シンクタンクの会長を務めるなど、今なお一定の存在感を誇示しています。
 マーティンは、声明の中で「我々がホワイトハウスに必要としている経験とリーダーシップをケーシックは有している」「ケーシックならば、(2016年)11月の本選でヒラリー・クリントンに勝つことができる」と述べました


 ◆地元紙の支持表明

 3月10日、オハイオ州の地元紙である cleveland.com(プレーン・ディーラー紙)がケーシックへの支持を表明しました
 同紙はオハイオ州の地元紙として、州知事・ケーシックの一挙手一投足を報じてきました。しかし、決してケーシックに好意的な記事や論説ばかりを載せてきたわけではありません。ケーシックの言動を厳しく批判することもありました。
 それだけに、「ケーシックと本紙は意見が異なる点もある。それでも、彼は勝たなければならない候補だと考える」という今度の支持表明は感慨深いものがあります。政治家とメディアの理想的な緊張関係を感じさせられる社説です。


 ◆アーバン・メイヤーの支持表明


 同じ日、オハイオ州立大学フットボールチームのヘッドコーチであるアーバン・メイヤーが、ケーシックへの支持を表明しました
 フットボール人気の高いアメリカでは、「大学のフットボールチームの監督」は全米から注目を浴びる存在です。特にメイヤーはユタ大学やフロリダ大学フットボールチームのヘッドコーチとして人気を集め、各地で熱狂的なファンを有しています。まさに国民的名将といってよいでしょう。
 メイヤーは、ケーシックとの対談ビデオの中で「この『忌々しい』争いを制してほしい」とエールを送りました。オハイオ州生まれの「名将」からの支持を確保できたことは、ケーシック陣営にとって幸運なことだったといえるでしょう。


 ◆宇宙飛行士たちの支持表明


 続いて、元NASA宇宙飛行士のステファン・オズワルドとウィリアム・F・リアディが、ケーシックへの支持を表明しました。時系列は前後しますが、3月13日には、「最後に月面を歩いた男」として知られるユージン・サーナンもケーシックへの支持を表明しています
 イリノイ州出身のサーナンは、ジェミニ12号、アポロ7号、アポロ14号の予備クルーを経て、アポロ10号のパイロットを務めた人物です。「アポロ計画」最後のミッションとなったアポロ17号の航行では船長を務め、その偉業はドキュメンタリー番組でも取り上げられました
 3月15日の「ミニ・スーパーチューズデー」でオハイオ州予備選に命運を懸けたケーシックは、他の州では精力的な選挙運動を展開できませんでした。ノースカロライナ州やイリノイ州で選挙運動を行わない分、ケーシック陣営は、ジム・マーティン(元ノースカロライナ州知事)やユージン・サーナン(イリノイ州出身)などといった「その州の著名人」からの支持獲得に走ったのだと考えられます。


 ◆精彩を欠いたテレビ討論会


 3月10日、CNN主催のテレビ討論会がフロリダ州マイアミで開催されました。3月3日のテレビ討論会では「大人の振る舞い」をみせて高く評価されたケーシックですが(詳しくはこちら)、今回は他の候補も落ち着いた討論を展開したため、相対的に精彩を欠く結果となりました。
 しかし、政治コンサルタントのフランク・ランツが実施した世論調査では、ケーシックの主張した親イスラエル政策が9割の支持を獲得するなど、今回の討論会がケーシックの主張を浸透させるための場として働いたのも確かです。討論会後、ケーシックは改めてオハイオ州予備選での勝利を誓いました


 ◆「サイバーガイ」の評価


 このテレビ討論会を受けて、「サイバーガイ」の愛称で知られる評論家のカート・クヌートソンは、FOXニュースの番組で「ケーシックだけがサイバーセキュリティの重要性を認識している」と発言しました。
 イラン政府と関係のあるハッカーがニューヨーク州郊外のダム制御システムにサイバー攻撃を仕掛けていたことが明らかになるなど、アメリカでは近年、サイバーセキュリティの問題が関心を集めています。当然、3月10日のテレビ討論会でもこの問題は議題に上がりました。
 クヌートソンはテレビ番組にも度々登場する人気コメンテーターで、生前のスティーヴ・ジョブズにもインタビューしたことがあります。そのような権威ある人物から「ケーシック知事はテレビ討論会で、どの候補よりもサイバーセキュリティに関して思慮深い発言をしていた」と評価されたことは、討論会そのものではいまいちパッとしなかったケーシックにとって嬉しい「事後評価」となったことでしょう。


 ◆「トランプが有害な環境を作った」


 3月11日、トランプの集会が開催予定だったシカゴでトランプの支持者と反対派が衝突し、トランプ側と警察が協議した結果、その集会は「延期」されました。ここでの「延期」とは事実上の中止を意味します。
 過去にもトランプの集会では暴力事件が発生したり、トランプも「彼(反対派)を殴れ。弁護士費用なら私が払うと約束する」と聴衆を煽ったりしていたため、このような事態がいつか発生することは予想されていました。反対派としてはあくまでも「売られた喧嘩」を買っているという感覚でしょう。
 今度の「暴動」自体を仕掛けたのは反対派の側ですが、テッド・クルーズやマルコ・ルビオ、それにケーシックもトランプの過去の対応を批判しました。3月12日には会見を開いたケーシックは、「トランプが有害な環境を作り出した」「人々の不安を煽るようなリーダーは許されない」と語っています。


 ◆トランプの集会を批判

 ケーシックはこれまで他の候補を批判せず、自身の政策や実績を訴える「ポジティブキャンペーン」を展開してきました。「誰かを個人攻撃するぐらいなら負けたほうがマシだ」とも語っていたほどです
 しかし3月12日、名前を直接は出さなかったものの、ケーシックはトランプを批判しました。「自分の子どもを『あの集会』に連れて行くだろうか。私だったら連れて行かない。あまりにも狂っているからね」というのがその内容ですが、これまでのケーシックとは一味違う珍しい発言だと捉えられるでしょう。
 3日後のオハイオ州予備選を控え、スーパーPACに「トランプ批判」を任せるだけでなく、自らも対決姿勢を示したほうがよいと判断したのかもしれません。


 ◆ルビオ陣営と「選挙協力」?


 3月11日、マルコ・ルビオ陣営のスポークスマンであるアレックス・コナントがCNNの番組に出演し、「トランプを倒すため、オハイオ州の共和党員はケーシックに投票すべきだ」と発言しました。その後、ルビオ本人も「オハイオ州では私よりもケーシックのほうが勝利する可能性が高い」とコメントしています
 フロリダ州選出の連邦上院議員であるルビオは、3月15日に実施される地元・フロリダ州の予備選では何としても勝たなければなりません。ルビオにとっての「フロリダ」は、ケーシックにとっての「オハイオ」と同じ意味をもつ決戦の地でした。
 この発言の意図するところは、オハイオ州ではこちらの支持者をそちらに回すから、その見返りとしてフロリダ州ではそちらの支持者をこちらに回してくれ、ということでしょう。フロリダ州での世論調査でトランプにリードを許していたルビオ陣営には、もはやこのような弱気な戦略しか残されていなかったのです。


 ◆ルビオ陣営の魂胆

 ルビオ陣営による局地的な「支持表明」に対し、ケーシック陣営のスポークスマンであるロブ・ニコルスは「我々は彼の助けを得ずにオハイオ州で勝利する。ちょうど彼が我々の助けを得ずにフロリダ州で負けようとしているのと同じように」という強気のコメントを返しました
 フロリダ州での支持率調査でルビオがトランプに大きく水をあけられていたのに対し、オハイオ州での支持率調査ではケーシックとトランプは互角の戦いを演じていました。FOXニュースが3月9日に発表した支持率調査では、ケーシック(34%)がトランプ(29%)を6ポイント上回っていたほどです
 ルビオはオハイオ州で高い支持率を有していたわけでもありません。ルビオ陣営とケーシック陣営の各地元州での「選挙協力」は、ルビオ陣営にとっては旨みがある一方で、誰にも恩を受けずに勝利する可能性が高かったケーシック陣営にとっては迷惑な申し出でしかなかったのです。


 ◆ルビオ陣営がケーシックを攻撃


 もっとも、ケーシック陣営がルビオ陣営からの「支持表明」を拒んだ表向きの理由は、「ルビオのスーパーPAC(特別政治活動委員会)がケーシックを批判するテレビコマーシャルを制作しているから」というものでした
 『The Basic on John Kasich』と題されたそのコマーシャル(3月9日公開)は、ケーシックの「過ち」をまとめた基礎情報(ベーシック)を紹介するものです。ケーシック陣営にとってはたしかに不愉快極まりない内容でしょう。
 このコマーシャルはオハイオ州では放送されておらず、オハイオ州の有権者が少なくとも地上波で目にすることはありませんでした。フロリダ州=オハイオ州での「選挙協力」を見据えてルビオ陣営なりに気を遣っていたともいえますが、このようなコマーシャルを公開した後に「選挙協力」を申し出たところで、ルビオ陣営は相手から嫌われる表向きの理由を与えただけでしょう。


 ◆トランプもケーシックを攻撃


 ルビオのスーパーPACによる「ケーシック批判」コマーシャルに続き、3月11日、トランプ陣営もケーシックを批判するテレビコマーシャルを公開しました
 ルビオ側のコマーシャルがケーシックを政策面から批判していたのに対し、トランプ側のコマーシャルはケーシックへの人格攻撃を展開しています。「彼はオハイオ州にいらない。ワシントンにもいらない」というキャッチコピーは強烈であるがゆえに視聴者にインパクトを与えるものです。


 ◆トランプが攻撃を始めた理由

 トランプはこれまでケーシックのことをあまり攻撃してきませんでした。もちろん、ケーシックがかつてリーマン・ブラザーズ・オハイオ支社の取締役だったことを揶揄したり、「彼はナイスガイだ。でも、どうして支持率がこんなに低いんだ。テレビ討論会ではいつも端っこにいるじゃないか」と中傷したことはありましたが、他の候補への「侮辱」と比べると可愛らしいものでした。
 トランプがケーシックへの本格的なネガティブキャンペーンを展開したのは、オハイオ州予備選での自身の苦戦の裏返しだったのかもしれません。ケーシックが指名争いに留まる限り、トランプはケーシックへの「口撃」をさらにエスカレートさせていくことでしょう。


 ◆「トランプは必死なんだね」

 トランプ陣営のテレビコマーシャルが公開されると、ケーシック陣営は公式ホームページに反論を掲載しました。コマーシャルの一言一句を紹介した上で反論を進めているということは、よほど反論に自信があったに違いありません。
 ケーシック本人も黙ってはいませんでした。3月12日、トランプがオハイオ州の集会で「ケーシックは赤ん坊だ。彼は大統領にはなれない」と発言した際には、「(トランプは)必死なんだね」と反撃しています。
 自らの地元・オハイオ州でトランプが選挙運動を展開していること自体については、「彼(トランプ)は政策を話すためにここへやってきたのではない。私を攻撃するためにやってきたんだ」と語りました。 


 ◆ケーシック陣営の「反トランプ」CM


 トランプ陣営のネガティブキャンペーンに対抗するかのように、ケーシックのスーパーPACもトランプを批判するテレビコマーシャルを流しました。ケーシックが「ポジティブキャンペーン」に徹している代わりに、彼のスーパーPACは他の候補への攻撃を繰り広げているのです。
 もっとも、ケーシックのスーパーPACが公開したテレビコマーシャルは、単にトランプを中傷するものではなく、「ケーシックは州知事として41万7000人の雇用を創出した。財政支出を削減した。減税を実現した。賃金を上昇させた」という前向きなメッセージを視聴者に届けるためのものでした。オハイオ州民の顔写真を次々と映し出しながらケーシックの実績を紹介するこのコマーシャルは、安上がりではあるものの、見る者に好印象をもたらしたのではないでしょうか。
 このコマーシャルのBGMに使われているのは、昨年(2015年)7月公開のプロモーションビデオでも使用された「ケーシックの大統領選テーマ曲」とでもいうべき楽曲のアレンジバージョンです。陣営としては、最後の戦地となるかもしれないオハイオ州でこの曲をもう一度使っておきたかったのかもしれません。


 ◆ジョン・ベイナーの支持表明

 3月12日、前連邦下院議長のジョン・ベイナーが「オハイオ州予備選の期日前投票でケーシックに投票した」と告白しました。
 ベイナーはケーシックと同じオハイオ州選出の元連邦下院議員で、ケーシックとは25年来の盟友関係にあります。涙もろい性格で知られ、2011年に下院議長に選出された際にも涙をこぼして感激していました
 その後、バラク・オバマ政権との距離感をめぐって共和党保守派と対立し、昨年10月に下院議長を電撃辞任。併せて政界も引退し、現在は悠々自適の日々を送っているようですが、盟友が熾烈な選挙戦を演じているのをみて加勢してやりたいと思ったのかもしれません。


 ◆5年前の「ゴルフサミット」


 これは余談ですが、大統領オバマ、副大統領ジョー・バイデン、当時の下院議長ベイナー、そしてオハイオ州知事ケーシックの4人は、2011年6月に一緒にゴルフをプレイしたことがあります
 アメリカに大きな政党は2つしかありません。共和党の政治家と民主党の政治家が一緒にご飯を食べたり、一緒にゴルフをプレイしたりすらできないほど険悪な関係にあった場合、それは国家の危機を意味します。
 党派を超えた「融和」や「協調」を望む国民の目には、この「ゴルフサミット」の光景は微笑ましいものとして映るでしょう。しかし、オバマと民主党を「絶対悪」として憎む教条的な共和党右派やティーパーティーにとっては、ベイナーもケーシックも「身内の中の敵」ということになるのかもしれません。


 ◆世論調査でトランプを逆転

 3月13日、オハイオ州で実施された2つの世論調査の結果が発表されました。
 NBCニュースとWSJの共同世論調査(3月4日〜10日)によれば、オハイオ州におけるケーシックの支持率は39%、トランプの支持率は33%で、ケーシックの支持率がトランプの支持率を6ポイント上回りました
 一方で、CBSニュースとYouGovの共同世論調査(3月9日〜11日)では、ケーシックの支持率とトランプの支持率がどちらも33%で並びました
 3月9日に発表されたCNNの世論調査(3月2日〜6日)がトランプの支持率を41%、ケーシックの支持率を35%と発表していたことを思えば、数字の上とはいえ、ケーシックは短期間でトランプの勢力を追い抜いたといえます。


 ◆人事を尽くして天命を待つ

 世論調査そのものについて、ケーシックは以前、「みんな、自分に都合の悪い結果は無視するものだ。だが、自分に都合のよい結果が一つでも出ると騒ぎ立てるものだ」と語っていました
 ケーシックは、初めて挑んだ1982年の連邦下院選でも、2010年の州知事選でも、「勝つのは無理だろう」という下馬評をはねのけて当選を果たしました。近年の世論調査は精度がますます高くなりましたが、選挙は水物であり、直前の世論調査通りの結果が示されるとは限りません。
 熾烈な争いの渦中にいても「たかが選挙じゃないか。リラックスしてほしい」(詳しくはこちら)と達観することのできるケーシックは、「人事を尽くして天命を待つ」ことの重要性を知っているのでしょう。


 ◆ワシントンD.C.で僅差の2位

 3月12日、ワイオミング州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)でそれぞれ党員集会が実施されました。
 ケーシックはいずれの地域でも特別な選挙運動を展開していません。ワイオミング州党員集会では得票率0%、獲得代議員数ゼロに終わりました。しかし、コロンビア特別区では得票率35.5%で、9名の代議員を獲得しました。勝者のルビオとはわずか50票差で、僅差の2位につくことができたのです。
 コロンビア特別区は首都であり、政治的に穏健な有権者が多い特殊な地域です。とはいえ、「主流派」代表候補と目されてきたルビオにわずか50票差まで迫ったことは、中道的な有権者の意識がルビオからケーシックへと流れていることを意味します。コロンビア特別区党員集会の結果は、ルビオの失速ぶりを示すと同時に、ケーシックの全国的な「勢い」を裏付けることになりました。


 ◆ミット・ロムニーが集会に参加


 2012年大統領選の共和党指名候補であり、ミシガン州予備選の直前にはケーシックへの投票を呼びかける「ロボコール」(詳しくはこちら)を行っていたミット・ロムニーが、3月14日、ケーシックの対話集会に参加しました。
 ロムニーはケーシックへの支持こそ表明しなかったものの、スペシャルゲストとして2件の対話集会に登壇しています。オハイオ州での選挙戦最後となる対話集会(「最後のお願い」)では、ケーシック、ロムニー、オハイオ州選出の連邦上院議員ロブ・ポートマン(詳しくはこちら)、ケーシックの妻・カレン、そして双子の娘・エマとリースの「6ショット」も見受けられました
 応援演説の中で、ロムニーは「他の候補とは違って、彼には本当の実績がある」「オハイオ州ではケーシックに投票すべきだ。アメリカは彼を頼りにしている」と語っています。そこまで言うのならば正式に支持を表明すればいいような気もしますが、ロムニーとしては少なくともこのタイミングでの支持表明はリスクが高いと判断したのかもしれません。


 ◆ロムニーの「思惑」を牽制


 今回、ケーシックの対話集会に参加したいと申し出たのはロムニー側です。13日午後、ロムニー側からケーシック陣営のスポークスマンに電子メールで連絡が入り、ロムニーの参加が電撃的に決まりました
 ロムニーとケーシックは旧知の仲ではありますが、ロムニーがケーシックの対話集会に参加したのは「ケーシックを勝たせたいため」というより「トランプを勝たせたくないため」でしょう。しかし、自分の対話集会で堂々と「トランプ批判」をやられてしまったら、これまで「ポジティブキャンペーン」を展開してきたケーシック陣営としてはたまったものではありません。
 ロムニーの参加する対話集会が開催される直前、ケーシックは「彼(ロムニー)は私について話しにやってきた。彼が(対話集会で)誰かを中傷するとは思わないよ。私たちはそのような展開を望まない」と記者団に語り、ロムニーの「思惑」を牽制しています


 ◆トミー・トンプソンの支持表明


 3月14日、元ウィスコンシン州知事で元連邦保健福祉長官のトミー・トンプソンが、ケーシックへの支持を表明しました。
 トンプソンはウィスコンシン州知事を4期連続で務め、2001年2月、ジョージ・W・ブッシュ政権で保健福祉長官に就任した政治家です。2012年の連邦上院選では、民主党の連邦下院議員だったタミー・ボールドウィンに敗れています。
 ケーシック陣営はこの度、トンプソンから単に支持を受けたことだけではなく、ウィスコンシン州予備選(4月5日実施)ではトンプソンが先頭に立って選挙運動を指揮することも発表しました。同州でトンプソンがどれほどの影響力を未だ有しているのかは定かではありませんが、「ケーシックは『オハイオ後』を見据えている」「オハイオ州だけの一発屋ではない」というアピールにはなったでしょう。


 ◆ケーシック、自分に投票する


 そして迎えた3月15日――。オハイオ州予備選の投開票日です。
 この日の朝、ケーシックはオハイオ州ジェノアの投票所へ向かい、投票所スタッフの助けを得ながら自らに投票しました。
 「反トランプ」陣営のスーパーPACがトランプの女性差別的な発言をまとめたコマーシャルを公開したことについては、「そのコマーシャルなら見たよ。私には2人の娘がいる。彼女たちにとっては本当に耐えられない内容だ。(女性差別的な発言をしてきたトランプは)一体何を考えているんだ?」と語りました。
 すでに何度も言及してきたように、ケーシックはこれまで他者への個人攻撃を行わない「ポジティブキャンペーン」を展開してきました。しかし、さすがに女性差別的な発言を無視することはできなかったのでしょう。ケーシック本人も上記のコメントを述べる際、「私はこれまで他人を攻撃をしないよう注意を払ってきた。だが、今日は事情が違う」とことわっています


 ◆「シュワちゃん」が投票呼びかけ


 各投票所での受け付けが始まった後も、前カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーは、Snapchat(ショートムービーを送信するアプリ)を通じてケーシックへの投票を呼びかけました。
 ケーシックとシュワルツェネッガーは古くからの盟友です。この指名争いをめぐって、シュワルツェネッガーは昨年からケーシックを支援してきました(詳しくはこちら)。3月6日にはケーシックへの支持を正式に表明し、オハイオ州で開催されたケーシックの対話集会にも参加しています(詳しくはこちら)。
 シュワルツェネッガーは投票締め切り1時間前にも、愛犬に顔を舐められながら「私の相棒であるジョン・ケーシックに投票しに行ってくれ。彼はすばらしい知事なんだ!」と叫ぶ動画をアップロードしました。シュワルツェネッガーは「友達想い」のアツい男なのです。


 ◆出口調査は「ケーシック優位」

 投票が午後7時30分に締め切られると、CNNは独自の出口調査の結果を発表しました。それによると、ケーシックの想定得票率は45%、トランプの想定得票率は38%。しかし、これはあくまでも出口調査にすぎず、早めの時間帯に投票を済ませた有権者の動向を掴んだものにすぎません。いくら近年の世論調査や出口調査の精度が高まっているとはいえ、ぬか喜びは禁物です。
 「勝利確実」の報せが届くまでの間、ケーシック陣営のイベント会場ではアレサ・フランクリンの『Respect』などが生演奏され、ケーシック本人は家族やスタッフらとともに控室で「その瞬間」を待っていました


 ◆ルビオの撤退表明


 午後8時15分頃、ジェブ・ブッシュの撤退後は「主流派」の代表格として振る舞っていたルビオが、指名争いからの撤退を表明しました。地元・フロリダ州の予備選でトランプの勝利が確実となり、自らの「大敗」が決まったためです。
 ルビオの撤退を受け、ケーシックは「間違いない。マルコ・ルビオの力強い主張は、将来の共和党において輝き続けるだろう」との談話を発表しました
 この時点でオハイオ州予備選の勝者は確定していません。それでもケーシックが他のどの候補よりも早くルビオへの「送辞」を発表したのは、自分が最後の「主流派」系候補として生き残ったことを強調したかったからでしょう。ルビオを称賛するメッセージを直ちに発表することで、ルビオを支持してきた「主流派」の面々が自らに「乗り換えやすい」環境を整えようとしたのです。


 ◆ケーシックの勝利宣言


 午後8時45分頃、CNNがオハイオ州予備選でのケーシックの「勝利確実」を伝えました。その後、三大ネットワークやFOXニュースも相次いでケーシックの「勝利確実」を速報し、ケーシックは支持者の前で勝利宣言を行いました。
 勝利宣言の冒頭、会場に乱入したトランプ支持者の男が叫びだす一幕もありましたが、男はすぐに警備員によってつまみ出されました。一部始終を壇上から目撃していたケーシックは、「1970年代の大学キャンパスだったら、あのような平和的な抗議運動は評価されていただろうね」と軽口を飛ばしています。
 その後、ケーシックは「このすばらしき州、オハイオの人々に感謝を申し上げなければならない。……みなさん、愛してるよ!」と語り、支持者に満面の笑みを見せました。政治的パフォーマンスを抜きにして、この時のケーシックは本心から喜びを感じていたのでしょう。


 ◆民主予備選はクリントン勝利


 蓋を開けてみれば、ケーシックの得票率は46.8%、トランプの得票率は35.6%で、ケーシックは直前の世論調査や出口調査の想定を超えるポイント差でトランプを打ち負かしたことになります。ちなみに、クルーズの得票率は13.1%、ルビオの得票率は2.9%でした。
 ケーシックは地元・オハイオ州で、自身初となる指名争いでの勝利を飾りました。オハイオ州予備選は総取り方式(勝者が全代議員を獲得する方式)なので、ケーシックは一気に獲得代議員数を伸ばし、3月17日時点での獲得代議員数は143名となりました
 ちなみに、民主党側のオハイオ州予備選ではヒラリー・クリントンが勝利を収めました。「クリントンに勝つ可能性が最も高い共和党候補」(詳しくはこちら)であるケーシックにとっては、「対岸」でクリントンが勝利したことは吉報だといえます。


 ◆7月の党大会へ向けて


 いくら今回の勝利で「勢い」を増したとはいえ、ケーシックが自力で代議員の過半数(1237名)を獲得することは不可能です。ケーシック陣営としては、7月の党大会まで戦いを継続し、「ブローカード・コンベンション」でケーシックが党指名候補に選出されるという道筋を信じているのでしょう(詳しくはこちら)。
 ルビオが撤退し、今や共和党内の主流派が「乗れる」候補はケーシックただ一人となりました。7月の党大会がケーシックの地元・オハイオ州クリーブランドで開催予定であることも軽視できません。
 3月16日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、出口調査の結果、ケーシックが「やや保守派か穏健派と答えた有権者の3分の2近く」や「景気と雇用が最重要課題だと述べた有権者の大部分」から支持されていたことに触れた上で、「過去の戦い(地元を除く)を上回る善戦をケーシック氏が示すという期待がいくらか持てるようになった」と結論付けています。もしかすると、ケーシックは党大会までにクルーズを上回る数の代議員を獲得するかもしれません。



 ――「ケーシックの大統領選」シリーズを全5回で予定していた私としては困ったことに(?)、ケーシックの選挙戦は今後も継続されることになりました。共和党指名争いの候補が3人に絞られたことで、ケーシックのことを報じる日本のメディアも急増し、「埼玉出身のアメリカ人」としておなじみのデーブ・スペクター氏も「ケーシックは共和党の中で一番恥ずかしくない候補」と公言しているほどです

 単なるヒール扱いされていたトランプが圧倒的な支持を保ち、カルト的人気しかなかったクルーズが「トランプの対抗馬」として有力視され、当初は「本命」と目されていたジェブ・ブッシュやルビオが撤退し、どのテレビ討論会でも端っこにいる存在でしかなかったケーシックが生き残った以上、この大統領選では何が起きても不思議ではありません。私は引き続き静かに「ケーシックの大統領選」を追いかけていくことにします。


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