2016年02月29日

キッチンの向こうに「火曜日」がみえる ―ケーシックの大統領選(3)


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▲ 支持者を前に演説するケーシック (2016年2月27日)


 米大統領選の候補者を決める共和党の指名争いも、いよいよ前半戦のヤマ場に突入しました。3月1日(現地時間)には予備選・党員集会が集中する「スーパーチューズデー」を迎えます。

 予備選・党員集会が実施される11州のうち、オハイオ州知事のジョン・ケーシックが重点的に選挙活動を展開したのは、ジョージア、マサチューセッツ、バーモント、バージニアの各州です。
 選挙活動中、ケーシックは多くの知事経験者や閣僚経験者、新聞社から「支持」を得ましたが、いくつかの言動が波紋を呼ぶことにもなりました。

 ジェブ・ブッシュを撤退させたサウスカロライナ州予備選(詳しくはこちら)から約10日――。「ファイナル5」に生き残ったケーシックの選挙戦に何が起きたのか、振り返ることにしましょう。

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 ◆「申し訳」程度のラジオCM


 ジョン・ケーシックの陣営は、2月23日に実施されたネバダ州党員集会には力を注ぎませんでした。ケーシック陣営の当面の目標は3月1日の「スーパーチューズデー」を生き抜くことなので、その直前のネバダ州党員集会に注意を払うだけの資金も人員もなかったのです。
 その代わり、ケーシック陣営は「申し訳」程度にラジオコマーシャルを制作しました。過去に公開したテレビコマーシャルのラジオ版とでもいうべき内容で、テレビコマーシャルでおなじみの「例のBGM」も長尺で聴くことができます。
 ちなみに、ケーシックはネバダ州党員集会で得票数5位(最下位)となり、獲得代議員数は1名に留まりました。


 ◆最後の「知事」系候補


 ケーシック陣営の広報幹部であり、ジョージ・W・ブッシュ政権のホワイトハウス副報道官だったトレント・ダフィー(詳しくはこちら)がFOXニュースに出演し、ケーシックが「『知事』として出馬している最後の候補」であることを強調しました。
 当初、民主党の指名争いには2人の「元知事」が立候補し、共和党の指名争いにも4人の「現職知事」と5人の「元知事」が名乗りを上げていました。しかし、2月20日に実施されたサウスカロライナ州予備選の結果を受けて元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュが撤退したことにより(詳しくはこちら)、大統領選に出馬している「知事」系候補はケーシックのみとなったのです。
 「知事経験者」であることは大統領になる資格の一つとされ、1976年大統領選でジミー・カーターが当選して以来、6人中4人の大統領に知事職の経験があります。ケーシック陣営が「最後の『知事』系候補」として候補者をアピールするのは当然のことでしょう。


 ◆スタンレー・ドラッケンミラーの支援表明

 この頃、「投資の神」とも呼ばれる資産家のスタンレー・ドラッケンミラーがケーシックを支援することが明らかとなりました
 ドラッケンミラーは昨年(2015年)、ケーシック、クリス・クリスティー、ジェブ・ブッシュの各陣営に献金しています。クリスティーもブッシュも大統領選の指名争いから撤退した今、ついに「意中の候補」を絞り込むことができたということなのでしょう。これがドラッケンミラー流の「投資術」なのかもしれません。


 ◆「ルビオ=ケーシック」なら勝てる?

 2月21日、サウスカロライナ州選出の連邦上院議員リンゼー・グラムは、リタ・コスビーがホストを務めるWABCラジオの番組に出演し、「『ルビオ=ケーシック』か『ケーシック=ルビオ』のチケット(大統領候補と副大統領候補の組み合わせ)ならばドナルド・トランプを止めることができる」と発言しました
 この大統領選では当初、グラムも共和党の指名争いに参戦していました。2008年大統領選の共和党候補だったジョン・マケインから全面的な支援を受け、トランプに携帯電話の番号を暴露された際は『携帯電話の壊し方』というビデオに出演して注目を集めましたが、支持率は伸びず、昨年末に指名争いから撤退しています。撤退後はジェブ・ブッシュへの支援に回るも、そのブッシュも撤退したため、グラムは舌の根も乾かぬうちにこのような発言をしたのです。


 ◆「中絶団体」への補助金打ち切り

 2月21日、ケーシックはオハイオ州知事としてある決断を下します。妊娠中絶などの女性向け医療サービスを展開するNPO団体「プランド・ペアレントフッド」への補助金の支給を打ち切ることを決めたのです。同団体をめぐっては、昨年夏、中絶した胎児の臓器や細胞を不正に販売していたのではないかとの疑惑が浮上。また、容疑者の動機は不明ですが、昨年11月にはコロラド州にある同団体の施設が襲撃されています
 プランド・ペアレントフッドへの補助金を打ち切ることで、オハイオ州は財政支出を約130万ドル削減することが可能となります。州知事としても大統領選候補としても「財政健全化」を訴えてきたケーシックにとって、これは大きな「実績」です。それに、妊娠中絶に反対する共和党保守派からは打ち切りを望む声が上がっていたので、自身の「保守色」をアピールする狙いもあったのでしょう。


 ◆「若い女性たちへの犯罪行為」


 しかし、プランド・ペアレントフッドが「中絶胎児」販売疑惑を否定しているにもかかわらず、補助金の支給打ち切りを決めたことに反発の声も上がりました。弁護士でジャーナリストのサニー・ホスティンは、ABCのトーク番組『ザ・ビュー』に出演し、補助金打ち切りを「若い女性に対する犯罪行為」と断じています
 そして、民主党のヒラリー・クリントンもケーシックの判断を厳しく批判しました。クリントンにとってケーシックは「本選で打ち負かされる可能性」が最も高い候補なので(詳しくはこちら)、いくらケーシックが共和党候補に指名される可能性が高くないとはいえ、早めにその「芽」を摘んでおきたかったのかもしれません。


 ◆トム・リッジの支持表明


 2月22日、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国土安全保障長官を務めたトム・リッジが、ケーシックへの支持を表明しました
 リッジはペンシルヴェニア州選出の連邦下院議員を経て、2期連続でペンシルヴェニア州知事を務めました。その後、2001年9月11日の同時多発テロ事件を受けて発足した米国土安全保障省の初代長官に起用されています。昨年から「ジェブ・ブッシュ応援団」の一人として精力的に活動してきましたが、ブッシュが撤退したため、今度はケーシックへの支持に「乗り換え」たのです。
 リッジは「反ドナルド・トランプ」の姿勢を貫いてきた人物でもあります。当初からトランプを批判してきたケーシックへの支持に回ったのは当然のことでしょう。


 ◆元マサチューセッツ州知事の支持表明


 続けて、元マサチューセッツ州知事のウィリアム・ウェルドもケーシックへの支持を表明しました。マサチューセッツ州予備選で成果を収めたいケーシックとしては朗報です。ウェルドは声明の中で「私はケーシックとは20年の付き合いになる。彼は実行力のある人間だ。財政均衡化にしても雇用創出にしても、ケーシックは言うだけでなく実現してきた」と語っています
 ウェルドは1990年代に2期連続でマサチューセッツ州知事を務めた政治家で、共和党所属でありながら、2008年大統領選ではバラク・オバマ(民主党)を支持しました。1992年の共和党大会で「妊娠中絶の自由を認めるべきだ」と演説したこともあり、リベラル色の濃い「RINO(Republican In Name Only=名ばかりの共和党員)」とのレッテルを貼られることもあります
 プランド・ペアレントフッドへの補助金打ち切りが発表された直後に「ウェルドの支持表明」が発表されたのには、ケーシック陣営として「保守色」と「リベラル色」のバランスをとる狙いもあったのかもしれません。


 ◆ナレーターはティム・アレン


 2月22日、ケーシックのスーパーPAC(特別政治活動委員会)である「New Day for America」がテレビコマーシャルを発表しました。
 『Quiet(穏やかに)』と題されたこのコマーシャルでナレーションを務めているのは、映画『サンタクローズ』(1994年)や『ギャラクシー・クエスト』(1999年)、そして『トイ・ストーリー』シリーズ(1995年〜)のバズ・ライトイヤー役でおなじみのティム・アレン。ケーシックの支持者であることを公言してきた国民的コメディ俳優が、ケーシックのためについに「本業」の分野で一肌脱いだのです。
 サウスカロライナ州でのハグ(詳しくはこちら)をフィーチャーしたこのコマーシャルは、ケーシックの「人格」の尊さをアピールすることで、ケーシックこそが大統領執務室で冷静な判断を下すことのできる人物であると訴えています。


 ◆「女性たちがキッチンを離れて応援」


 2月23日、ケーシックのある発言が波紋を呼ぶことになります。
 バージニア州フェアファクスで対話集会を開催していたケーシックは、携帯電話の登場などによって自身の支持者の選挙活動が変化したことを語りました。「私が初めて選挙に出馬した時、女性たちはキッチンを離れ、戸別訪問してくれた。現在は事情が違う。家に電話をかけても、みんな外で働いている。当時、私はあの女性たちのおかげで当選することができた」
 その後、会場の女性参加者がケーシックに質問しました。「まず最初に、先ほどのあなたの発言について言いたいことがあります。私はあなたを支援するつもりですが、キッチンから離れるつもりはありません」。この発言に対し、ケーシックは「分かった、大丈夫だよ」と笑顔で語り、会場は笑いに包まれました。動画を視聴する限り、質問に立ったその女性も笑い返しているように聞こえます。


 ◆「キッチン」発言の波紋

 その場では他愛もないやり取りにすぎませんでしたが、その後、この発言は映像メディアを中心に「問題発言」として報じられました。「女性たちがキッチンを離れて応援」と語った部分だけが広まり、「ケーシックは女性のことを『本来はキッチンに留まるべき存在』とみなしているのか」「ケーシックは女性を蔑視している」と批判を受けることになったのです。
 他党のライバルの「問題発言」を受けて、ヒラリー・クリントンは「今は2016年ですよ。女性たちの居場所――それは、彼女たちが望む場所すべてです」とのコメントをSNSに投稿しました。この投稿を読んだケーシックは「完全に同意だ。(発言には)これまで以上に気を付ける。ただし、『命綱なしの綱渡り』を今後も続けるよ」と語っています


 ◆ポリティカル・コレクトネスとは何か

 性別や人種、宗教などへの偏見や差別を含まない「中立的な」表現を用いることを、「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」といいます。ポリティカル・コレクトネスの徹底による「弊害」はこれまでにも議論されており、最近ではモンティ・パイソンのジョン・クリーズも「ポリティカル・コレクトネスがコメディを傷付けている」と話していました
 ケーシックはコメディアンではなく政治家です。求められるのは風刺ではなく社会的成果であり、言動によって他者の人権を傷付けないよう人一倍気を付ける必要があります。しかしそれを言うならば、発言の「受け手」側にも、発言の趣旨を正しく読み取ろうとする姿勢が求められるでしょう。
 例えば、コメディエンヌのウーピー・ゴールドバーグは、共同ホストを務めるABCの『ザ・ビュー』でケーシックの「キッチン」発言を紹介する際、「これから見てもらうのは、ケーシックが1978年当時を振り返りながら語っている映像よ。とっても重要なのは、これが1978年当時を振り返っての発言だということ」と前置きし、発言が「過去の事実」に言及したものであることを強調していました


 ◆党予備選には影響なし?

 ケーシックの「女性がキッチンを離れて応援」発言は民主党支持者、とりわけクリントン支持者に格好の「攻撃材料」を与えることとなりましたが、共和党内の指名争いにはほとんど影響を与えていないようです。
 発言報道後の2月23日、ケーシックはバージニア州リッチモンドで対話集会を開催していますが、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした
 ジョージア州ケネソー州立大学での対話集会にも多くの人が押し寄せ、同州サンディスプリングスで開催された対話集会に至っては、会場の外にも長蛇の列ができたほどです。 


 ◆「大統領になることが『使命』か分からない」


 ケネソー州立大学での対話集会ではこんな一幕もありました。
 参加者の男性が「あなたの使命(purpose)はトランプとマルコ・ルビオをいじめて大統領になることだ」と発言した際に、ケーシックは「私の使命(purpose)が大統領になることなのかどうかは分からない」と応じてしまったのです。
 私のような「ケーシックの言動を追ってきた人間」であれば、ケーシックがこの場で使用した「使命(purpose)」という単語が信仰上の用語であることはすぐに理解できます。また、彼のこの発言が「私は大統領になることそれ自体を目的としているわけではない。大統領になった後にアメリカを建て直し、人々に貢献することこそが重要なのだ」という趣旨であることもすぐに分かります。この発言には「他候補をいじめるべきだ」というやや過激な主張を諌める意図もあったのでしょう。


 ◆「purpose」をめぐって


 しかし、「私の『使命』が大統領になることなのかどうかは分からない」という発言は、一般的には「ケーシックは本気で大統領になるつもりはないのか」「やはりケーシックは副大統領候補狙いなのか」と誤解されかねない発言です。
 実際、ケーシックは、24日に出演したFOXニュースの『ケリー・ファイル』で「私の『purpose』は大統領になることだ」と語らざるを得なくなりました。ここでの「purpose」は宗教的な「使命」を意味する単語ではなく、指名争いにおける「目的」や「目標」とでも訳すべきなのでしょうが、英語ではどちらも同じ「purpose」です。ケネソー州立大学での発言が不用意だった感は否めません。


 ◆ケーシックの発言スタイル

 「手堅い政治家」との印象をもたれることも多いケーシックですが、「問題発言」をしたのは何も今回が初めてではありません。昨年11月には「アメリカの自由の精神を伝えるため、政府に『ユダヤ=キリスト教宣伝部門』を設置したい」という発言が物議を醸しました
 この政策は当然ながら憲法上の政教分離原則に反します。ISIS(自称「イスラム国」)によるテロの脅威が高まる中でケーシックは「タカ派色」を示したかったのでしょうが、さすがに行き過ぎた発言だったと言わざるを得ません。
 以前、ケーシックは「『何を言うべきか』を私に助言してくれる人はいない。よくないことを言ってしまった後に、『何を言うべきでないか』を忠告してくれる人がいるだけだ。まあ、そんなことはしょっちゅうあることじゃないけどね」と語っていました。これはケーシックの言動を分析する上で重要となる証言です。


 ◆テレビCME 『前進』


 2月24日、ケーシック陣営は通算6本目となるテレビコマーシャルを公開しました。過去のコマーシャルと同様のフォーマットですが、今回はテーマを「雇用問題」に絞っています。
 アメリカに約2000万人の失業者がいることに触れた上で、オハイオ州知事としてケーシックが雇用を創出してきたことを強調し、「アメリカよ、仕事を始めよう」と結んでいるこのコマーシャルは、国内の経済問題・雇用問題こそが有権者の最大関心事であることをあからさまに意識したコマーシャルだといえるでしょう。


 ◆アイダホ州知事の支持表明

 2月24日、アイダホ州知事のブッチ・オッターがケーシックへの支持を表明しました。現職の知事としては、アラバマ州知事のロバート・ベントリー以来2人目の「ケーシック支持者」となります。
 アイダホ州選出の連邦下院議員も務めたオッターから支持を取り付けたことは、3月8日に実施される同州予備選を控えてこの上ない好材料となることでしょう。オッターは声明の中で「今こそ共和党員たちは、この国のためにケーシックへの支持でまとまるべきだ」と語っています


 ◆「撤退? 余計なお世話だ!」


 同じ日にミシシッピ州ガルフポートで開催された対話集会で、穏やかなイメージのあるケーシックが珍しく挑発的な言葉を口にしました。
 「私の『撤退』の話を繰り返している人たちがいる。それは誰か。共和党員だ。『ケーシックは撤退する必要がある』と言っている彼らにお伝えしよう。――お気遣いなく! 余計なお世話だ!」。
 2月末現在、共和党の指名争いには5人が出馬しています。ドナルド・トランプが圧倒的な支持を誇り、テッド・クルーズとマルコ・ルビオがそれに続いているとすれば、ケーシックとベン・カーソンはそれより下の「第3グループ」に位置付けられます。ケーシックとカーソンをめぐっては「いつになったら撤退するのか」という報道が途絶えません。ケーシックの「余計なお世話だ」発言は本心から飛び出たものとみるべきでしょう。


 ◆スティーヴ・ポイズナーの支持表明

 2月25日、元カリフォルニア州保険長官のスティーヴ・ポイズナーがケーシックへの支持を表明しました。声明の中でポイズナーは「次の大統領は就任初日から仕事ができる人物でなければいけない。ケーシックにはリーダーシップを発揮してきた経歴と安全保障の問題に取り組んできた実績がある。彼ならば人々とともに必要な変化を成し遂げられる」と支持の理由を述べています
 ポイズナーは「シリコンバレー出身の起業家で、GPSを携帯電話に搭載するテクノロジーを開発した新興企業などを創設した経験を持つ」人物で、2010年カリフォルニア州知事選の共和党予備選に名乗りを上げたこともあります。ポイズナーが当時のアーノルド・シュワルツェネッガー州知事に任命された州保険長官だったことを考えると、ポイズナーによる支持表明の背景には、ケーシックの盟友であるシュワルツェネッガーの陰もあるのかもしれません(詳しくはこちら)。


 ◆レイ・ラフードの支持表明

 2月26日、元米運輸長官のレイ・ラフードがケーシックへの支持を表明しました。ラフードは共和党所属の政治家としてイリノイ州選出の連邦下院議員を7期連続で務めました。初当選は1994年なので、下院議員としてはケーシック(1982年初当選)の「後輩」にあたります。
 2009年1月の任期満了をもって下院議員から引退しましたが、間髪を入れず、民主党のバラク・オバマ政権で運輸長官に起用されました。ラフードはオバマ政権では唯一の「共和党員の閣僚」であり、民主・共和両党の垣根を超えて幅広い人気を集めました。ラフードはケーシックについて「彼はこの国を一つにまとめるのに最も適したリーダーだ」と語っています


 ◆クリスティー、トランプ支持を宣言


 同じ日、大統領選をめぐる大きなニュースが飛び込みました。
 ニューハンプシャー州予備選(詳しくはこちら)の直後に共和党の指名レースから撤退したクリス・クリスティーが、ドナルド・トランプへの支持を表明したのです。クリスティーはニュージャージー州の現職知事で、ケーシック同様、「主流派」「穏健派」の一人と目されてきました。2月上旬の共和党候補討論会ではマルコ・ルビオを執拗に攻撃し、ルビオの評価下落に「貢献」した人物です。
 主流派のクリスティーは社会保守派のテッド・クルーズの陣営には乗れません。かといって「因縁」の深いルビオを支持することもできない以上、クリスティーが自身の政治生命を第一に考え、圧倒的な人気を誇るトランプへの支持に回るのは不自然ではありませんが、このニュースは世界中に衝撃を与えました


 ◆「私たちには何の影響もない」

 クリスティーがトランプへの支持を表明したことについて、ケーシックのスポークスマンは「私たちには何の影響もない。(クリスティーがトランプを支持したことは)ルビオにとっては悪夢だろうけどね」と語っています
 クリスティーの支持層とケーシックの支持層は重なっているため、この件はケーシック陣営にとっても決して好ましい報せではありません。しかし、すでに旧クリスティー支持者の一定数はケーシックへの支持に回っており(詳しくはこちら)、すでに焦点は「態度未定層がルビオへの支持に回るか」に限られていました。
 そもそも、いくらクリスティー本人がトランプへの支持を表明したからといって、旧クリスティー支持者もトランプへの支持に動くとは限りません。むしろ、「トランプは大統領にふさわしくない。彼の気質は大統領職に適していない」と語り、「トランプを支持することはない」と記者に話していたはずのクリスティーに「裏切られた」と感じる旧支持者も少なくないのではないでしょうか。長い目でみたとき、今回の判断がクリスティーの政治生命にプラスに働くかは怪しいところです。


 ◆クリスティーン・ホイットマンの支持表明

 現ニュージャージー州知事のクリスティーがトランプへの支持を表明した傍らで、元ニュージャージー州知事のクリスティーン・トッド・ホイットマンがケーシックへの支持を表明しました。
 ホイットマンは2期連続でニュージャージー州知事を務めた後、ジョージ・W・ブッシュ政権下で1人目の環境保護庁長官に任命された女性です。ローラ・ブッシュにスコティッシュ・テリアの子犬を贈ったこともあります
 ホイットマンは「騒音のひどい部屋の中で、ケーシック知事だけが理性的で楽観的な言葉を発している」という表現でケーシックを支持する理由を説明したほか、クリスティーがトランプを支持したことについては「失望したが、驚きはなかった」と端的に感想を述べました


 ◆アルベルト・ゴンザレスの支持表明

 2月27日、ジョージ・W・ブッシュ政権で司法長官を務めたアルベルト・ゴンザレスがケーシックへの支持を表明しました。ゴンザレスはヒスパニック系としては初めて司法長官になった人物で、在任中は民主党から厳しい追及を受け、約2年半で辞任しています。
 リッジ、ウィットマンに続き、ブッシュ政権の元閣僚としては3人目となる「ケーシック支持者」が誕生したのは、ブッシュ政権の大統領副報道官だったダフィーがケーシック陣営の広報幹部を務めていることと、ジェブ・ブッシュが指名争いから撤退したことで「反トランプ派」にとってケーシックが「最後の頼みの綱」となったことが理由でしょう。


 ◆「ブッシュ系」から支持される理由

 2月末現在、共和党の指名争いでは「アウトサイダー(非主流派)」のトランプとカーソン、「社会保守派」のクルーズ、そして「主流派」のルビオとケーシックが戦いを繰り広げています。
 今でこそルビオは「主流派」「穏健派」の候補と紹介されていますが、もともとは保守系草の根運動「ティーパーティー」の支援を受けて当選した政治家です。2010年に初当選した「1回生議員」なので仕方がありませんが、一般教書演説に対する反対演説で水を飲んだこと以外にはこれといった実績もなく、政治手腕は未知数だと言わざるを得ません。ジェブ・ブッシュと同じフロリダ州が地盤であることや、まだ44歳という世代の問題もあり、「ブッシュ系」のベテラン政治家がルビオではなくケーシックを支持するのは常識的な展開だといえます。


 ◆「地元で負ければ『試合終了』」


 2月28日、CNNの『ステート・オブ・ザ・ユニオン』に出演したケーシックは、「私は他のどの候補よりもヒラリー・クリントンに勝利できる候補だ」と強調した上で、「各候補は自分の地元で勝たなければいけない。私はオハイオ州で勝利するつもりだ。もしオハイオ州で勝てなければ、『試合終了』となる」と語りました
 ケーシックが自身の撤退を匂わすのはこれが初めてではありません。2月9日のニューハンプシャー州予備選直前、ケーシックは「この州で結果を残せなければ撤退する」と宣言していました
 政治家が退路を断つことは「生殺与奪権」を外部に委ねることです。「それならば救ってやろう」と支援を集めるかもしれないし、「息の根を止めてやろう」と止めを刺されるかもしれません。政治家としては「最後の切り札」ですが、ケーシックのような知名度も支持率も高くない候補はこのような手段で自身の存在をアピールするしかないのでしょう。


 ◆「私たちの戦い方がある」


 同じ番組で、ケーシックは「スーパーチューズデーは全州でトランプが勝利するだろう。だが、私たちには私たちの戦い方がある」とも語っていました。
 彼のいう「私たちの戦い方」とは、地元・オハイオ州の予備選で勝利を収め、以後は「トランプ対ケーシック」の構図を醸成するという戦略です。一対一のムードを演出し、「反トランプ」「非トランプ」票を大量に取り込もうという思惑でしょう。
 この戦略は決して空想的なものではありません。2月24日にボールドウィン・ウォレス大学が発表した調査結果によると、オハイオ州でのトランプの支持率は31%、ケーシックの支持率は29%で、わずか2ポイントしか変わりません。トランプとケーシックの一騎打ちであれば「38%:55%」でケーシックが勝利するとの予測も示されました。同大学がオハイオ州の大学であることを差し引いても、オハイオ州でケーシックがトランプを打ち負かす可能性が高いことが分かります。


 ◆「クリントン圧勝」は吉報

 これに対し、ルビオは地元・フロリダ州の予備選でトランプに勝利できそうもありません。あらゆる世論調査でトランプに約20ポイント引き離されているばかりか、調査によってはクルーズに支持率を抜かれているほどです
 もっともクルーズは地元・テキサス州の予備選で勝利する可能性が高く、各州予備選で「トランプに勝てるかもしれない候補」はケーシックだけではありません。そもそもクルーズは2月1日のアイオワ州党員集会でトランプに勝利しており、現時点で唯一「トランプに勝ったことのある候補」です。ケーシックが独自色を発揮するためには「トランプに勝てるかもしれない」だけでなく「本選でクリントンに勝つ可能性が最も高い」こと(詳しくはこちら)も強調する必要があります。
 その意味で、民主党のサウスカロライナ州予備選(2月27日)におけるクリントンの圧勝は、一時的にせよ「ケーシック登板」の必要性を高めました。「対岸」でのクリントンの勝利は、ケーシック陣営にとっては吉報だったといえるでしょう。



 ――「ケーシックの大統領選」シリーズも今回で3回目となりますが、前回、前々回とは異なり、今回は予備選の結果に触れていません。それもそのはず、この文章を書いているのは2月29日(日本時間)。3月1日のスーパーチューズデーまではあと1日あります。ケーシックが語っていた通り、すべての州(またはほぼすべての州)でトランプが勝利を収めることになるでしょう。その結果を記すためだけに記事の公開を「待つ」必要はないと判断しました。

 その代わり、今回はケーシックの言動を読み解いてみたつもりです。日本でケーシックは無名の存在ですが、少し知っている方からはしばしば「まとも」な候補として言及されます。しかし何を根拠に「まとも」と言っているのでしょうか。もちろん、私は彼のことを「まとも」ではないと言いたいわけではありません。ただ、一部の言動を表面的になぞっただけで「まともである」「まともではない」などと結論付けてしまうことの危うさや「つまらなさ」を指摘しておきたいのです。


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2016年02月22日

優しい「ハグ」をサウスカロライナで ―ケーシックの大統領選(2)


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▲ 支持者を前に演説するケーシック (2016年2月13日)


 ニューハンプシャー州予備選で2位に浮上したジョン・ケーシックは、2月20日のサウスカロライナ州予備選では得票数5位に終わりました。しかし、保守的な有権者の多い南部州での苦戦は織り込み済みだったためか、ケーシックとその支持者たちからは不思議と悲壮感は見受けられません。

 サウスカロライナ州予備選でも「ドラマ」がありました。
 雪だらけだったニューハンプシャー州から、太陽が燦々と輝くサウスカロライナへ――。「軍人や退役軍人が多い」この州でケーシックがどのように戦ったのか、時系列に沿って振り返ります。
 
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 ◆「過小評価されるのは大好きだ」


 ニューハンプシャー州予備選での「勝利」から一夜明け(詳しくはこちら)、ジョン・ケーシックは、CBSで放送されている朝の情報番組『ディス・モーニング』の生中継に出演し、「これまで人々は私について色んなことを言ってきた。『彼は支持率を上げられない』『近々撤退する』『指名争いから姿を消す』――。しかし、私は今ここにこうしている。過小評価されるのは大好きだ」と語りました。
 初めて連邦下院選に出馬した際、ケーシックは「当選するのは無理だろう」と評されました。しかし予想に反して激戦を制し、その後は9回連続で選挙を勝ち抜いています。オハイオ州知事選挙に出馬した際も苦戦が予想されましたが、結局は現職の知事を打ち破って勝利を得ました(詳しくはこちら)。
 「彼は近々撤退する」などのネガティブな評判を耳にする度、ケーシックは初めて挑んだ下院選や州知事選を思い出していたに違いありません。


 ◆テレビCMC 『100日間』


 2月12日、ケーシック陣営は、サウスカロライナ州予備選に向けて2本のテレビコマーシャルを公開しました。
 1本目は『100 Days(100日間)』と題されたコマーシャルで、ニューハンプシャー州予備選のために放送された『アメリカはあきらめない』『私たちの出番』と同様のフォーマットです。
 アメリカでは、新政権には100日間の「ハネムーン期間」があるとされています。最初の100日間は新大統領のことをあまり厳しく非難せず、大目に見てやろうという一種の「報道協定」のようなものです。ケーシック陣営はこのコマーシャルの中で、ケーシックならば「ハネムーン期間」のうちに財政健全化も国境警備強化も実現できると訴えました。


 ◆テレビCMD 『癒し』


 『Healing(癒し)』と題された2本目のテレビコマーシャルでは、ケーシック本人が、自分がブルーカラー層出身であること、両親が飲酒運転の犠牲になったこと、しかし両親は心の中では死んでいないことなどを、画面には映らないインタビュアーに向けて語っています。
 このコマーシャルは2014年州知事選時のコマーシャルを再利用したものですが、保守的な有権者が多いとされる南部州で放送するコマーシャルとしては打ってつけのものでしょう。もっとも、後半13秒に映し出されるのはこの大統領選を通じて収録された「新撮シーン」です。


 ◆ホーム・デポ創業者の「乗り換え」

 2月11日、ジョージア州に本社を置くホームセンター大手「ホーム・デポ」の共同創業者、ケネス・ランゴーンがケーシックを支援することが明らかとなりました。ランゴーンはニューハンプシャー州予備選まではクリス・クリスティーを支援していましたが、クリスティーが2月10日に指名争いから撤退したため、ケーシックへの支持に回ることを決めたのです。
 オハイオ州知事のケーシックとニュージャージー州知事のクリスティーはともに「穏健派」であり、政策も支持層もかけ離れてはいません。撤退後、クリスティー支持者の少なからずがケーシックへの支持に流れるだろうことは以前から予想されていました。ランゴーンの「乗り換え」は、その予想が現実になった瞬間であると同時に、選挙資金が潤沢とはいえないケーシック陣営にとっては朗報でした。


 ◆対話集会に押し寄せた聴衆


 ケーシックの「勢い」を裏付けるように、ニューハンプシャー州予備選の翌日(2月10日)から開催されたサウスカロライナ州でのケーシックの対話集会には大勢の聴衆が押し寄せます。特に、2月12日にヒルトンヘッドで開催された対話集会や、2月13日にモールディンで開催された対話集会の参加者の多さは目を見張るものがありました。
 もちろん、ドナルド・トランプの対話集会にはこれ以上の人数が参加したし、マルコ・ルビオやジェブ・ブッシュの対話集会にも同程度の人数が集まっていたでしょう。集会参加者の増加はケーシック陣営固有の現象ではないとはいえ、この時点でケーシックが「勢いの波」に乗り遅れていなかったことは確かです。


 ◆スポーツ選手たちの支持表明


 2月13日の対話集会には、クレムゾン大学フットボールチームの元花形プレーヤーで、現在はカナダのプロチームでクォーターバックとして活躍しているタジャ・ボイドが駆け付けました。ボイドは「彼の価値観、道徳観はすばらしい。ニューハンプシャーで彼は『政府が世の中を変えるのではなく、私たちの心が世の中を変えるんだ』と語っていた。この意見に私は賛同する。きっとサウスカロライナのみんなも賛同できるはずだ」と語り、ケーシックへの支持を表明しました
 スポーツ選手からの支持ということでいえば、元バスケットボール選手のチャールズ・バークレーもすでにケーシックへの支持を表明しています。バークレーは2006年に「バスケットボール殿堂入り」を果たし、2011年に「NBA史上50人の偉大な選手」の一人に選ばれた国民的英雄です。バークレーやボイドのようなスポーツ界のセレブリティから支持を得ていることは、「地味」な印象を持たれがちなケーシックにとってはこの上ない好材料でしょう。


 ◆サウスカロライナでの討論会


 2月13日、CBSニュース主催の共和党候補討論会がサウスカロライナ州で開催されました。同州予備選を控えて開かれる最初で最後の討論会です。
 ニューハンプシャー州での討論会では「失態」を演じたルビオ(詳しくはこちら)も今回は復調し、ブッシュもこれまで以上の精彩を放ちました。逆に、トランプがブッシュに対して「世界同時多発テロはジョージ・W・ブッシュ政権時に発生した」「イラク戦争は間違っていた」と攻撃する場面では会場からブーイングが起こり、支持率トップを独走するトランプにとってはやや苦しい討論会となったようです。
 ケーシックはというと、トランプたちの「罵倒合戦」には参戦せず、「アメリカの精神は上からもたらされるものではない。私たちの手の中にあるものだ。この国を癒やすために一緒に頑張ろう」という独自のポジティブなメッセージを発信しました。この「ポジティブキャンペーン」は視聴者の心に訴えかけるものがあったようで、「大統領になる準備ができていると思う候補は誰か」というCBSニュースの世論調査でケーシックは最も高い数字を獲得しています


 ◆アメリカを「癒やす」使命

 最近、ケーシックは演説で「癒し」という単語を頻繁に使用するようになりました。かつて私は「ケーシックは『癒し系』の候補である」「ケーシックが予備選を勝ち抜けるかどうかは、アメリカの有権者がどれほど政治に『癒し』を求めるかにかかっている」と記したことがあります(詳しくはこちら)。
 ケーシックや彼の選挙スタッフが私の文章を読んでいるはずはありませんが、私が以前示唆したように、ケーシックが自らに「アメリカを癒やす」という使命を課していることは明らかです。
 今回の大統領選では、トランプやバーニー・サンダース(民主党)のような「怒り系」の候補が人気を誇っています。彼らの躍進から窺えるのは、アメリカの有権者が政治に「怒り」を求めているということです。ギャラップ社の調査によれば、ここ数年、連邦議会の支持率は10%台前半〜20%台前半の低水準で推移し、昨年(2015年)3月以降に至っては一度も20%を超えていません。


 ◆「もし全員が他人を貶したら?」

 たしかに彼らは、有権者の「怒り」を煽る能力に秀でた類稀なるポピュリストではあるでしょう。しかしマックス・ヴェーバーの歴史的名文句を引用するまでもなく、政治家に求められるのは、理想を現実に少しずつ近づけていくための地道な作業であるはずです。誰かや何かへの「怒り」を代弁したり煽ったりするだけでは決して問題は解決しないのです。
 時系列が前後しますが、2月5日、ケーシックはこんなことを語っていました。「もしすべての候補者が他人を貶すようになったら、誰が人々を導いていくというんだ? 誰が世の中を治めるというんだ?」
 もし有権者が「怒る」ことに疲れ果て、政治に「癒し」を求めるようになったら、その時こそ「癒し系」候補であるケーシックの出番でしょう。


 ◆ケーシック、まさかの支持率「2位」

 2月14日、世論調査会社のARG(アメリカン・リサーチ・グループ)が、サウスカロライナ州での支持率1位(35%)をトランプ、2位(15%)をケーシックとする調査結果を発表しました
 南部州での苦戦が予想されるケーシックが「2位」に浮上するとは俄かには信じがたい事態ですが、対話集会でのあの人だかりを考慮するとまったくあり得ないことでもありません。
 ARGはニューハンプシャー州予備選前もケーシックに有利な数字を発表していました。その調査の精度を疑う向きも多いですが、ニューハンプシャー州予備選でのケーシックの2位獲得を言い当てたのも事実であり、その調査結果を完全に無視するわけにはいかないでしょう。


 ◆ミシガン州での「追及」


 2月15日、ケーシックはサウスカロライナ州を一旦離れ、中西部・ミシガン州へ向かいました。ケーシックは2日間で4つの町を訪れましたが、中でも、イーストランシングで開かれた対話集会には多数の聴衆が押し寄せました
 ミシガン州立大学で開かれた対話集会では、民主党員だという学生から「同性婚についてどう思うか」と質問される場面もありました。当初、ケーシックは「妻と一緒に友人の同性結婚式へ行ったよ。素晴らしい時間を過ごした。素晴らしいシャンパンも飲めた」と冗談交じりに語って質問を処理しようと試みます。しかし、学生が「結婚式に出席しただけでは不十分なのでは」とさらに追及してきたため、ケーシックは「私たちは法律を変えてはいない。裁判所が判断を下した。それがすべてだ」と返答し、その学生とのやり取りを打ち切りました。


 ◆ブッシュ政権元幹部が陣営入り

 2月16日、ジョージ・W・ブッシュ政権で大統領副報道官を務めたトレント・ダフィーが、ケーシック陣営のコミュニケーション対策顧問に就任しました
 ダフィーはホワイトハウスに4年間勤め、2006年にスコット・マクレラン報道官が「更迭」された際には後任候補にも名前が挙がった人物です。現在は「HDMK」というコミュニケーション関連のLLC(有限責任会社)でパートナーを務めています。ちなみに、オハイオ州知事のケーシックにとっては頼もしいことに、生まれも育ちもオハイオ州だとのこと
 ブッシュ政権の広報責任者の一人だったダフィーがケーシック陣営に加わったのは、サウスカロライナ州予備選での「ジェブ・ブッシュ対策」である以上に、「長期戦」に耐え得るその高い実務能力を買われてのことでしょう。


 ◆「ベンガジ事件」目撃者が陣営入り

 同じ日、アメリカ国務省に22年間勤めたグレゴリー・ヒックスも、ケーシック陣営の安全保障チームに加わりました。ヒックスは「アメリカ在外公館襲撃事件」が発生した2012年当時の駐リビア首席公使です。
 アメリカで製作された映画がイスラム教を侮辱するものだとして、2012年9月、アラブ諸国の在外米公館が次々と襲撃され、リビアの在ベンガジ領事館ではクリストファー・スティーブンスら4人のアメリカ人外交官が殺害されました。ヒックスは事件発生中にスティーブンスと連絡を取っており、2013年5月の連邦下院公聴会でも事件発生当時の状況を証言しています。
 この事件をめぐっては、在ベンガジ領事館が国務省に警備強化を繰り返し要請したにもかかわらず、要請が無視されていたことが後に明らかとなっています。当時の国務長官だったヒラリー・クリントンは要請を把握しておらず、責任を追及されました。クリントンにとっては最大の「汚点」の一つであり、ヒックスのケーシック陣営入りは「クリントン対策」という側面もあるのかもしれません。


 ◆ケーシックとコルベアの「因縁」

 2月17日、ケーシックは、CBSの看板トーク番組『レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』にゲスト出演します。
 『レイト・ショー』は1993年に放送を開始した番組です。22年間に渡ってホストを務めたデヴィッド・レターマンが昨年5月に降板したため、同年9月からはスティーヴン・コルベアが2代目のホストを務めています(詳しくはこちら)。
 ケーシックは昨年11月にも『レイト・ショー』にゲスト出演しました。その際、コルベアから「あなたはなぜ大麻合法化に反対するんですか? アルコールはいいのに大麻がダメなのはなぜ?」と厳しく追及されています。この時のコルベアの「追及」は内容としてはイチャモンに近いもので、ケーシックも番組内で反論を試みましたが、トーク番組の絶対的な支配者たるホストに反論したところで逆効果というもの。二人の会話は噛み合わず、前回の出演は、ケーシックにとってもコルベアにとってもあまり有益なものではありませんでした。


 ◆3か月ぶり2度目の『レイト・ショー』


 それでもケーシックが再び『レイト・ショー』に呼ばれたのは、コルベアとそのスタッフなりの「気遣い」でしょう。
 それに、コメディ・セントラルの『コルベア・リポート』でジョージ・W・ブッシュ政権を激しく風刺し、共和党保守派の「アホらしさ」をイジり倒してきたコルベアが「理解」を示せる共和党候補は、今やケーシック以外には存在しません。実際、この日のコルベアは「ニューヨーク・タイムズ紙が支持する候補」としてケーシックのことを紹介していました。
 2度目の出演でケーシックはコルベアと観客から極めて好意的に受け入れられ、ケーシックの発言に拍手が送られる場面も何度かありました。もっとも、コルベアは「相手をもてなす」というよりは「相手を利用する」芸風なので、見ていて少し冷や冷やさせられた場面もあります。
 例えば、ケーシックが「人々はもうネガティブなことを聞くのに疲れてきている」と語っている途中に、コルベアが「黙れ!」と叫んだ場面です。この後スタジオの客席から笑いが起こり、コルベアが「あれ? 人々はネガティブな発言(「黙れ!」)に喜んでいるみたいだけど」とドヤ顔をしてオチを付けるのですが、このギャグが成立したのはケーシックが「シャレの通じる」政治家だったからでしょう。


 ◆「薬物に手を出すな」


 ところで、ケーシックはサウスカロライナ州で「薬物に手を出すな」というメッセージを発信し続けていました。対話集会に来ている子どもたちに「薬物をやらないとこの場で誓え!」と迫るケーシックには妙な迫力があります。ケーシックに息子がいないことを考えると、ケーシックは少年たちに「薬物に手を出すな」と迫ることで「お父さん」になり切っていたのかもしれません。
 ちなみに、ケーシックと薬物をめぐってはこんな話題もありました。かつてトランプの顧問だった男性が、「1976年大統領選でケーシックはロナルド・レーガン陣営のスタッフとして働いていたが、薬物問題があったので解雇した」と証言したのです。しかし、この男性はレーガン陣営の幹部を務めていたわけではなく、実際に当時の責任者だった男性は「ケーシックと薬物の関係を耳にしたのは今回が初めてだし、ケーシックは陣営に解雇されてもいなかった」と語っています


 ◆「ヒラリーに最も勝てる候補」

 2月17日、USAトゥデイとサフォーク大学は共同の世論調査結果を発表しました。この調査では各候補の党内支持率だけではなく、いわゆる「本選想定支持率」も調べられました。もし大統領選の本選で「共和党の候補A」と「民主党の候補X」が対決した場合にはどちらかが勝利するか、という調査です。
 共和党の各候補と民主党のヒラリー・クリントンを対決させた場合の「本選想定支持率」は、以下の通りでした
トランプ(45%)クリントン(43%)
クルーズ(45%)クリントン(44%)
ルビオ(48%)クリントン(42%)
ケーシック(49%)クリントン(38%)
 この「本選想定支持率」を見ると、ケーシックは「本選でクリントンに勝利する可能性」が最も高い共和党候補であることが分かります。ケーシック陣営はケーシックを「ヒラリーが最も恐れる共和党候補」と自任してきましたが、世論調査の数字の上でもその「事実」が裏付けられたのです。
 もっとも、選挙戦の先行きが不透明な現時点での本選想定調査は「お遊び」の域を出ません。取扱いには注意を必要とする数字ですが、ケーシック陣営にとっては「伝家の宝刀」になり得る数字だといえます。


 ◆ある対話集会でのハグ


 2月18日、ケーシックはクレムソンで対話集会を開いていました。演説が終わり、いつものように質疑応答の時間が始まります。いくつかのやり取りが進み、最後の質問に立ったのは、ジョージア州から来たという21歳の学生でした
 「これから少し感情的になるかもしれないことをお許しください。といっても、この話は最後にはハッピーエンドを迎えるのでご安心ください」。そうことわってから、その学生は涙ながらに話し始めました。「数年前、僕が『第2の父親』のように慕っていた男性が自殺しました。それからほどなくして僕の両親が離婚。そして、父は職を失いました。それからというもの、僕は長い間、絶望の淵にいました。気持ちがすっかり沈み込んでしまったんです。しかし僕は、信仰と友人に出会ったことで希望を抱くようになりました。そして今、僕は支持すべき大統領候補に出会えています。もしよければ、ありふれたハグをしてもらえませんか」。
 話を黙って聞いていたケーシックはその学生に歩み寄り、両手を回して深いハグを交わしました。


 ◆ミカ・ブレジンスキーの目にも涙


 ケーシックのハグは「感動的な光景」として全米でちょっとした話題となり、三大ネットワークの看板ニュース番組『NBCナイトリーニュース』や『CBSイブニングニュース』でも映像が報じられました。MSNBCで放送されている朝の帯番組『モーニング・ジョー』でこの話題が取り上げられた際には、番組の共同アンカーであるミカ・ブレジンスキーも涙を拭い、ゲストのカティー・ケイに至っては「あれはパフォーマンスではないわ。ケーシックは顔をくしゃくしゃにさせていたもの」と熱弁を振るうほどでした。
 この話題に反応を示したのは映像メディアだけではありません。ハフィントン・ポスト記者のクリスティーナ・ウィルキーは「政治家も実は人間なのだと思い出させてくれた」という表現でケーシックのハグを称賛したほか、作家のジェイ・パリーニも「私は共和党員ではないが、ケーシックが誠実さと知性と慈悲心の持ち主であることは分かる」というコラムをCNN電子版に寄稿しました


 ◆政治家のパフォーマンスと人間性

 政治家の言動には必ずオモテの意味とウラの意味があります。そうでないのならば、その人は一人前の「政治家」とは呼べません。ケーシックのような百戦錬磨のベテラン政治家が「自分は今、テレビカメラにその姿を撮られている」ということを意識していないはずはなく、「これはいいパーフォマンスになるな」と瞬時に判断できないはずもありません。
 しかし、もしもケーシックに「誠実さと知性と慈悲心」が一かけらもなかったのならば、同性婚に関する発言にしても(詳しくはこちら)、ニューハンプシャー州の報道陣との「雪合戦」にしても(詳しくはこちら)、そして今回のハグにしても、決して「感動的な光景」や「微笑ましい動画」として仕上がってはいなかったでしょう。ケーシックの言動から「パフォーマンスっぽさ」があまり感じられないのは、彼自身に優れた人間性が備わっているからでもあるのです。


 ◆ステート紙の支持表明

 対話集会でのハグが影響したわけではないでしょうが、2月18日、サウスカロライナ州の地元紙「ザ・ステート」がケーシックへの支持を表明します。ステート紙は1891年に創刊された同州最大の地元紙です。
 ステート紙は社説に「土曜の予備選(注:サウスカロライナ州予備選)では、有権者は国を導く真の指導者に投票する必要がある。つまり、ジョン・ケーシック知事に投票すべきだ」と記し、ケーシックを積極的に評価しました。サウスカロライナ州でもケーシックは「新聞社から支持されやすい候補」だったのです。


 ◆CNN主催のテレビ対話集会


 2月17日と18日の両日、CNN主催の対話集会が放送されました。各候補が1人あたり40分程度出演し、進行役のアンダーソン・クーパーや会場の参加者から質問を受ける特別番組です。各候補が普段開催している対話集会をテレビ用にデコレーションしたものだといえます。ケーシックは2日目の18日に出演しました。
 この番組の中で、ケーシックはいくつか興味深いことを語っています。例えば、「両親の死が私の人生すべてを変えた」「私はローマ法王の支持者だ」「シングルマザーは真の英雄だよ」「女性に対する暴力を根絶するために戦わなければならない」「判事は法を作る人ではなく解釈する人だ」「大統領になったらクリス・クリスティーを入閣させるかもしれない」などの発言です。
 番組放送後、弁護士出身のコメディアンであるディーン・オベイダラは「CNNで放送された対話集会の『勝者』はケーシックだ。それに比べてトランプとブッシュはどうしようもない」という趣旨のコラムをCNN電子版に寄稿しました


 ◆ティム・アレン、ケーシックを語る


 映画『サンタクローズ』(1994年)や『ギャラクシー・クエスト』(1999年)、『トイ・ストーリー』シリーズ(1995年〜)でおなじみの国民的コメディ俳優、ティム・アレンがケーシックを支持していることはこのブログでも言及してきました。
 2月18日、アレンは、メーギン・ケリーがアンカーを務めるFOXニュースの情報番組『ケリー・ファイル』にゲスト出演し、ケーシックを支持している理由を語っています。「彼は本当に素晴らしい経歴と良心の持ち主だよ。(共和党候補としては)命取りになりかねないことだとは思うけど、彼は共和党員と民主党員の両方から好かれる人物だね」。
 このインタビューでは、FOXニュースの番組であるにもかかわらずスタッフの笑い声が入り込んでいます。ケーシックが「どの党の支持者からも好かれる政治家」だとすれば、アレンは「誰からも愛されるコメディアン」でしょう。


 ◆投開票――熾烈な「4位争い」

 2月20日、サウスカロライナ州予備選の投開票が行われました。
 トランプが得票率33%で1位を獲得したのは大方の予想通りでしたが、開票作業が進むにつれて、2位と3位、4位と5位が激しく競り合う展開になりました。
 2位と3位を競り合ったのはクルーズとルビオです。南部州で影響力が強いティーパーティーや福音派に支えられてきたクルーズが2位につけると思いきや、最終的にはルビオが2位の座をしとめました。といっても得票率は1%しか変わりません(ルビオ:23%、クルーズ:22%)。
 「4位争い」はさらに熾烈なものでした。開票作業中もブッシュとケーシックの順位が頻繁に入れ替わり、最終的な票数こそブッシュのほうが多かったものの、得票率は両者とも同じ8%です。6位のベン・カーソンも7%の得票率を獲得しており、トランプ以外の候補者の票は分散しています。


 ◆ブッシュ撤退表明の「衝撃」


 「アイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナの人々は意志を示した。私はその決断を尊重する。だから今夜、私は選挙戦を中止する」
 開票作業が進む中、ケーシックと「4位争い」を演じていたブッシュが指名争いからの撤退を表明しました。
 それは、20世紀から21世紀にかけてフロリダ州知事を務め、元大統領の父と兄を擁すブッシュ家の「最高傑作」と評され、昨年の今頃は「本命候補」との呼び声が高く、圧倒的な資金力を誇っていたものの、指名争いでは一度も「勢い」をつけられずに低迷し続けてきたジェブ・ブッシュが、ついに選挙戦から身を退くことを決めた瞬間でした。
 3月15日のフロリダ州予備選までは選挙戦を継続するとの見方も強かっただけに、ブッシュの撤退表明は「想定内の衝撃」をもって報じられています。


 ◆そして「ジェブ!」はいなくなった


 「ブッシュ撤退」の報せに接したケーシックは、これまでブッシュ陣営から激しいネガティブキャンペーンを受けてきたことを念頭に置いてか、「ジェブ・ブッシュは毎日激しく戦っていた。彼は偉大な知事であり、偉大な男だ」というコメントをSNS(Facebook/Twitter)に投稿しました。
 サウスカロライナ州予備選の開票作業を受けてのスピーチでは、「お世辞でも何でもなく、ジェブは偉大な男だ。彼のお兄さんも、お母さんも、そして家族全員が――ブッシュ家の人々は最高だ」と語り、ブッシュとその支持者たちを持ち上げました。あわせて、「最初は16人が指名を争っていた。そして今、『ファイナル・フォー』(最後の4強)に絞られた」とも語り、自身はまだまだ選挙戦を継続する意向であることを強調しました。
 面白いのは、ケーシックがカーソンを切り捨てて「『最後の4強』に絞られた」と述べた一方、ルビオがケーシックを切り捨てて「これで3人の争いになった」と述べていることです。今後、旧ジェブ支持者の多くはルビオへの支持に流れるでしょうが、一定数はケーシックへの支持にも回るでしょう。ルビオにとってケーシックは「目の上のたんこぶ」なのです。



 ――後からこの大統領選を振り返るとき、サウスカロライナ州予備選は「ジェブ・ブッシュが撤退した予備選」として言及されることになるのでしょう。2月19日に発表されたNBC/WSJの世論調査では支持率13%だったブッシュが得票率8%で終わったのは、ルビオがブッシュの支持層を吸収したからです。例のハグがケーシックの評価を高め、ブッシュの人気を削いだわけではありません。

 それでも「ケーシック専門家」の私としては、この予備選を「ブッシュが撤退した予備選」ではなく「ケーシックのハグが感動を呼んだ予備選」として記憶しておこうと思います。予備選で5位に終わったのにケーシックの支持者たちに悲壮感がなかったのは、ケーシックとハグを交わしたあの学生同様、彼らが自分たちの支持する候補の人格に「希望」を見出しているからなのかもしれません。


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ニューハンプシャーで叶えた「悲願」 ―ケーシックの大統領選(1)
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2016年02月13日

ニューハンプシャーで叶えた「悲願」 ―ケーシックの大統領選(1)


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▲ 投票日前夜、支持者を前に演説するケーシック (2016年2月8日)


 今月(2016年2月)1日、米大統領選の予備選が幕を開けました。

 9日に実施されたニューハンプシャー州の共和党予備選では、ドナルド・トランプが1位(35%)、ジョン・ケーシックが2位(16%)となりました。
 ケーシックはニューハンプシャー州予備選で2位になることを目標に掲げ、テッド・クルーズやマルコ・ルビオ、ジェブ・ブッシュらと競っていたので、今回の2位獲得は「悲願の大勝利」ということになります。
 過去半世紀以上に渡り、ニューハンプシャー州予備選で2位以内に入らずに党の指名を獲得した候補はいません。全米支持率が数%に満たないケーシックが2位に浮上したことで、ケーシックの注目度はますます高まっています。

 それでは、ケーシックがニューハンプシャー州でどのような選挙運動を展開したのか、時系列に沿って振り返ることにしましょう。

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 ◆昨年からニューハンプシャー州入り


 ケーシックは当初からニューハンプシャー州予備選に勝負をかけ、昨年(2015年)から何度もニューハンプシャー州を訪れていました。
 妻・カレン、そして双子の娘・エマとリースもニューハンプシャー州に「投入」し、文字通りの総力戦を展開しました。保守的な有権者の多いアイオワ州の党員集会(2月1日実施)に力を注ぐのではなく、無党派層の多いニューハンプシャー州で2位の座を獲得することで、大統領選の共和党候補を決める指名争いに一気に「浮上」しようという戦略だったのです。


 ◆テレビCM@ 『アメリカはあきらめない』


 年が明けて1月3日、ケーシック陣営は、ニューハンプシャー州で初めてのテレビコマーシャルを公開します。タイトルは『America: Never Give Up(アメリカはあきらめない)』。「アメリカは超大国の地位をあきらめないし、ケーシックも大統領選をあきらめない」というメッセージを込めたものです。
 このコマーシャルはよくできています。前半でケーシックの経歴を簡単に紹介することで、「そもそもケーシックって誰?」という一般有権者の疑問に答えているのです。ちなみに、冒頭で使用されているイメージ映像は、2014年州知事選時のコマーシャルを流用したものです。
 このコマーシャルでは、まず、ケーシックがブルーカラーの家庭の出身であること、ケーシックが「ホワイトハウスに立ち向かった下院議員」であったこと、オハイオ州知事として財政再建を果たしたことが触れられています。
 これは、生まれつきのエリートを敬遠し、エスタブリッシュメント(支配層)を憎しみ、財政問題を重要視する今日の有権者をあからさまに意識したものです。もっとも、ケーシックが「ホワイトハウスに立ち向かった下院議員」であったかというとやや疑問符がつきますが(詳しくはこちら)。
 コマーシャルの終盤では、ブルーカラー層の白人男性、白衣を着た黒人女性、妙齢の白人女性、ヒスパニック系と思しき男性を映し出し、多様な人種・階層への配慮も欠かしませんでした。


 ◆対話集会を重ねる「地上戦」
 

 1月6日、ケーシックは、ニューハンプシャー州で50か所目となる対話集会を開催しました
 大きなイベントを散発的に開催するドナルド・トランプとは対照的に、ケーシックは、小さな対話集会を重ねる「地上戦」によって有権者からの支持を得ようとしたのです。これは昔ながらの「正攻法」の選挙戦略であると同時に、支持率どころか知名度が低いケーシックにとっては唯一の選択肢でした。


 ◆ロブ・ポートマンの支持表明


 1月9日、オハイオ州選出の連邦上院議員ロブ・ポートマンがケーシックへの支持を表明します。ポートマンは連邦下院議員を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権で米通商代表、米行政管理予算局長官を歴任した共和党の中心人物です。息子が同性愛をカミングアウトしたことをきっかけに、同性婚の反対派から支持派に転向したことでも知られています。
 オハイオ州選出上院議員のポートマンが、オハイオ州知事のケーシックを支持することはおかしなことではありません。両者の選挙コマーシャルで使用されているBGMが同じ(ケーシック/ポートマン)であることからも、両者の「裏方」は重複しているものと考えられます。ポートマンが大統領選候補として誰かを支持しなければならないとしたら、よほどの事情がない限り、ケーシックを支持するのは自然な成り行きです。
 しかし、このタイミングでの支持表明は、ポートマンにとっても一つの「賭け」でした。この時期はまだ、ケーシックが躍進する可能性が高まっていた時期ではありません。むしろ、この時期にポートマンが支持を表明したことで、ケーシック陣営は安定化し、ケーシックは同州で躍進を果たすことができたといえそうです。


 ◆世論調査で「2位」にランクイン


 1月上旬から中旬にかけて、ケーシックは、ニューハンプシャー州内で実施された3つの世論調査で支持率「2位」にランクインします。
 たかが世論調査の数字にすぎないと考える向きもあるかもしれませんが、ケーシックのような支持率の低迷してきた候補にとっては、世論調査で上位に浮上することは「実戦」に弾みを持たせるエンジンです。選挙戦を支えるボランティアたちは「自分がこの候補を支持してきたのは間違っていなかった」と自信を抱き、迷うことなく選挙運動に励むことができるようになります。選挙運動の目的が選挙で「勝利すること」(ケーシック陣営の場合は「2位となること」)である以上、これは当然のことでしょう。


 ◆ニューヨーク・タイムズ紙の「支持」

 アメリカでは大統領選に際して、大手紙が特定の候補への支持を表明することが慣例となっています。ボストン最大の日刊紙であるボストン・グローブ紙は、1月25日、ケーシックへの支持を表明しました。同紙の社説はケーシックを「和解を重視する中立的な保守派」と賞賛し、「本選で最も勝利に近い共和党候補」だと指摘しています。
 1月31日には、全米3位の発行部数を誇るニューヨーク・タイムズ紙が、民主党ではヒラリー・クリントン、共和党ではケーシックを支持すると表明。もっとも、同紙はクリントンを「現在、最も大統領にふさわしい」と積極的に支持する一方、ケーシックに対しては「共和党内では唯一のまともな選択肢」と消極的に評価するのみで、ケーシックの名前が最初に登場したのは社説の6段落目です。ニューヨーク・タイムズ紙がケーシックを支持したのは、あくまでもトランプやクルーズに対する批判の裏返しにすぎませんでした。


 ◆「ジェブ!」のネガティブキャンペーン

 ケーシックの台頭に恐れをなしたのか、同じ「主流派」の一人であるジェブ・ブッシュのスーパーPAC(特別政治活動委員会)は、ケーシックに対するネガティブキャンペーンを本格化させました。『クイズ――全米で最悪の知事は誰でしょう』というコマーシャルを公開し、「主流派」代表にふさわしいのはケーシックでもマルコ・ルビオでもなく自分だと強調し始めたのです。
 ただし、ブッシュ陣営ほど露骨ではないにしても、ケーシック陣営もブッシュを揶揄するコマーシャルを制作しています。『「ジェブ!」に何が起きたのか』と題されたコマーシャルの冒頭では、ブッシュの人気のなさに触れていました。ちなみに、「ジェブ!」とはブッシュ陣営のキャッチコピーで、元大統領の父(ジョージ・H・W・ブッシュ)や前大統領の兄(ジョージ・W・ブッシュ)に連なる「ブッシュ」というファミリーネームを隠す意図があるとされます


 ◆テレビCMA 『私たちの出番』


 1月28日、ケーシック陣営は、ニューハンプシャー州で第2弾となるテレビコマーシャル『Our Time(私たちの出番)』を公開しました。
 名もなき――しかし、勇敢な――人々こそがアメリカを支えてきたこと、そしてケーシックもそのうちの一人であることを印象付けるとともに、第1弾のコマーシャルでは触れられなかった「雇用」「国防」の問題にも軽く触れています。


 ◆アイオワ州での「無気力試合」


 1月下旬、ケーシックはニューハンプシャー州を一旦離れ、2月1日に党員集会が実施されるアイオワ州を訪れます。ケーシックの対話集会にはアイオワ州選出のベテラン上院議員チャック・グラスリーも駆け付け、財政再建の実績をもつケーシックを称えました。とはいえ、グラスリーはケーシックを支持していたわけではなく、トランプやルビオの集会にも参加して「応援演説」を行っています。
 無党派層の多いニューハンプシャー州に勝負をかけていたケーシックにとって、保守派の多いアイオワ州での党員集会は半ば「無気力試合」でしたが、結果として代議員を1名獲得できたところをみると、アイオワ州での選挙活動も決してムダではなかったようです。


 ◆「最後の1週間」の始まり


 アイオワ州での戦いが終わり、ケーシックは名実ともにニューハンプシャー州での選挙活動に総力を注ぎ込めるようになりました。予備選前「最後の1週間」の始まりです。
 ケーシック陣営が2月2日に公開したビデオでは、共和党ニューハンプシャー州支部元委員長ファーガス・カレンがケーシック支援の理由を語っているほか、高校生か大学生と思しき青年も「大統領に最もふさわしい人物だと思うので、僕はジョン・ケーシックを支持している」と話しています。若年層からはあまり人気のない候補だと思われがちなケーシックですが、それはあくまでも相対的な話であって、現実には「若い支持者」や「若いボランティア」も大勢いるのです


 ◆「ピンク・フロイドを再結成させる」


 2月2日、ケーシックはCNNによるインタビューの中で、少し風変わりな「公約」を発表しました。もし自分が大統領になったら、大ファンであるピンク・フロイド(現在は活動停止中)を再結成させると話したのです。この発言は日本の一部メディアでも報道されました
 もっとも、これは「最も素晴らしかったコンサートは何か」という質問に応じて繰り出された軽口にすぎず、実際の選挙公約でもなければ、音楽ファンの人気を取り込むためのパフォーマンスでもありません。ケーシックによると、「アメリカはこれだけ財政面で問題を抱えてるんだから、さしあたって1曲目は『マネー』からいってほしいとお願いするつもりだよ」とのことです


 ◆ランド・ポールの選対顧問が「移籍」

 アイオワ州党員集会の翌々日、ランド・ポールが指名レースからの撤退を表明しました。それも束の間、ポールの選対顧問だったマイク・ビウンドという人物が、今度はケーシック陣営の選対顧問に就任します。なお、選挙スタッフの「移籍」をめぐるあれやこれやに興味がある方には、ジョージ・クルーニー監督の映画『スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜』(2011年)がおすすめです。
 ビウンドは、2012年の大統領選ではリック・サントラムの選対に勤めた後、本選の共和党候補に選出されたミット・ロムニーの選対に移動しました。今回、ポールが撤退したことで「他の陣営からも声が掛かった」そうですが、ケーシック陣営に加わることを決めたそうです
 ケーシック陣営の発表した声明によると、ビウンドはニューハンプシャー出身で、1996年大統領選のニューハンプシャー州予備選ではパット・ブキャナンを2位に押し上げることに貢献したとのこと。まさに、ビウンドは「ニューハンプシャー要員」だったといえます。


 ◆黒人テレビ司会者が支持表明


 2月4日、テレビ司会者モンテル・ウィリアムズがUSAトゥデイに寄稿し、ケーシックを支持すると発表しました
 ウィリアムズは、1991年から2008年まで『ザ・モンテル・ウィリアムズ・ショー』という人気トーク番組のホストを務めた黒人男性です。オプラ・ウィンフリーやエレン・デジェネレスほどではないにしても、元海軍兵士という経歴も手伝って、言動にはそれなりの影響力があります。米国立教育委員会と協力し、映画『それでも夜は明ける』(2013年)の背景となった「奴隷制度」の歴史に関する教育を、高校の義務教育課程に組み込ませたこともありました
 声明の中で、ウィリアムズは「私は90年代初頭に共和党を離れたが、今、再び戻ってきた。なぜなら、ケーシックが大統領選に挑んでいるからだ」「ケーシックは共和・民主両党とともに働くことのできる『大人』である」「差別的偏見と誇大広告が渦巻く大統領選の中で、彼だけが正気を保っている」と記しました。さすがトーク番組を長年仕切っていただけあって、その声明には説得力があります。


 ◆テレビCMB 『仲間になろう』


 2月5日、ケーシック陣営は第3弾となるテレビコマーシャル『Join Me(仲間になろう)』を公開します。ニューハンプシャー州予備選用としては最後に制作されたコマーシャルです。これまでの2つのコマーシャルとはテイストが異なり、ケーシック本人が視聴者に語りかけています。
 「私は支持に値する人間なので、私に投票してほしい」という真摯なメッセージを穏やかに、しかし力強く伝えるこのコマーシャルは、ケーシックへの支持を決めかねていた有権者にとっては「決定打」になったかもしれません。


 ◆「シュワちゃん」との電話対談


 同じ日、ケーシックは、前カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーと電話で対談しました。ケーシックとシュワルツェネッガーは以前から盟友関係にあり、昨年10月にも面会しています。電話対談の模様はインターネットで中継され、シュワルツェネッガーは「恐れを感じず、痛みを感じず、敵をやっつける。そして絶対にあきらめない。君こそが『ターミネーター』だ」「君は、私が小切手帳を預けられる唯一の人物だよ」とケーシックを持ち上げました。
 明確な支持表明の言葉こそありませんでしたが、ケーシック陣営にとっては単純な「支持表明」以上に価値のある対談となったかもしれません。


 ◆「副大統領狙い」疑惑を否定


 この頃、ケーシックはCNNのインタビューで興味深いことを述べています。「本当は『副大統領候補』に指名されることを狙っているのではないか」という噂について、「私はわが道を行く人間だから副大統領には向かない。もし私が副大統領に就任したら、史上最悪の副大統領になるだろうね。(現職副大統領のジョー・)バイデンよりも悪い大統領になるだろう。副大統領候補の指名を受けるつもりもないよ」と語り、副大統領候補になる意向を明確に否定したのです。
 もっとも、これはニューハンプシャー州予備選を直前に控えての発言です。「私は最初から副大統領狙いなので、大統領候補の指名争いは敗れても構わない」などと答えるはずはありません。しかし、「もし私が就任したら、史上最悪の副大統領になるだろう」と語る素材をテレビ局に提供したことは、仮にケーシックが「副大統領候補」の指名を受諾した場合には悪材料となることでしょう。


 ◆ルビオ、悪夢の討論会


 2月6日、ABC主催の共和党候補討論会が行われました。9日のニューハンプシャー州予備選前では最後となる重要な討論会です。ケーシックは、「新大統領には『ハネムーン期間』(メディアが新政権への批判を猶予する期間)があるが、自分は1日目から仕事をする用意がある」と語り、他の候補と比べて自分がいかに有能であるかをアピールしました。
 ただし、この討論会の最大の見どころは、1日のアイオワ州党員集会で善戦したルビオが「失態」を演じてしまったことでしょう。同じフレーズを一晩で3回も繰り返してしまっただけでなく、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーから「暗記してきた25秒間のスピーチを繰り返しているだけじゃないか」と追及され、動揺の色を隠せなかったのです。それまで勢いに乗って支持を広げていたルビオにとっては、悪夢のような晩となりました。


 ◆対話集会100回を達成


 同じ日、ケーシックは州内100か所での対話集会開催を達成し、他のどの候補よりもニューハンプシャー州で対話集会を開催した候補となりました。
 100か所目の集会を開催する直前、ケーシックは報道陣たちと「雪合戦」を繰り広げています。一歩間違えれば「あざといパフォーマンス」と侮蔑されかねない行為ですが、実際に動画を見ると「ケーシックは本当に純朴な人なのかもしれない」と思わされるから不思議です。映像は何が「本物」で、何が「偽物」かを如実に映しだします。もしもケーシックに純朴さが一かけらもなかったならば、「雪合戦」の動画は微笑ましいものとはなっていなかったでしょう。


 ◆「名物集落」でトランプに勝利


 そして迎えた運命の2月9日――。ニューハンプシャー州予備選の投票日です。
 州内のどこよりも早く開票が行われたディックスビルノッチは州北部の小さな町で、今回の総投票者数はわずか9名。民主党側はバーニー・サンダースが票を独占しましたが(クリントンは0票)、共和党側は2人の候補に票が割れました。
 その内訳はというと、ケーシックが3票、トランプが2票。――そう、この小さな集落で、ケーシックはトランプを破って首位に立ったのです。この結果は全米のメディアで速報され、日本でも共同通信が「名物集落でケーシックが勝利」との記事を配信しました。小さな集落での出来事とはいえ、ケーシックの地道な選挙活動の効果を感じさせられます。


 ◆「たかが選挙じゃないか」


 投票日の朝、ケーシックはCNNの番組に生出演しました。ブッシュ陣営がケーシックに対して激しいネガティブキャンペーンを展開してきたことついて聞かれると、「たかが選挙じゃないか。もっとリラックスしてほしい。ブッシュ派の人々(Bush people)は落ち着いて」と笑顔で語り、「大人の対応」を見せました。
 「たかが選挙じゃないか」というフレーズは、もしかしたら、サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督の「たかが映画じゃないか」という台詞に匹敵するほどの名言かもしれません。初めての選挙で「勝つのは無理だ」と評され、選挙区を二分する激しい選挙戦を演じ、それでも一度も落選したことのない政治家・ケーシックが言い放つからこそ重みのあるフレーズです(詳しくはこちら)。
 この対応は、自身へのネガティブキャンペーンの「火の粉」を振り払う方法として最も適切なものだったといえるでしょう。相手の土俵に乗っかってしまうと、がっぷり四つの「泥沼の戦い」が始まってしまいます。自分にネガティブキャンペーンを仕掛けてくる相手には、できるだけ「独り相撲」をとらせることが肝要なのです。


 ◆「ポジティブキャンペーン」とは何か


 ネガティブキャンペーンに真正面から「向き合わなかった」ケーシック陣営が展開したのは、ネガティブキャンペーンならぬ「ポジティブキャンペーン」でした。他の候補の批判をせず、楽観主義的な信念に基づき、「アメリカはあきらめない。アメリカの未来は明るいし、私たちの手でいくらでも明るくできる」という前向きなメッセージを繰り返すという戦略です。
 この「ポジティブキャンペーン」は、ロナルド・レーガンの時代を忘れられない有権者にとっては魅力的なものでしょう。今やレーガンはアメリカで最も尊敬される元大統領であり、「Make America Great Again!(偉大なアメリカを再び)」というスローガンを掲げるトランプが圧倒的支持を誇っている理由の一つも、有権者が「レーガン離れ」をできないことにあります。そして何よりアメリカでは、レーガンの訴えた楽観主義は時代を超える普遍的な思想であり、熱心な共和党員にとってはとりわけ重要な思想なのです(詳しくはこちら)。


 ◆ケーシックはレーガンの後継者?

 もちろん、ケーシックは連邦下院議員時代に何度もレーガンと面会したことがあります。今回の大統領選候補の中で、少なくとも政治家同士としてレーガンと関わっていたのはケーシックだけでしょう。ケーシックは以前にもレーガンとの関わりをアピールしていましたが、2月に入ってからは、レーガンと自身を重ね合わせるような発言もするようになりました
 党内から「本当に保守派なのか」「RINO(Republican In Name Only=名ばかりの共和党員)ではないのか」という疑念を抱かれがちなケーシックにとって、「ポジティブキャンペーン」を徹底し、自身をレーガンの真の後継者として周知させるのは重要なことです。何しろ、共和党員の大統領でありながら「レーガン・デモクラット」(レーガンを支持する民主党員)を生み出したレーガンの後継者ならば、民主党員から人気があっても構わないのですから。


 ◆今後も続く「主流派」争い

 さて、州内の各地で開票が進んだ結果、ケーシックは2位(16%)の座を獲得しました。1位のトランプ(35%)と比べればダブルスコア以上の「敗北」ですが、2位となることを悲願としてきたケーシックにとっては「悲願達成」「大勝利」以外の何物でもありません。地道な選挙活動が報われた瞬間でした。
 アイオワ州の党員集会で善戦していたルビオが5位(11%)に終わったのは、やはり討論会での「失態」が響いたためでしょう。
 ケーシックを激しく攻撃していたブッシュも4位(11%)に留まり、国民的人気の高い母・バーバラを選挙戦に担ぎ出したものの、何とも「微妙」な結果に終わってしまいました。とはいえ、僅差ながらも得票数がルビオを上回り、「本命候補」としての面子は保たれたので、ケーシック対ブッシュ対ルビオの「主流派」代表争いはもう少し続くことになりそうです。
 なお、同じく「主流派」の一人だったクリスティーは代議員を一人も獲得することができず、予備選後、指名争いからの撤退を表明しました。


 ◆ケーシックの「勝利宣言」


 実際のところ、ケーシックが獲得したのは「1位」ではなく「2位」の座ですが、選挙戦を受けてのケーシックのスピーチはさながら「勝利宣言」のようでした。
 スピーチの冒頭、ケーシックはトランプに祝福の言葉を送りました。「反トランプ」のケーシック支持者が集まった会場では軽いブーイングが起こりましたが(もちろんこのブーイングは支持者の「お遊び」ですが)、ケーシックは「……ただし、ディックスビルノッチでは私が勝ったけどね!」と付け加えて喝采を浴びました。そして、「今夜、光(light)がネガティブキャンペーンの暗闇に打ち勝った」と宣言した後、「あなたたちのおかげだ!」と3回繰り返しました(Full)。
 目的は政権を変えることではなくアメリカを変えることであり、それを可能にするのは人々の「心」であるというケーシックのメッセージは、まさに彼のいう「ポジティブキャンペーン」の趣旨を現しています。


 ◆次の舞台はサウスカロライナ

 事実上の「勝利宣言」を終えて、ケーシックは次なる「戦地」サウスカロライナ州に向かいました。現在、サウスカロライナ州ではさっそく各候補の対話集会が開催されています。大統領選の予備選は「長い戦い」であると同時に、撤退しない限りは「休みのない戦い」なのです。
 私の見たところ、もちろんトランプの集会ほどではないにせよ、ケーシックの集会にも想像以上の人数が集まっています。ケーシックの勢いは本物なのでしょうか。
 保守的な南部州での苦戦が予想されるケーシックは、週明けから中西部・ミシガン州でも選挙活動を開始するようです。ケーシックの選対幹部であるトム・ラスは、「南部州のすべての予備選で勝利する必要はないんだ。十分に上手くやればいいだけなんだ」と語っています
 3月15日に実施されるオハイオ州予備選は「勝者総取り」方式(勝者がすべての代議員を獲得する方式)で、オハイオ州知事のケーシックが勝利する可能性が高いので、そこまで生き残れば何とかなるという計算なのでしょう。



 ――本当は、クリスティーの支援者だったホーム・デポ創業者のケネス・ランゴーンがケーシック支援に回ったことや(資金難のケーシック陣営にとってこれは朗報)、ケーシックが新しいテレビコマーシャルを発表したことなどについても触れたいところですが、それはもはや現在進行中の出来事。「ニューハンプシャー編」はこれにてお開きとさせていただきます。

 それにしても、まさか本当にケーシックが「2位」の座を獲得することになるとは。正直、3〜4週間ほど前までは「このブログで次にケーシックのことを書くとしたら、『撤退表明』を受けてのことかもしれないな」と思っていましたもの。選挙では何が起こるか分かりません。これが「ケーシックの大統領選」の始まりかもしれないし、ピークかもしれない。


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