2013年07月30日

キザな“若旦那”撃退法!? 江戸っ子の「了見」感じる『酢豆腐』


今日も、新宿末廣亭 7月下席 夜の部 へ行ってきました。
そうは言っても、春風亭小柳枝師匠の落語をまた聴きたくて……。

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 <本日の番組>

(途中から)
落語:三遊亭遊三 『青菜』

 〜お仲入り〜

落語:春風亭笑松 『強情灸』
俗曲:桧山うめ吉
落語:桂伸治 『たらちね』
落語:(交互) 桂歌丸 『後生鰻』
曲芸:ボンボンブラザース
落語:(主任) 春風亭小柳枝 『酢豆腐』



★遊三 『青菜』
ちょうど「植木屋さん」と呼びかけるところから。
「カルシウム」といった英単語(?)も飛び出す『青菜』。
酷暑の中頑張る“おかみさん”の苦労が強調されていた。

★笑松 『強情灸』
「意地を張る江戸っ子」の小噺から『強情灸』へ。
“熱さ”へのリアクションよりも
“相手の言葉”に対するリアクションが楽しかったなあ。

★うめ吉
昨日同様、品川甚句などから『たまやが取り持つ縁かいな』。
後に上がった伸治師匠によると、
今夜の太鼓は歌丸師匠が叩いていたらしい(!)。

★伸治 『たらちね』
ベテランのやる前座噺はたまらなく面白い。
“八五郎”のウラオモテない正直さ、
日常の一コマとしての「婚姻」をテンポよく描き出す。

★歌丸 『後生鰻』
日替りゲスト、千秋楽は歌丸会長です(初日に続き2回目)。
「陰気・陽気」のマクラから、サゲが独特な『後生鰻』へ。
不条理なブラックユーモアを、美しい日本語でお届け。

★ボンボンブラザース
うめ吉さんに続き、こちらも昨日と同様の内容。
桟敷席に座っていた夏休み中の子どもと
「赤い帽子の投げ合い」をしていて微笑ましかった。

★小柳枝 『酢豆腐』
お待ちかねの小柳枝師匠、「すぐに終わりますので」。
『ちりとてちん』とは似て非なる噺、『酢豆腐』です。
たっぷりと繰り広げられる冒頭の「ぬか漬け」騒動で、
町内の若い男たちの「江戸っ子っぽさ」がスパークする。
キザな“若旦那”にケンカを売られたと感じた男たちは、
「酢豆腐」でもって“若旦那”に「江戸っ子の洗礼」。
「江戸っ子の譲れないもの」を感じる古典落語でした。



――というわけで、小柳枝師匠主任興行の千秋楽。
夏にしか聴けないであろう『酢豆腐』で、
「江戸っ子気分」を存分に味わわせていただきました。

『酢豆腐』という噺の中で
若い男どもが“若旦那”に「酢豆腐」を差し上げたのは、
“若旦那”が癪に障るほどキザな奴で、
英国留学経験を自慢してしまうような不粋な人間だったから。
――『酢豆腐』は、「粋」やら「野暮」やら、
江戸っ子の「了見」「美学」にまつわる噺なのです。

昨日も本日も、私が伺った小柳枝師匠の主任興行で、
「江戸っ子の生き方」をテーマにしたトリネタが聴けました。
くだらないと思われるようなことにこだわり、
自らが「江戸っ子」であることを忘れない江戸っ子たち。
古典落語の中で動き回る彼らは、まさに「人間」そのもの。
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2013年07月29日

小柳枝の解説で納得! 『たがや』のサゲが「たがや」である理由とは


今日は、新宿末廣亭 7月下席 夜の部 へ行ってきました。
主任は、春風亭小柳枝師匠。

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 <昼の部>

(途中から)
落語:(主任) 古今亭寿輔 『お見立て』


 <夜の部>

開口一番:(前座) 瀧川鯉和 『やかん』
落語:春風亭笑松 『六尺棒』
コント:チャーリーカンパニー
落語:(代演) 春風亭柳之助 『粗忽の釘』
落語:三笑亭夢花 『あくび指南』
奇術:北見伸・スティファニー
落語:桂歌蔵 『牛ほめ』
落語:桂文治 『平林』
漫才:東京丸・京平
落語:三笑亭夢太朗 『転宅』
落語:三遊亭遊三 『替り目』

 〜お仲入り〜

落語:(交互) 瀧川鯉八 『雨傘和尚』
俗曲:桧山うめ吉
落語:桂伸治
落語:(交互) 昔昔亭桃太郎 『春雨宿』
曲芸:(代演) ボンボンブラザース
落語:(主任) 春風亭小柳枝 『たがや』



★寿輔 『お見立て』
「花魁も会ってあげればいいんだよなあ」のセリフがある!
寿輔師匠の『お見立て』登場人物は、3人ともニクめない。
途中で英語も飛び出る、明るく愉快な『お見立て』でした。

★鯉和 『やかん』
夜の部開口一番は、鯉昇門下の鯉和さん。
落ち着いていて堂々としている。

★笑松 『六尺棒』
鯉八さんと出番交代で、笑松さんがこの時間帯に登場。
山形のマクラから、ほのぼのとした『六尺棒』です。
こちらの『六尺棒』、本当には火を点けません。

★チャーリーカンパニー
「金持ちになる本」のコント。
キレイにダマされる人間の姿に涙、ナミダ、NAMIDA……。

★柳之助 『粗忽の釘』
笑好師匠の代演は、確かな腕の持ち主である柳之助師匠。
「落ち着けば一人前なんだから」。本当に、ねえ……。
サゲは“喉仏”。

★夢花 『あくび指南』
「今夜のお客様は陽気」という自虐(他虐?)で始まり、
夢花師匠が講師を務める「落語講座」のマクラ。
「ウケないってどういうことだ」のアドリブに申し訳なくなる。
いや、とても面白いのですけど、今夜の客席は静かなのです。

★伸・スティファニー
まず、伸先生のトランプマジック&新聞紙を使った手品。
伸先生のマジックにはいつもニヤニヤさせられてしまう。
続いて、ポロンさんのハイレベルに奇妙なステージ。
……ポロンさん怖いヨー!

★歌蔵 『牛ほめ』
黒紋付き姿が似合すぎる歌蔵師匠の登場です。
マクラは、野方のお地蔵さん&ラーメン二郎について。
ネタのほうは、『牛ほめ』を“おじさんの家”に行く前まで。

★文治 『平林』
『牛ほめ』と先代文治師匠のエピソード(学校寄席)の後、
噺の核心部分(!)にツッコんだ『平林』へ。
とてもとても面白いのだけど、今夜のお客さんは静か(私含め)。

★京丸・京平
本日の衣装はカラフルで素敵。
おなじみの歌ネタを経て、「新婚旅行」のコントでした。

★夢太朗 『転宅』
ここに来て、なんと夢太朗師匠のマクラで客席が盛り上がる!
(どんな内容だったかは見事に忘れてしまったが……。)
“お梅”の頭の回転の速さが際立つ『転宅』も爆笑モノ。
2013年夏、夢太朗師匠がアツい!(……のか?)。

★遊三 『替り目』
家庭内「服従」、老人ホーム、田舎のタクシー、
老夫婦の再新婚旅行など十八番のマクラを経て『替り目』。
冒頭、“おかみさん”は車夫に「少ないでしょうが」とお金を渡す。
遊三師匠って、意外にも(失礼)細かいところに凝ってるんだなあ。

★鯉八 『雨傘和尚』
異様かつ異常な気持ち悪さが素晴らしく面白い!
やっぱり鯉八さんはとてつもない逸材だと思う。

★うめ吉
『品川甚句』他〜『たまやが取り持つ縁かいな』。
雀を追ううめ吉さんにうっとり。

★伸治 『初天神』
「雨が降ってるから今夜はあまり入ってないだろうなあ、と」。
散歩や東久留米に関するマクラの後、『初天神』を“飴”まで。
伸治師匠の『初天神』からは“オトナの余裕”を感じます。

★桃太郎 『春雨宿』
交互出演のゲスト真打ち枠、今夜は桃太郎師匠(2日目)。
マクラでは“気象庁の運動会”が最もウケていた。
常識が消失し、非常識な世界観がほの暗く広がる『春雨宿』。

★ボンボンブラザース
キャンドルの技はとても上手くいっていたのだけど、
棒を使った技でなぜかミスが多かった……。

★小柳枝 『たがや』
主任興行9日目にしてようやく聴きに来れました、小柳枝師匠。
江戸っ子の“食い意地”“生まれ損ない 銭を貯め”に関する小噺、
「黒門町」をはじめとする“落語家の符牒”などを楽しく。
江戸っ子は、“かぎや”の花火にも「たまや!」と声を掛けたという。
「橋の上 たまやたまやの声ばかり なぜにかぎやと 言わぬ錠なし」。
江戸っ子は判官贔屓だからね、稼ぐだけのポッと出は嫌いなんだ。
扇を使って“たがや”の勤勉さを見せ、群衆の掛け合いで笑わせる。
“侍”の間抜けさを的確に描き、観客は「橋の上」へと連れられる。
実に惚れ惚れとする、いつまでも聴いていたいほどの高座でした。



――以前、落語にお詳しい方が
「『たがや』のサゲが“たがや!”なのはおかしい。
 だったら、“たがや”の首が飛んでいるはずだ」と仰っていたけど、
今夜、小柳枝師匠のマクラを聴いて納得、その謎が解けた。
あそこは“侍”の首が飛んで「たがや!」じゃないといけないのです。
(相変わらず私は落語ビギナーだなあ……。)

小柳枝師匠の落語は、
少なくとも私にとってはちょうどいい具合にすっきりしていて、
明るくて、分かりやすくて、そして面白い。

できれば、もっともっともっと小柳枝師匠の落語が聴きたい。
でも、一度にいっぱい聴いたらもったいないような気もする――。
「腹六分目」の幸福感で寄席を出ると、
夜の新宿三丁目、すっかり雨は上がっていました。
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2013年07月27日

P・スタージェス『パームビーチ・ストーリー』が改めて教えてくれるもの


先日、シネマヴェーラ渋谷で
名作『パームビーチ・ストーリー』(1942年)を観てきました。
フレッド・アステア主演『恋愛準決勝戦』(1951年)との二本立て。

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『パームビーチ・ストーリー』といえば
伝説のコメディ映画監督:プレストン・スタージェスの代表作。
DVDソフト化はされていますが、スクリーンで観るのは初めてです。

そして、プレストン・スタージェスといえば
スクリューボールコメディの“神様”的存在であり、
「脚本家出身で初めて成功した映画監督」ということになります。



 <あらすじ>

画期的な空港建設を目指しているトム(ジョエル・マクリー)と
その妻=ジェリー(クローデット・コルベール)は、
お互いにお互いを想い合ってはいるのだが、
借金まみれの生活のせいで、どこか気持ちがすれ違ってばかり。

ある日、まだこの夫婦が住んでいるにもかかわらず、
“ソーセージ王”の老人が夫婦の家を購入するため下見に訪れます。
ジェリーが事情を説明すると、気前の良いことに、
なんと“ソーセージ王”は夫婦の借金を肩代わりしてくれるという。

無事に借金を返済するや否や、ジェリーはトムに離婚を切り出します。
「きっと私はあなたの疫病神なのよ。
 借金は返せたのだし、あなたに成功してもらうために離婚する」。
これは方便などではなく妻の本心。かなり変わった奥さんですね。

トムの忠告と制止を振り切って、
「“離婚できる町”=パームビーチ」行きの汽車へと乗り込むジェリー。
列車内で出会った大富豪の御曹司(ルディ・ヴァリー)から気に入られ、
ジェリーは瞬く間に“花嫁候補”にされてしまいます。

ジェリーがいなくなってトムが自宅で困惑していると、
そこに“ソーセージ王”が現れ、「なぜ追いに行かないんだ!」と一喝。
トムはジェリーを奪い返すためにパームビーチへと飛ぶのですが……。



――映画は奇想天外な爆笑シーンの連続で、
特に、列車内での「うずら撃ちクラブ」の暴れっぷりは必見!
この映画にまともな人間は一人も出ていないことを教えてくれます。
まともに見える登場人物でも、ちょっとどこかおかしいのですよ。

終始カラッとした軽快な雰囲気で物語は続き、
よくありがちな「悲しい展開」に向かっちゃわないところが素晴らしい。
登場人物がみな変人だから、上手い具合に感情移入できないのです。
(「登場人物に感情移入できない喜劇」というのは永遠の憧れ……。)

唯一、「背中のファスナー」のシーンには泣かされそうになりました。
トムがジェリーの「背中のファスナー」を下ろしてあげるシーンは
劇中では“最初のほう”と“終りのほう”に2度存在し、
“最初のほう”があるからこそ“終りのほう”が効いてくるのですが、
“終りのほう”の演出は美しくもあり、悲しくもあり、微笑ましくもある。
私が言うのもアレですが、映画史上に残る名シーンだと思います。



物語の終盤では破壊力抜群な笑撃のオチが投下され、
この映画は一応ハッピーエンドで終わるのですが、
やはりそこは「コメディ」で社会と対峙してきたスタージェス監督。
皮肉めいた“もう一槍”を入れることで、
作品そのものの“高級度”を上げているのがさすがです。

映画館のスクリーンで『パームビーチ・ストーリー』を観て、
プレストン・スタージェスという“神様”の傑作から
「コメディ映画」というメディアの究極性を改めて感じさせられました。
そう――、この世が本当に
「いつまでも幸せに暮らしましたとさ」で満ち溢れているなら、
この世でコメディ映画が作られることも求められることもないのです。



――最後に、以前にもこのブログでご紹介したかもしれませんが、
「コメディ」に関する私の好きな文章を書き留めておきます。

米コメディ界の大物プロデューサーであるリック・ニューマンが
『How To Be A Stand-Up Comic』という著書に記した文章です。
プレストン・スタージェス監督『サリヴァンの旅』(1941年)に触れています。

 よくコメディの基本は怒りから来ると言うが、いけ好かない自分の伯母さんにアイス・ピックを向けるよりは、怒りをコメディに転換したほうがいいに決まってる。もし世の中の人全部がこの本を買ったとしたら、もうこれ以上、戦争なんかなくなるだろう。
 『サリヴァンの旅』というプレストン・スタージェスの素晴らしい映画がある。ハリウッドで当たっている映画監督が、大衆喜劇映画を作るのがいやになってしまう。そんなものは、意味がないと思ったからだ。そこでサリヴァンは旅に出る。世間を知れば、もっと「意味のある」悲劇を作れると思ったのだ。結局のところ、悲劇は自分の身に起こることになる。彼はほとんど無一文で囚人になってしまう。
 ある日のこと、囚人たちに映画鑑賞が許される。といっても、漫画映画だ。サリヴァンはこの悲しい男たちの集団が笑いころげるのを見て初めて理解するのだ。人々を笑わせるという才能こそ素敵な素晴らしい天分なのだ。いつの世でもそうなのだ。(高平哲郎訳)
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