2015年08月10日

同性婚容認の共和党“大統領候補” ジョン・ケーシックとは何者か


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▲ 第69代オハイオ州知事 ジョン・ケーシック (John Kasich)



 「彼は、民主党支持者が投票できる共和党の政治家だ」。

 大ヒットを記録した映画『サンタクローズ』(1994年)や『ギャラクシー・クエスト』(1999年)、それに『トイ・ストーリー』シリーズ(1995年〜)のバズ・ライトイヤー役でおなじみの俳優ティム・アレンは、共和党所属のオハイオ州知事ジョン・ケーシックをこのように評した上で、2016年米大統領選に向けてケーシックを支持することを明らかにしました

 日本はもとより本国でもこれまで注目度の低かったケーシックですが、今月(2015年8月)6日にオハイオ州クリーヴランドで開催された米大統領選・共和党候補討論会を受けて、その知名度と好感度、そして支持率を急上昇させています。ケーシックとはどのような政治家なのでしょうか。そして、なぜ彼は一躍注目を浴びることになったのでしょうか。

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 ◆ケーシックとは何者なのか

 1952年5月13日、ジョン・リチャード・ケーシックは、ペンシルヴェニア州マッキーズロックスに生まれました。オハイオ州立大学を卒業後、1978年のオハイオ州議会上院選に出馬して最年少当選。その後、1982年の連邦下院選で勝利を収め、1983年から2001年まで下院議員を9期連続で務めました。ビル・クリントン政権下では「下院予算委員長として均衡予算をまとめ上げる重要な役割を果たし、押しの強い財政保守派と評価され」たそうです

 2000年米大統領選への出馬を模索するも断念し、一時は政界を引退。FOXニュースのコメンテーターとして活動したほか、リーマン・ブラザーズのオハイオ支社でマネージングディレクターを勤めました。リーマン・ブラザーズが2008年に倒産すると、2010年のオハイオ州知事選に出馬し、民主党の現職を破って政界に復帰します。オハイオ州は民主・共和両党の勢力が入り組む「スイングステート」ですが、2014年の知事選でも難なく再選を果たしました。

 毎日新聞によると、ケーシックは「州支出の削減や減税など財政面では保守派だが、低所得者向け医療保険制度の対象拡大など福祉や移民政策では穏健派で知られる」政治家とのこと。オハイオ州の財政収支を80億ドルの赤字から8億ドルの黒字へ改善させた一方で、保守派のティーパーティー運動に迎合することはなく、不法移民に対する極右派の厳しい態度にも反対しています。オハイオ州恩赦仮釈放委員会からの勧告を受けて死刑囚を終身刑に減刑したこともあり、憲法上の判断や助言を尊重する傾向があるようです。



 ◆なぜ注目を浴び始めたのか

 今月6日に行われたFOXニュース主催の第1回共和党候補討論会には、2016年米大統領選の共和党予備選に名乗りを上げている10人が参加しました。共和党の指名争いには17人が立候補していますが、一度の討論会に17人の参加者はさすがに多すぎると判断した主催者によって、世論調査での支持率が低かった下位7人が切り捨てられたのです。ちなみに、ケーシックと前テキサス州知事リック・ペリーの支持率は、討論会直前の段階では同率10位でした。
 
 ケーシックは幸運ゆえに上位10名に滑り込むことができたようにも思えますが、実は、「玄人」の評論家はケーシックの台頭を早い段階で予測していました。投資情報紙バロンズのコラムニストであるジム・マークテッグは、6月上旬に発表したコラムで、共和党予備選はジェブ・ブッシュとケーシックの対決構図になるだろうとの見立てを披露しています。ジェブ・ブッシュは、元大統領ジョージ・H・W・ブッシュの三男にして前大統領ジョージ・W・ブッシュの実弟で、共和党指名争いの「本命」と目されている元フロリダ州知事です。

 この討論会を受けて、イロモノ系候補ながらも圧倒的な人気を誇ってきた不動産王ドナルド・トランプが視聴者の大半から呆れられたのとは対照的に、それまで知名度も支持率も低かったケーシックが好意的な評価を得ました。経済誌フォーブスをはじめとする複数の雑誌や新聞が「ケーシックは討論会で勝利を収めた」との見出しを躍らせています。なぜケーシックはこの討論会で脚光を浴びることになったのでしょうか。

 ケーシックが注目されるきっかけとなった討論会での「ある発言」について、経済誌ビジネス・インサイダーの若手政治記者、ブレット・ロジュラートが簡にして要を得た記事を書いているのでご紹介しましょう。


 Business Insider
 <共和党候補討論会> 地元候補、同性婚問題で感動的な回答
 ブレット・ロジュラート/コリン・キャンベル
 2015年8月6日 午後10時47分



 オハイオ州知事のジョン・ケーシック(共和党)は、火曜日の夜に地元クリーヴランドで開催された初めての米大統領選・共和党候補討論会で聴衆から喝采を浴びた。

 ケーシックは、FOXニュースの司会者メーギン・ケリーから「もしも自分の子どもがゲイかレズビアンだと判明したら、あなたは同性婚反対の理由をどのように説明するか」と問われた。

 ケーシックは、連邦最高裁が同性婚をすべての州で認める判断を下したことに触れた。「ご覧の通り、私は昔かたぎの人間で、伝統的な結婚の価値観を信じている。しかし、私は裁判所が判決を下したことにも言及したい――そして、私はその判決を受け入れる」。

 「私は先日、図らずもゲイとなった友人の結婚式(訳注:同性カップルの結婚式)に出席した。なぜなら、誰かの意見と私の意見が異なるからといって、私は友人のことを気にかけたり愛したりできないわけではないからだ。だから、もしも私の娘のいずれかにそのような事態が訪れたとしても、もちろん私は彼女たちを愛するし、彼女たちを受け入れる。なぜだか分かるかい。それこそが、強い信仰の下で私たちが教えられたことだからだよ」

 さらに、ケーシックは「彼女たちが何をしたとしても」自分の娘たちを愛すると付け加えた。

 「このような議論(訳注:同性婚の是非をめぐる議論)は、私たちを分断させるものでしかない。本来大切なのは素朴なことであって――この考えについてはジェブと私は昔から同意見なのだが――私たちの社会では、すべての人がチャンスを有していなければならない、尊厳をもって扱われなければならない、そして偉大なアメリカンドリームを分かち合えるようでなければならない、ということなんだよ、メーギン」。ケーシックはケリーに語りかけた。

 「私は娘たちを愛し続けるつもりだ。彼女たちが何をしたとしても愛情は変わらない。なぜだか分かるかい。それは、神様が私に無条件の愛を与えて下さっているからだよ。私は家族や友人や周囲の人々を愛し続ける」

 クリーヴランドの聴衆はケーシックに割れんばかりの拍手を送った。それは今からちょうど4年前、ケリーが司会を務めた共和党候補討論会で、聴衆が同性愛者の兵士にブーイングを浴びせたのとは対照的な光景だった。


 「伝統的な結婚」の信奉者を自任するケーシックは、決して信条的に同性婚を支持しているわけではありません。また、「図らずも」「事態が発生し」を意味する「happen to〜」という言い回しを使用しているこの発言自体も、必ずしも完璧に適切な発言とは言えません。しかし、SNSでの反応をざっと見た限りでは、当事者であるLGBTの多くはこの発言を好意的に捉えているようです。

 それは、ケーシックのこの発言が、政治的意見の対立によって友情や愛情が損なわれてはならないことを強調しているからでしょう。この発言を聞けば、ティム・アレンがケーシックを「民主党の支持者が投票できる共和党の政治家」と評したのも頷けます。なお、今年6月に放送されたCBSニュースのインタビューでも、ケーシックは「裁判所がすでに判断を下しており、この議論はもう決着済みだ。議論すべき問題は他にいくつもある」と語っていました

 討論会でのケーシックの発言は、当事者のみならず全米の有権者から高い評価を受け、大手メディアからも極めて好意的に取り上げられています。ニューヨーク・タイムズのコラムニストであるニコラス・クリストフは、討論会の終了直後に、自身のTwitterアカウントで「でかしたぞ、ケーシック」とツイートしました

 また、ケーシックの公式Facebookページでは、ヒラリー・クリントン(民主党)の大統領選用ロゴを自身のプロフィール画像に設定しているようなユーザーまでもが、「私はケネディ―オバマ系のリベラルでヒラリーの支持者だが、ケーシックが共和党の大統領候補になった場合は彼を支持することに何の躊躇いもない」とのコメントを残しています。これはたった一人の投稿にすぎませんが、ケーシックの発言が熱心なクリントン支持者の心を揺り動かしたのは確かなようです。



 ◆アメリカは「癒し」を求めているか

 いくら今回の討論会でケーシックが注目度を上げたといっても、このまま順調にケーシックが共和党の指名を獲得できるかどうかは分かりません。先述のクリストフは、「ケーシックは大統領にはならないだろう。しかし、今回の討論会を受けて副大統領候補として本命視されるようになった」とツイートしています

 ただし、先月(7月)下旬に母校オハイオ州立大学で行われた大統領選出馬表明のビデオ(下掲)を見れば分かるように、ケーシックは幅広い世代から支持されており、中間層や穏健派の有権者にとっては最も抵抗感なく支持できる候補の一人です。ヒラリー・クリントンの支持層を取り込む可能性もあり、支持率が頭打ちのクリントンにとっては警戒すべき第一の「共和党候補」だと言えるでしょう。

 ケーシックは今回、「for Us.(私たちのために)」というスローガンを掲げました。同性婚の是非をめぐる議論を「私たちを分断させるもの」と断じるケーシックの姿勢は、個人間の「寛容」や「和解」を尊重する米保守派の良心を象徴しています。内向き志向の強い現在の米社会において、調和的な国内政策を訴えるケーシックは、いわば「癒し系」の政治家です。彼が指名争いを勝ち抜けるかどうかは、有権者が政治にどれほど「癒し」を求めるかにかかっていると言えそうです。




▲ 共和党予備選用プロモーションビデオ 5分Ver. (2015年7月19日公開)



▲ 共和党予備選出馬を正式表明 (2015年7月21日)


<関連記事>

<参考リンク>
ジョン・ケーシック 大統領選キャンペーンサイト
共和党の有力大統領候補、ブッシュ氏対ケーシック氏 (2015年6月9日)
2016年米大統領選、候補者の横顔 (2015年7月22日)
ジョン・ケーシック州知事 フォトアルバム (Dayton Daily News)
posted at 23:59 | Comment(0) | TB(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする |
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