2013年06月29日

スマートで遊び心あふれる『柳澤愼一とスイング・オールスターズ』


今日は、成城ホールで開かれた
『成城 Premium Concert
 柳澤愼一とスイング・オールスターズ』へ行ってきました。

20130629_yanagisawa-shinichi_seijyo-hall.jpg


合計2時間ぐらいの二部構成で、客席はほぼ満席。
Tp. は小森信明さん、T.Sax. は渡辺恭一さん、
Cl. は花岡詠二さん、Pf. は小林洋さん、
Ba. は根市タカオさん、そして Vo.&Dr. は柳澤愼一さんです。



まずはベニー・グッドマンの『Let's Dance』でウキウキモード構築。
この曲、小さい頃に好きだったなあ。
続いての『スターダスト』では切なさと優しさを感じさせられます。
そっかあ、切なさと優しさって兄弟だったんだね。
私のカラダにゆっくりと、メロディが染み込んでいく感じがしました。

映画『愛情物語』の主題歌を聴いていると、
「ああ、このまま時の流れに身を任せたい……」と思ってしまう。
そういえば、高校時代、放課後にこの曲を弾いている子がいたっけ。
あの時耳にしたピアノはお世辞にも上手とは言えなかったけど、
なんだか無性に心動かされたことを憶えています。

さらに、柳澤さんがヴォーカルとなって3曲立て続けに披露。
『私の青空』を歌わせたら柳澤さんは日本一!
どこがどう素晴らしいとかじゃなく、ただただ素晴らしいのです。
2曲目『Unchained Melody』もハッキリと心に響いてくる。
「I need your love...」のあたりでは実にゾクゾクさせられました。
締めはおなじみの『ダイナ』を、エノケン先生のモノマネ付きで。
「あれ? エノケンってまだ生きてたんだ」と思いました。



15分間の休憩を挟み、後半はヴァラエティ企画からスタート。
柳澤さんがグレーのちゃんちゃんこを着て登場しました。
『寿限無ソング』〜『活弁』〜『歌舞伎・能狂言』。
三木トリローばりの“冗談ソング”が炸裂。面白かった!
芸に奥行きのある柳澤さんだからこそのパフォーマンスですね。

企画の後は前半同様のジャズ演奏に戻り、まずは『枯葉』。
沁みる、浸る……。良質な空間が作られていきます。
続いて、躍動感あふれる『Jazz Me Blues』。音が楽しんでる!
最後は『グレン・ミラー・メドレー』と題して名曲の数々が披露されました。
音楽を背景に、柳澤さんが三方に無言でお辞儀をしてコンサート終了。
この演出がスマートでカッコよすぎた……。
(アンコールの手拍子はあったけど、アンコールはありませんでした。)



――はじめから終わりまで、紳士的で品があって、
それでいて遊び心に満ちたコンサート(もちろん、柳澤さんご自身も)。
何かと世知辛く、表面だけがなぞられてばかりいるこの世の中で、
決して偉ぶることはなく、そっと優しく届けられた上質で本質な時間。
まさに「至福のひととき」でありました。

例え世相が移り変わっても、素敵な音楽は素敵な音楽のまま変わらない。
他者や自分自身までもが変わっても、素敵な音楽は変わらない。
素敵な音楽は、日々揺れ動いてしまう人間の生命を、
それぞれにちょうどいい方向へ軌道修正してくれているような気がします。
いつだって、音楽は、歌う者と聴く者を素直にしてくれるんですね。


20130629_yanagisawa-shinichi_seijyo-hall_kashi-card.jpg

合唱コーナーで使われた歌詞カード。
posted at 23:59 | Comment(0) | TB(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする |

2013年06月24日

その時、演者が“消えた”!? 正蔵を通して現れる『ねずみ』の世界


今日は、新文芸坐で開かれた
『第四十六回 新文芸坐落語会
 〜看板と新真打たち プラスワン〜』へ行ってきました。

20130624_shin-bungeiza_rakugokai.jpg



 <本日の番組>

落語:春風亭昇々 『生まれる』
落語:三遊亭萬橘 『宗論』
落語:春風亭一之輔 『加賀の千代』

 〜お仲入り〜

落語:立川談修 『夢の酒』
落語:林家正蔵 『ねずみ』



★昇々 『生まれる』
前座さんによる開口一番はなく、いきなり昇々さんから。
昇々さんが仰るように、たしかにこの会場では声が吸われる
(そりゃまあ、映画館だからね)。
マクラにて「ファスナー」ネタなどで笑わせた後、
「今夜、芸協は一人しかいない」と、新作落語『生まれる』を熱演。
夫婦の他に“産婦人科医”も登場していて、
3月に聴いた時よりも完成度の高い『生まれる』でした。

★萬橘 『宗論』
楽屋入りする前、駅前で一之輔師匠に遭遇したという。
ご家庭のエピソードでも会場を暖め、“萬橘ワールド”を下準備。
萬橘師匠の『宗論』は、“若旦那”がぶっ飛んでいるだけでなく、
“大旦那”と“若旦那”の会話のやり取りで笑わせる。
だから、聴けば聴くほど“面白さの渦”に巻き込まれることになる。
現代に媚びていないのに、現代に生きている古典落語――。
萬橘師匠の落語をもっともっと聴きたくなりました。

★一之輔 『加賀の千代』
マクラでは、タイ旅行での「初めてのゴルフ」体験談が語られます。
もうすっかりベテランの風格が漂っていて、
観客からの信頼度の高さを、私自身、観客の一人として感じます。
一之輔師匠の『加賀の千代』では、
“甚兵衛”を犬猫のように可愛がる“ご隠居”が狂おしいほどに可笑しい。
この噺で一番まともなのは“甚兵衛”なんじゃないかと思ってしまう。
さりげないはずのネタが、こんなにラジカルなものになるなんて!

★談修 『夢の酒』
真打昇進後、初めて拝見する談修師匠の高座。
しかも今夜のネタは、小品ながらもなんとも魅力的な『夢の酒』。
パパッとやっちゃえばすぐに終わってしまうような噺だからこそ、
談修師匠は「女の妬きもち」「男の浅はかさ」
「酒好きのこだわり」など複数の要素に焦点を当て、
『夢の酒』を味わいのある落語に再構築しておられました。
談修師匠は、古典落語を軽やかに楽しませてくれる実力派です。

★正蔵 『ねずみ』
今夜のトリは正蔵師匠。まずは「池袋駅 東口と北口の違い」から。
正蔵師匠は本当にピータンがお好きなんですね(笑)。
マクラと噺の切り替えに一瞬ゾクッとする正蔵版『ねずみ』は、
聴くうちにどんどんと噺の中に惹き込まれるような素晴らしい出来。
「人間の悔しさ」と「不条理を受け入れるひたむきさ」が感動を誘う。
分かりやすい語り口によって届けられる、人間と人間と人間。
師匠の高座からは「落語」と「人間」に対する誠実さが伝わってきます。
ちなみに、“番頭”の名前は「マンキツ」でした(笑)。



――人気若手落語家4名と“看板”による今夜の落語会。
最終的には、正蔵師匠の『ねずみ』に心を奪われてしまいました。
私が正蔵師匠の『ねずみ』を聴きながら感じたものは、
「落語を演じる落語家」というより「落語家を通して現れる落語」。
まさに『ねずみ』の世界そのものが高座で展開されていたのです。

落語では、演者によって噺は変わるし、
その高座において「演者が誰であるか」は最も重要なことではある。
だから、もちろん、「演者を楽しむこと」が落語の楽しみ方でもある。
それと同時に、私は「高座から演者が消える」瞬間がたまらなく好きで、
その“瞬間”を作れるのは落語の「達人」「名人」のみだと思っています。

ここでの「演者が消える」というのは
“演者”が持ち時間の途中で逃亡するということではなくて(笑)、
“噺”が「語られる客体」から「語る主体」になるということ。
そんなこと本来はあり得ないはずなんだけど、
そんな不思議なことが、落語という芸能においてはたまに起きるのです。
しかも、「起きた」かどうかは各観客の感覚と判断次第。
いやあ〜、落語って本当に不思議なもんですね(水野晴郎風に)。

今夜の正蔵師匠の『ねずみ』は、
こちらから愉しみに伺うまでもなく、自然と私の心をさらっていった。
私の心は『ねずみ』の世界に連れ込まれ、
気付いたら、私は「落語家」ではなく「落語」を愉しんでいた。
――以上が、今夜の私のだいたいの記憶のうちの一つです。


20130624_shin-bungeiza_rakugokai_bangumi.jpg
posted at 23:59 | Comment(0) | TB(0) | 落語・笑い | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする |

2013年06月21日

明るい漫談を中心に― “夢楽型”とは違う“夢之助型”『蒟蒻問答』


今日は、内幸町ホールで開かれた『JAL名人会』へ行ってきました。

20130621_jal_meijinkai.jpg



 <本日の番組>

開口一番:(前座) 柳家おじさん 『出来心』
落語:隅田川馬石 『粗忽の使者』
落語:立川談慶 『洒落小町』
講談:旭堂南左衛門 『赤穂浪士外伝より 天野屋利兵衛』

 〜お仲入り〜

漫才:おぼん・こぼん
落語:三笑亭夢之助 『蒟蒻問答』


★おじさん 『出来心』
冒頭、紙を取り出して注意事項などを読み上げます。
結構緊張なさっている様子だったかな。
おじさんさんの語り口には、安定感がある。
冒頭での緊張感を少し引きずっていた感があったけど、
今夜の『出来心』も落ち着いて聴くことができました。

★馬石 『粗忽の使者』
マクラは、「安いそばが好き」。
『粗忽の使者』は馬石師匠の得意ネタの一つで、
あのトボけた感じがたまらなく可笑しい。
やっぱり、馬石師匠はアホっぽいキャラがとても上手だ。
単に愚か者なのではなく、そこに清潔さや誠実さが伴っています。

★談慶 『洒落小町』
談志師匠との想い出話などをマクラに織り込み、
その談志師匠の十八番であった『洒落小町』に入ります。
“おかみさん”が実にパワフル。破壊力高し。
猛スピードでの一方的な会話にはただただ畏れ入るばかり。
談慶師匠ならではのクスグリも入れ、聴き応えのある一席でした。

★南左衛門 『赤穂浪士外伝より 天野屋利兵衛』
仲入り前は、上方講談の南左衛門先生。
師匠である3代目南陵先生の“見てきたように嘘を言う”逸話から、
シビれるような『天野屋利兵衛』へ。
はっきりと聴き取りやすい語りの中に滲む、極上の上方弁。
みるみるうちに上方講談の世界に引き込まれてしまいます。
まだ“忠誠”が大事にされていた時代の人情味あふれる物語に、
すっかりハートを鷲掴みされました。

★おぼん・こぼん
仲入りを挟んで、おぼん・こぼん先生が登場。
さすがおぼん・こぼん先生、“空の客”を意識しての高座です。
歌ネタを中心に、内容の充実した漫才。
この日一番の爆笑をかっさらっていたかもしれません。

★夢之助 『蒟蒻問答』
さすが全国を講演会で飛び廻っているだけあって、
マクラでの漫談のレパートリーが多彩。
毎回、少しずつ漫談の内容が入れ替わっています。
持ち時間の半分ほどを漫談で埋め、
後半ではストーリーテリング調の『蒟蒻問答』を。
途中で再び漫談を挟む仕組みなのですが、
円楽独演会と違って今夜は爆笑にはならず……。
演芸って、同じギャグでも客によってウケが変わるから怖い。
それでも、「さて、木蓮寺に……」と噺に戻る場面は大ウケ。
講演会とかだと話はまた少し違うんだろうけど、
“綾小路きみまろ”系の計算し尽くした笑いよりも
“うっかり八兵衛”系のややトボけたアプローチのほうが、
夢之助師匠の落語はより面白さを発揮するのでは……。
“僧”がスラスラと問答を仕掛けるところを聴くと、
ああ、やっぱりこの師匠は「保守本流」だなと感じます。



――夢之助師匠の師匠は三笑亭夢楽師匠ですが、
何を隠そう、『蒟蒻問答』は夢楽師匠の持ちネタでした。
しかし、夢楽型『蒟蒻問答』と夢之助型『蒟蒻問答』は、
サゲ近辺以外は内容がだいぶ異なる。
『シャーロック・ホームズ』と『SHERLOCK』ぐらい違う。
同じ噺でも、師匠と弟子によってその内容が異なるのです。

夢楽型では、寺には“権助”以外に“にわか坊主”が存在し、
この“にわか坊主”が“僧”から禅問答を仕掛けられる。
“にわか坊主”と“権助”の2人が困惑していると、
ちょうど上手い具合にお寺へ“蒟蒻屋の六兵衛”が訪ねてきて、
“六兵衛”のほうから「禅問答に応じてやろう」と言い出します。
終盤、“六兵衛”から禅問答の結果を聞きだすのは“にわか坊主”。

しかし、夢之助型には“にわか坊主”はそもそも登場せず、
ひとり“権助”がボロボロのお寺で遊び呆けています。
お寺へ“僧”が禅問答を仕掛けに来ると、
“権助”が“六兵衛”のもとへ相談に行き、「大和尚」役を頼む。
そして、終盤に禅問答の結果を聞きだすのは“権助”の役目です。

当然、登場人数と場面が多い分だけ夢楽型のほうが長尺であり、
夢之助型は合間の漫談込みでも寄席の15分間でかけられる。
言い換えるならば、ホールでの落語会において
夢之助型『蒟蒻問答』が漫談中心の構成となるのは必然なのです。
漫談の引き出しが豊富な夢之助師匠だからこそ
この“型”で観客を楽しませることができる、ともいえましょうか。



――夢之助師匠の高座は、聴き取りやすく、分かりやすく、
そして、この師匠ならではの明るさに満ちています。
その聴き取りやすさ/分かりやすさ/明るさは、
ダジャレや川柳を織り込んだ漫談で発揮されるのみならず、
直球の古典落語でこそ開花するのではないかと私は思うのです。

こればっかりは“縁”と“運”でしかありませんが、
夢之助師匠にはもっと寄席の定席に出ていただいて、
軽快で楽しい古典落語をたくさん聴かせていただきたいなあ……。


 <おことわり>
このエントリにおける“夢楽型”とは昭和57年11月録音のもの、
“夢之助型”とは平成25年6月口演のものを指しています。
posted at 23:59 | Comment(0) | TB(0) | 落語・笑い | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする |
(C) Copyright 2009 - 2017 MITSUYOSHI WATANABE