2012年11月28日

深い秋、おぼろ月夜、「圓蔵一門寄席」


今夜は、江戸川区総合文化センター 大ホールで開かれた
『八代目 橘家圓蔵を励ます会 平成二十四年度 総会
 第二十六回 圓蔵一門寄席』に行ってきました。

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 <本日の番組>

落語:月の家鏡太 『子ほめ』
落語:橘家富蔵 『大安売り』
チャンバラコント:サムライ日本
落語:鈴々舎馬風 『ひばりメドレー』

 〜お仲入り〜

落語:林家木久扇 『明るい選挙』
漫才:青空球児・好児
ご挨拶:橘家圓蔵
大喜利:圓蔵&直弟子一同



★鏡太 『子ほめ』
以前、寄席で拝見した際は、往年の圓蔵師匠を彷彿とさせるような、
メタ視点の効いたブラックな『猫の皿』をやっていらっしゃいました。
今夜の『子ほめ』は、
“色黒の番頭”を褒めたところで「冗談言っちゃいけねぇ」とサゲる、
『子ほめ(序)』とでも称うべきもの。
今夜の高座を聴く限りは、“正統派”の落語家といった印象です(笑)。
そういえば、ある口演録音で、30数年前の圓蔵師匠が
「『冗談言っちゃいけねえ』っていうサゲが
 私は一番好きなんですよ!」とおっしゃっていたのを思い出しました。

★富蔵 『大安売り』
弱くて弱くてたまらないお相撲さんが出てくる噺。
次から次へと、期待を裏切らずに「弱さの程」を示してくれます。
富蔵師匠のたしかな話芸に、大いに笑わされました。

★サムライ日本
トリオでのチャンバラコント。
刀を抜いたり、振り回したり、頭を叩いてドガチャガと。
テンポよき、ベテランのコント芸がそこにはありました。

★馬風 『ひばりメドレー』
病気休演の三遊亭圓歌師匠の代演として、馬風師匠が登場。
なでしこジャパンネタはもとより、
吉田沙保里選手の国民栄誉賞受賞、乱立する小政党など、
最新の時事ネタをぶちかます姿勢が素晴らしい!
そして、“ひばりチャンチャカチャン”的『ひばりメドレー』。
馬風師匠ならではの完成された一人芸です。

★木久扇 『明るい選挙』
仲入り後は、「総会」を挟み(江戸川区長の挨拶を含む……)、
木久扇師匠と“選挙”との関わりを
漫談風に一席モノとして仕立てたネタ『明るい選挙』へ。
談志師匠の選挙を手伝った際のエピソード、
石原慎太郎氏の応援演説にまつわるエピソード、
そして、彦六(8代目正蔵)師匠の応援演説エピソードなどを、
モノマネをふんだんに交えながら。
緻密に計算された話芸で爆笑をかっさらう木久扇師匠、カッコいい!

★球児・好児
「ゲロゲ〜ロ!」でおなじみ、球児・好児先生が膝代わりに登場。
とてもじゃないが活字にはできないような「芸能界の“カツラ”ネタ」、
そして「時代劇のセリフを逆から言ってみるネタ」。
コンビ歴40年を優に超えて、エネルギッシュ&パワフルな漫才。
いやはや、畏れ入ります……。

★圓蔵
前座代わりの鏡太さんによって高座に湯飲み茶碗が出され、
本日の主役、圓蔵師匠が登場。
お見かけしないうちに、ずいぶんとお痩せになりました。
「毎年、この会は天気には恵まれるんですよね」
「芸歴も50年を超えちゃって、自分でもナニ喋ってるかわからなくなる」
「今夜は自分の会だから、時間を気にせず喋れる……」とお話になった後、
「小噺を一つ!」と、こんな小噺(?)をお始めになられました。
男A「猫を拾ったんだよ」
男B「へえ、猫を拾ったの」
男A「猫をね、拾ったんだけどね」
男B「で、なんて鳴くの」
男A「この猫ね、『ワン』って鳴くんだよ」
男B「バカ言っちゃいけない! 猫は『ワン』とは鳴かない」
男A「いやね、鳴けばいいなと思ってね」
……談志師匠の“イリュージョン落語”を愛する私でも、
ちょっとついていけなかった。

「さあ、何の落語をしようかと、考えてはいるんですけどね……、
 たまに何言ってるか、自分でも分からなくなっちゃう。
 何でもリクエストおっしゃってください!」。
思わず客席から「『猫金』(『猫と金魚』)!」と
声をかけたくなる私でしたが、ここはグッと我慢。
かけてはいけないと感じてしまったのです。
楽屋に向かって「おーい、ネタ帖持ってきてくれ」と叫ぶ圓蔵師匠。

ちょうどそのタイミングで、下座から、
6代目月の家圓鏡師匠はじめ、(主に)直弟子のみなさんが一斉に登場。
圓鏡 「さあ、ここからは大喜利に参りましょう」
圓蔵 「(弟子たちに)ちょっと待ってくれよ、落語やらせてくれよ」
圓鏡 「師匠、大喜利に行きましょう、大喜利に」
圓蔵 「嫌だよ、落語やらせろよ……。(演目は)何がいい、何が?」

--- 圓蔵師匠の落語口演を“認め”ざるを得ない雰囲気に。 ---

お弟子さんのどなたか 「……師匠、私は『無精床』が好きです」
圓蔵 「…………。」
そして、おもむろに『無精床』を語り始めた圓蔵師匠。
高座の上では、圓蔵師匠を7人のお弟子さんたちが囲んでいます。

――お弟子さんによる
「師匠、私は『無精床』が好きです」という発言を耳にして、
私は少し悲しくなりました。
たしかに、『無精床』という噺は、
圓蔵師匠にとっては若手時代からの得意ネタです。
それと同時に、ここ1〜2年、圓蔵師匠が頻繁に高座にかけたネタ――、
というか、この1〜2年、高座において
圓蔵師匠はほとんど『無精床』しかかけませんでした。
何かこだわりがあって『無精床』ばかりかけてきたのか、
それとも、『無精床』は体力をあまり使わないネタだから……。

私は、この1〜2年の圓蔵師匠が『無精床』に“こだわった”、
あるいは“こだわらざるを得なかった”理由を知りません。
しかし、私はこれだけは断言できます。
「圓蔵師匠は、いつも、漫談で降りようとせずに“落語”にこだわった」
「“落語”=“噺”を演じることにこだわった」。
その姿勢は、この1〜2年、寄席の高座で、
圓蔵師匠の『無精床』を何度聴いても感じたことです。
こればかりは、私の目に狂いはないと断言させてもらいます。

結局、今日の『無精床』は、
「床屋の親方が客の顔に熱々のタオルをかけて、客がアッと驚く」
というワンシーンを演じただけで終わってしまいました。
私は、『無精床』のサワリでもサゲでもない、
途中のワンカットだけが突然演じられたことに驚くと同時に、
あれほどにまで“噺”を演じることにこだわった圓蔵師匠が、
このワンカットを演じるのみで『無精床』を
中断せざるを得なくなった状況に衝撃を受けました。
これが、一人の芸人が、芸人として生き切るということなんだ――。

★大喜利
その流れのまま、
総領弟子の6代目月の家圓鏡師匠、橘家半蔵師匠、橘家富蔵師匠、
橘家蔵之助師匠ら合計7人の(主に)直弟子のみなさんが、
圓蔵師匠とともに、客席からの「なぞかけ」に応じます。
お弟子さん一同がそれぞれのカラフルなお着物を身にまとい
ズラッと並んだ光景は、実に美しい光景でありました。

客席から見て圓蔵師匠の右隣には、蔵之助師匠。
圓蔵師匠は蔵之助師匠の着物の袖を時折引っ張っていて(?)、
蔵之助師匠はお師匠さんに
「師匠、袖を破こうとしないでくださいよ!」とツッコんでおられました。
弟子から師匠への“芸人であるからこそ”のこのツッコミにも、
思わず、何か胸に感じるものを抱かざるを得ませんでした。

印象的だったのは、ある客からの難しい“お題”に対して、
圓鏡師匠が「それは却下」みたいなことを言って
本当にスルーしようとした時、圓蔵師匠が
「ダメだよ、何でも答えなきゃ!」とマジな顔でおっしゃっていた場面。
この一言に、圓蔵師匠の芸人としての本質を垣間見たような気がします。



――正直、今日の「感想」をブログに書くべきかどうか、数日悩みました
(なので、このエントリは公演数日後に掲載しています)。
プログラムでは、当初から、
圓蔵師匠の割り当ては「落語」ではなく「ご挨拶」となっていました。
しかし、圓蔵師匠は、
「ご挨拶」なんかじゃなく「落語」をやろうとしていた。
そのことだけでも、私はこのブログで記録に残しておきたいと思います。

「何をやろうか考えてるんですけどね……、
 何か、リクエストあればおっしゃってください」。
圓蔵師匠が高座でそうおっしゃった時、
客席の誰も、圓蔵師匠にリクエストのかけ声をしなかった。

あの時、私が客席から「『猫金』!」と叫んでいたら、
圓蔵師匠は『猫と金魚』をやってくれたでしょうか。
それとも、仮にやってくれたとしても、
大変に酷な表現ですが、“グダグダ”になっていたでしょうか。
この1〜2年、あれほどにまで演じ続けた
(あるいは、演じ続けざるを得なかった)『無精床』でさえ、
今夜の高座ではあのような調子だったのだから……。

声をかけなくて、結果、よかったんだ。
この文章を書いている今は、そう思うことにしています。



私は、8代目橘家圓蔵師匠ほどにまで
「笑い」という側面から落語に迫った落語家を、他に知りません。
新幹線レベル、いや“TGV”レベルのハイスピードで、
天才にしか発想することが許されないギャグが飛び出してくる。
次から次へと飛び出してくる。
どこからどこまでが計算なのか、それともほぼ全篇アドリブなのか――。
まあ、いずれにせよ「天才」ですね。

江戸川区総合文化センターから新小岩駅までの帰り道、
一人歩きながら、色んなことを考えました。
ファンの想い。お弟子さんたちの想い。そして、師匠ご本人の想い――。
もう少しで涙がこぼれそうになった。

それで、『上を向いて歩こう』じゃないけど、
夜空を見上げてみたら、星は一つも出ていない。
現代の東京の夜の空、星が見えなくても別に不思議ではありません。

でも、今夜ばかりは
「ちくしょう、星が一つぐらい出ていてもいいじゃないか」と感じました。
一つでも出ていれば、その星に“願いを託す”と言わないまでも、
何らかの想いを重ね合わせることができたというのに……。
ちなみに、お月様は“ご出勤”で、優しいおぼろ月でござんした。


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